第6話 ノックをしたら中の人が返事をするまでステイ
「ダンカンさん、ボス討伐できたよー」
「やったじゃないか。ん? その子は確か……」
転移門で戻るとダンカンさんが出迎えてくれた。ボス討伐すると転移門が出
現してダンジョンの入り口まで一瞬で戻れるんだ。すごいよね。
「俺がボス部屋に入ったらこの子が既に戦闘中だったんだ」
「あーそうだったのか。すまんなロック、入ったのが朝だったからてっきり
もう死に戻ってると思ってた」
「気にしないでよ。何事もなく討伐できたしね」
ダンカンさんに向かってピースサインをする。
「わたしは囮にされたけどね。キーッ!」
まだ根に持っていたみたい。
「キミ、ダメじゃないか。ボス討伐するなら入る時ちゃんと届け出てくれな
いと」
「あー、その事はしっかり言い聞かせておいたよ」
「それならいいんだが」
最近の若い者はルールを守らんけしからんやつが多い、と話が長くなりそう
だったのでそろそろ帰る事を伝えた。ずっとおんぶしてるしね。
「ロック! 改めてボス討伐おめでとう」
「ありがとう!」
俺とダンカンさんはハイタッチした。最高の気分だ。
「その子はどうすんだ?」
「ちょっと話したい事もあるから一緒に街まで連れて帰るよ」
「わかった。それじゃ今日はゆっくり休めよ」
「うん! それじゃまたねー」
そしておんぶしたまま街へ向かう。
「あの管理人と
「ダンカンさんは管理人になる前は歴戦の冒険者だったらしいからね」
「へー、人は見かけによらないわね」
確かに今のダンカンさんは小太りのオッサンだ。
「酒場は騒がしいから一旦俺の泊まってる宿に行って話そうか」
「あんた、まさか変な事考えてないでしょうね?」
「変な事って?」
「わ、わからないならいいわ! まだ歩けないから連れていって!」
なんだかよくわからないけど、宿の食堂で何か食べたりすれば元気になるん
じゃないかな。魔力の回復方法なんて知らないからね。
宿まで戻るとおばちゃんが出迎えてくれた。
「あら、おかえりロック。その子はどうしたんだい?」
「ただいまー。魔力切れ起こしちゃったらしくてさ。何か食べ物と飲み物お
願い」
「わかったわ。食堂で待ってなさい」
食堂でその子を対面に座らせて俺も座った。魔力の回復方法を本人に聞いた
方が早いか。
「魔力ってどうやったら回復するの?」
「薬があれば短時間で回復できるわ。あとは時間と睡眠と食事ぐらいね」
「意外と普通の方法で回復できるんだね。それじゃ少しゆっくりするといい
よ。ここはおばちゃんもおやっさんも良い人だから」
厨房の方から「おばちゃんじゃなくお姉さんだよ!」って聞こえてきて2人
して苦笑いを浮かべた。
「おまちどうさま! 今日のオススメだよ。たんとお食べ」
「ありがとう! 今日もおいしそうだね」
「ほんと、すごい良い香りがするわ」
クロエ様にお祈りをした後、かなりお腹が減っていたようですごい勢いで食
べはじめた。そういえば朝からダンジョンに入ってたんだっけ。
俺も冷めないうちに食べようっと。
「すごいおいしかったわ! ここってお酒もあるのよね?」
「うん。種類はあまりないみたいだけど」
頷いておばちゃんを呼んだ。
「お姉さん! こっちにエール1つちょうだい」
「この子はよくわかってるわね。1杯サービスするわよ」
「ありがとう! お姉さん大好き!」
お、お姉さんにそんな力が隠されていたなんて。そんな事知らなかった。
お酒がくるとゴクゴクと飲み出す。
「プハーッ! 仕事上がりはやっぱこれね!」
「そ、それはない。それはないよぉ」
この子ダンカンさんと全く同じ事言ってる。彼女が将来小太りにならない事
をクロエ様に祈った。
それから数時間……一体何杯飲むんだろう。
それとも魔法を使える人って皆、こういうものなのかな。
「ちょっとー! ロック聞いてるのー?」
「う、うん。聞いてる聞いてる」
この話も3回目だ。途中でいなくなったと思ったら元いた宿を引き払ってこ
こに泊まる事にしたらしい。すごい行動力。
「わたしの事をねー! エリーって呼べるのは光栄な事なのよ!」
最初に名前を聞いた。エリザベスというらしい。酔うごとに自分の情報をめ
ちゃくちゃ話す。
どこかの貴族の一人娘で魔法学校を飛び級で首席卒業したら政略結婚させら
れそうになって逃げてきたとか……。
情報ガバガバだけど家出してるのに大丈夫なのだろうか。この子危なっかし
過ぎるよ。
「そ、それじゃ俺はそろそろ今日の疲れもあるし先に休むね」
「そうやって逃げるのねー! わたしはもう少し飲むわ!」
なんとか逃げ切った。まだ飲むのか……。
宿のおばちゃんに後はお願いして俺は部屋に戻った。少し遅くなってしまっ
たがクロエ様を呼ぼう。
「クロエさっまー!」
「はーい、クロエちゃんさまよー」
またもテンション高く降臨なされた。光と煙と共に現れベッドに腰掛けてい
る。
「夜遅くなっちゃってすみません」
「いいのよ。こっちにいらっしゃい」
俺は言われるがままにクロエ様の側にいく。
「それじゃロック君に成長のご褒美をあげましょう」
クロエ様がそう言うと俺の体は
の膝の上に乗っけて。
ううう……。これ膝枕なのかな。恥ずかし過ぎる。
そんな俺の思いを知ってかしらでか、いつものように頭をナデナデしてくれ
る。最初は緊張で強ばっていたが少しずつリラックスしてきた。
クロエ様の癒し効果は抜群だ!
「なでなーで。なでなで」
心も体もリラックスして疲れが抜けていく。
そんな時部屋のドアがドンドンッとノックされて開かれた。
「ちょっとー! 入るわ……よ……」
部屋へ入ってこようとしたエリザベスは俺達を見るとそのまま何も言わずに
出て行った。
「何も言わずに出て行ったけど大丈夫かなー」
「あの子なら心配しなくても大丈夫よ。今はゆっくり疲れを癒して」
「わかりました。そうだ、クロエ様に聞きたい事があったんです」
膝枕でなでなでされながら話し続けた。
「成長の神様にスキルを覚えたから後で確認してって言われたんですが、ど
うやって確認するんですか?」
「アリスに言われたのね。まずは目をつぶって」
目をつぶった。特に変化はない。
「心の中でスキルと思い浮かべて」
言われた通りに思い浮かべた。すると不思議な感覚に包まれ見た事もない模
様が無数に現れる。そして最後に文字が出てきた。
あまりもの驚きで、
「うわっ!」
と声をあげたがクロエ様がなでながら
「だいじょうぶ、大丈夫よ」
と言って落ち着かせてくれた。
「そこに覚えたスキルが表示されたはずだわ。今回は「武芸」ね。成長型の
珍しいスキルよ」
「そうなんですか。ちょっと見てみます」
そこにはスキルの説明が普通に文章で書かれていた。
「武芸」 いろいろな武器を使う事ができるスキル。初めての武器でもそれ
なりに使う事ができる。
「このままでも強力なスキルだけど育てばすごいスキルになるわよ」
「えっ!? そうなんですか?」
実はちょっとスキルの説明を見てガッカリしかけていた。スキルがなくても
努力でなんとかなりそうって思っちゃって。
「このスキルは武器という言葉だけに惑わされちゃダメよ。それじゃそろそ
ろわたしは帰らないと」
俺の体はまた宙を舞い神様の隣に腰掛けた。
「アリスだけずるいからわたしも、ね?」
隣に座った俺の頬に軽くキスをした。
「それじゃもう行くね。また呼んでねー! 呼んでくれないと勝手に出てき
ちゃうぞ」
ウィンクをしながら消えていった。クロエ様良い香りがしたなーと思いなが
ら、キスをされた頬を触ってしばらくボーッとしていた。
「無言で出て行ったエリザベス放置したままだった」
面倒だけど放置したら放置しただけ余計面倒になりそうな予感がした。食堂
に行くとエリザベスはまだ飲んでいた。どれだけ飲んでるのさ。
「あっ、あんたねー神様になんて事しちゃってんの! ダン停になるわよ!」
やっぱり俺が無理矢理してたと勘違いなさってた。
「大丈夫だよ。ほら、ダン停になってないでしょ?」
「もうビックリさせないでよ。酔いも醒めちゃって飲み直してたとこよ!
ロックも付き合いなさい!」
朝まで付き合わされた。魔法使いコワイ。
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