第5話 神様の数え方は1柱、2柱、3柱……1柱足りなぁい!
「
巨大スライムを相手に距離をとりながら魔法を放つ初心者。魔法使ってる時
点で初心者とは違うんじゃないかと思ったりもする。
俺は攻撃に使う魔法を初めて見たので驚いている。魔法医師の回復系魔法は
見た事があるが魔法ってすごいんだ。
ただ、この攻略法が完全に確立された巨大スライムに氷魔法使うって事はや
っぱり初心者なんだろうなと一人分析する。
魔法使えるなら炎魔法使ってワンパンらしいからね。魔法ってずるい。
冒険者の中での暗黙の了解だけど、こういった場合手出し無用というのが原
則なんだ。
やられそうになったら声を掛けようと思い観戦させてもらおう。
巨大スライムは通常のスライムと同じで移動が遅い。なので距離をとり続け
ればそうそうやられはしない。
たまにやる大ジャンプだけ気をつければ、部屋の周囲をぐるぐる回ってるだ
けでも負けはしないらしい。
その大ジャンプも溜めがあるから一発でわかる。こうやってね。
巨大スライムは動きを止め大ジャンプの体勢に入った。あとは大ジャンプし
た瞬間に急いで着地予想地点から離れるだけ。離れるだけなんだけど……。
「あの初心者たぶんそれもわかってないかも」
好機と見たか魔法詠唱して攻撃を始めた。
「これがもうありったけよ! 喰らいなさい!」
「凍てつく氷よ! 我が敵を
巨大スライムに大きな音を立てながらぶつかる。そう、ぶつかっただけ、刺
さりはしない。氷耐性あるしね。
「そろそろ頃合かなー」
巨大スライムが大ジャンプをする前に走り出す。大ジャンプをした時には初
心者を抱え少し離れた場所へ退避していた。
「ふぅ、間に合ったか」
「あ、ありがと……。でも助けてなんて頼んでないわ!」
「それはすまなかった。俺は巨大スライムを倒しに来た。君はこのまま死に
戻るか協力して倒すか選ぶといいよ」
初心者は考えている。というかこの子この間、ガッチガチに緊張してて声を
掛けた子だ。短期間でボスに挑むなんて肝が
「……協力する。不本意だけど!」
「それじゃ即席パーティー結成だね。よろしく」
笑いをかみ殺しながらそう言った。随分と強気な子だと感じながら。
「それじゃ少し巨大スライムと離れて短い作戦会議といこっか」
巨大スライムとだいぶ離れた。ここのボスは初心者ダンジョンだけあってあ
まり好戦的じゃないんだ。他のダンジョンのボスクラスは追いかけてきてデス
らせてくるらしい。怖過ぎるよ。
「魔法使ってたけどまだ炎魔法は使える?」
「ダメね。さっき全魔力を使ってアイスランスを撃ち込んだわ!」
この子は……アホな子なのかもしれない。
それじゃ作戦を変えて
「最後にもう1度聞くけど死に戻りしなくていいんだね?」
「愚問だわ。わたしはあいつを倒す」
かっこいい。俺もこんな風に堂々と言えるようになりたい。
「それじゃこの松明を渡すからこれを持って壁沿いに巨大スライムを連れて
行って」
「それだけでいいの?」
「うん。さっきみたいに動きを止めると大ジャンプがくるから逃げる準備を
しておいてね」
「わかったわ! それぐらいなら任せておきなさい!」
キャーキャー言いながら松明を振り回して逃げる初心者を見ながら巨大スラ
イムの核目掛けて後ろからヤリを突きまくった。
幾度も攻撃を受け少しずつ削れた核は突然砕け散った。やったー勝ったな。
巨大スライムは体を保てなくなり溶けて消えていった。
「ドサッ」
普通のスライムよりかなり多めにお金が落ちた。後で分けよっと。そして初
心者の方を向いた。
「おつかれー」
声をかけると凄い剣幕で走ってやってきた。
「ちょっと、あんた! 人を囮に使うってどういう事よ!」
やっぱりバレちゃったーと思って答えに
困っていると、大きなファンファーレと共に周囲が光り出した。
さっきまで大変お怒りの様子だった初心者を見ると、時間が止まったかのよ
うに動きを止めている。
光は上空に集まりそこから人影がゆっくりと降りてくる。やがて地面にまで
たどり着いたそれはすごい勢いで俺に向かって近づいてきた。
身構えるが腰の辺りに柔らかい感触がしただけだ。
「あ、あれ?」
腰の辺りを見ると黒くて長い髪をした少女が抱き付いていた。俺は恐る恐る
声をかけてみた。
「と、突然現れたけど君はどこのだれだい?」
抱き付いていた少女は俺から離れて言う。
「アリスはアリス。成長の神アリスよ」
今度は俺が止まる番。クロエ様以外の神様って接触してこないんじゃなかっ
たの。
「機会がなかっただけだよ。ろっくおにーちゃん」
「そうだったんだね。アリス様でいいですか?」
「もー! ろっくおにーちゃん! 硬いよ硬い! アリスの事はアリスでい
いの」
誰にも知られていない神様の一柱を呼び捨てでいいのかな。
「いーのいーの。アリス達はいつもろっくおにーちゃんを見てきたんだから」
「え、そうなの!?」
「さーて、どうかなー。それじゃ今日のお仕事をしちゃおー」
思わせぶりに言うとアリスは俺の周囲をくるくると回り出した。回る度に光
りが俺の中に入ってくる。
「はいおーしまい! どう? ろっくおにーちゃん、殻を破った感想は」
殻を破る。クロエ様ももうすぐだと言っていた。まるで生まれ変わったかの
ように清々しく、体に活力が
「月並みな言葉だけど体から力が
「そうだねー。成長した人は久しぶりだけどみんなそう感じるみたい」
アリスは身振りを交え続けた。
「そしてじゃーん! なんとろっくおにーちゃんは新しいスキルを覚えたよ。
それがこれ、「武芸」! どんなスキルかは後で見てね」
「そろそろクロエおねーちゃんに気づかれるから急がないと」と呟きながら
言った。
「ろっくおにーちゃん、ちょっとしゃがんでー」
言われた通りにしゃがむ。するとアリスは近寄ってきて抱きつきながら頬っ
ぺたにキスをした。
そのまま俺の頭を抱き締めて頭を
「ろっくおにーちゃんまたアリスに会いにきてね。絶対だよ!」
その時、煙と共に地を
「ア゛ーーリ゛ーース゛ーー」
「やっばい! もう時間切れみたい」
そこにはクロエ様がいらっしゃった。
「ロック君まずはおめでとう。また後で呼び出してね。わたしはこの子を連
れて帰るわ」
クロエ様はアリスを抱えると手を振りながら煙と共に消えて行った。すごい
慌しさで反応する事もできなかった。
ジョンのボスは勝手に討伐しちゃいけない事やら巨大スライム討伐のセオリー
を詳しく伝えた。
「それはこっちが悪かったわね! ぐぬぬ」
と、納得? はしてくれたので良かった。
「デスらなくて本当に大丈夫?」
「大丈夫よ。魔力が回復したら自分で回復できるわ。でも心配してくれてあ
りがとね!」
この子少し過激なとこもあるけどちゃんとお礼も言ってくるし良いとこの子
なのかもしれないなぁ。
「でも今は魔力切れと走り回ったせいでもう一歩も歩けないの。お願い、転
移門まで連れていって」
俺はその子をおんぶすると転移門まで連れて行った。
アリスが抱き付いて来た時と一緒で背中にはなんの感触もなかった。
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