第7話 な、なんとお姉さんは増殖した!


 「ロック! あなた、わたしとパーティーを組みなさい!」


 朝まで付き合わされ、昼前まで眠りこけた俺はエリザベスに起こされそう言

われた。

 昨日も思ったんだけどこの子どうやって部屋に入ってきてるんだろ。鍵かけ

たはずなんだけどなぁ。後で聞いてみよ。


 「寝起きで頭が働いてないから話は顔洗ってからでもいい?」

 「わかったわ! それにしてもお寝坊さんね、もうお昼よ!」


 朝まで付き合わせた側がこんなに元気とは。


 この宿の裏には井戸があり近所の人はここを水場として利用している。

 俺がここを定宿じょうやどにしているのは安さもあるが水場が近くにある事も理由の一

つだった。

 一番の理由はおかみさんとおやっさんを気に入ってるからだけどね。


 「ふぇー、つめた。」


 冷えた井戸水を頭から掛け顔を洗うとスッキリとした。布で顔や頭をきな

がら宿の食堂に行くとそこにエリザベスは待ち構えていた。


 「それじゃ話すわよ! こっちへ来なさい」

 「今行くよー。おやっさん、今日のオススメお願い」


 いつもの如くおやっさんは無言で頷き調理に入る。かっこいい。


 「それで突然、パーティーを組もうってどういう事?」


 エリザベスは少し逡巡しゅんじゅんした後、話し始める。


 「この街へ来て、わたしは自分の弱さを痛感したわ。こう見えても今までエ

  リート街道を突っ走ってきたのよ。挫折ざせつなんてした事ないわ。それがあの

  ザマね」


 昨日酔っ払って話した経歴を聞くとエリートなんてもんじゃないもんね。そ

れこそ国が抱え込んでもおかしくないぐらいの才能の塊だと思う。


 「それで気がついたの。わたしが生きてきた世界が全てではなかった事に。

  わたしが知っていたのはちっぽけな世界。わたしはもっと知りたいの」


 一気に話したあと一呼吸してもう一度言った。


 「わたしとパーティーを組んで」


 エリザベスとパーティーを組むメリットはかなり大きい。ソロではできなか

った事が間違いなくできるようになり行動範囲も広がる。

 ただし、デスらないという事をエリザベスが受け入れればだが。


 身を持って知ったがデスるって事は本当に万能なんだ。神様達もよく考え出

したと思うよ。

 だから彼女がデスらずにダンジョン探索する事を受け入れるならパーティー

を組もう。受け入れられないならそれまでだ。


 「一つだけ条件を受け入れられるならパーティーを組んでもいいよ」

 「ほんと!?」

 「まー聞いてよ。かなりつらい事だから」


 ごくりとつばを飲み込み神妙しんみょうな顔でこちらを見ている。


 「パーティーでダンジョン探索をする時に死に戻りは使わない」

 「え? それだけでいいの?」


 気づいていないようなので教える。


 「死に戻りを使わないって事はその分早めに探索を切り上げないといけない

  し何より状態異常や体力の回復もすぐにできないって事だよ」

 「状態異常も体力の回復も魔法があるから平気よ」


 な、なんだと……。頭を殴られたような衝撃だ。


 「ちょっと聞いていい? エリザベスってデスらなくても平気なの?」

 「当たり前じゃない。わたしをそこらの魔法使いと一緒にしないで!」


 クロエ様、神様達ありがとうございます。きっとこれは導いてくれたのかも。


 「それでどっち? 組むの、組まないの!?」

 「組みます! 組ませていただきます!」


 体を乗り出して聞いてきたエリザベスに答えると満足したように腕を組んで

うなずいている。

 フードをしている時はわからなかったけどサラサラの金髪を二つにまとめて

いて、目は切れ長の二重のすごく整った顔立ちをしたエリザベスに近寄られる

とどぎまぎしてしまう。


 こうして俺にとって初めて正式なパーティーメンバーができたのだ。



 「それじゃパーティーメンバーになった事だし改めて自己紹介しよう」

 「そうね。お互いの手の内も知っておいたほうがいいでしょ」


 昨日だいぶ聞いてしまったとは言えないが。


 「俺の名前はロック。最近15才になったばかりだよ。使う武器はいろいろ。

  スキルも一つ覚えた。こんなとこかな」

 「いいわ。わたしの名前はエリザベス。長いからエリーって呼びなさい。年

  は17才、わたしの方がお姉さんよ! 魔法学校を首席で卒業してるから

  魔法は得意。スキルはたぶん一つも持ってないわ」

 「それじゃこれからはエリーって呼ぶね。よろしく!」

 「えぇ、こちらこそよろしくロック!」


 スキルを1個も持ってないのは意外だったな。魔法で事足りるのかも。


 「明後日にスキルの講習受けるけどエリーも一緒に行くー?」

 「なにそれ!? そんなのがあるのね。もちろんわたしも行くわよ!」


 2人してギルドへ向かう事になった。ついでにギルドでパーティー登録もし

ておこう。



 「ロック様、エリザベス様お待たせいたしました。これで二人は正式なパー

  ティーです」

 「ありがとう、あと明後日のスキル講習ってまだ予約受け付けてますか?」

 「はい、まだ空きがあるので大丈夫ですよ。エリザベス様も予約いたします

  か?」

 「えぇ、わたしもお願いするわ!」

 「それではお二人共予約を受け付けました。当日は遅刻厳禁でお願いします」


 2人で「はーい」と返事をし受付を後にする。このパーティー登録をしてお

かないと後々、面倒ごとに巻き込まれる事があるらしい。

 ダンカンさんにパーティー組んだらすぐに登録しろと何度も言われたっけ。


 「今日やる事はこんなもんかな。酒場の方でもう少しお互いの攻撃手段とか

  話して実戦での作戦を立てておこっか」

 「あれね。ロックって前衛型の割に意外と理論派よね!」


 エリーは後衛型で頭がとんでもなく良いはずなのに天然だよね!という言葉

は飲み込んだ。これは絶対に言ったら何をされるかわからない。



 飲み物を頼み2人して並んで座る。すぐに飲み物が運ばれてきた。さすがに

昼間なのでお酒ではない。


 「実は魔法についてほぼ無知に近いんだよね」

 「まぁそうでしょうね。魔法学校の連中は魔法についてあまり外部に知られ

  たくないようだったし!」

 「へーいろいろあるんだね」

 「わたし、あいつら大っ嫌いだったわ!」


 エリーは大変お怒りの様子だ。魔法学校でそんな嫌な目にあったのかな。話

がそれたので元に戻す。


 「昨日動けなくなってたけど、どれぐらい魔法使うとなるの?」

 「あれは中位の魔法を詠唱破棄で使いまくったからね」


 ちゅういのまほうをえいしょうはきでつかいまくった。何の事だ。


 「わかんないって顔してるわ! 仕方ない、お姉さんが説明してあげる!」


 お姉さん……。確かに年上だけど。


 「魔法には初歩、中位、上位があるの。これは名前の通りね。初歩はわたし

  クラスになると100発以上撃てるわ。そんなわたしでも上位は1発がや

  っとね」

 「ふむふむ。それじゃ詠唱破棄っていうのは?」

 「魔法には基本的に詠唱が必要で、詠唱して魔法を使う事を完全詠唱って呼

  んでいるの。詠唱破棄はその詠唱を一部省略できるのよ。その代わり威力

  も下がるし消費魔力も増えるってわけ。わかった?」

 「おーなるほど。さすが首席。わかりやすい」

 「でもね、動けなくなった一番の原因は魔力がほとんど切れたわたしをあん

  たが囮に使って走らせた事よ!」


 そう言って俺のこめかみの辺りをグーにした両手でグリグリした。


 「イタタタタタ!」

 「わたしはもっときつかったわ! もうしない!?」

 「はい! もうしません!」

 「ならいいわ!」


 そこにジャックがやってきた。


 「ロックがめちゃくちゃかわいい女の子とイチャイチャしているだと……」

 「いや、勘違いしないでね。エリーは俺の……」

 「エリー!? もうそんな風に呼ぶ仲。しかも俺のだと……」


 そしてジャックは叫んだ。


 「おい! お前らロックがいつの間にか彼女作ってイチャイチャしてやがる!」


 喧騒けんそうに包まれていた酒場は一瞬でシーンと静まり返り全員がこち

らを見ている。

 あ、これまずいんじゃ。


 「「「うぉおおおおおおおおおおお!」」」


 地響きのような叫び声が上がった。酒場の人達は口々に「やるじゃねぇか色男」

とか「ダンジョンだけじゃ飽き足らず女の子も攻略か?」とか「どうせたいした

事な……めちゃくちゃかわいい!ずるい!」とか祝ってくれた。



 そして恒例の如く飲まされまくった俺にエリーが時々回復魔法を使ってくれた。

 

 「しかたないわね! 感謝しなさい」


ありがとう。本当にありがとうエリー様。

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