第69話 武芸への道


「というわけでだ、お前達には秘密特訓をしてもらう」


 暖かい日々は終わりを迎えた。


「ロックとコンゴウの戦闘を見てもらったが、お前達が上級ダンジョンに挑

 戦するには足りてない部分が多い」

「なんであんたにそんな事がわかるのよ」

「嘗めてもらっては困ります、エリー様。こう見えて俺は神でありながら上級

 冒険者ですよ?」


 ギルドカードを取り出し見せてもらう。

 確かに一目で上級冒険者だと判断できた。そのギルドカードには上級冒険者

のみに許された金の縁取りがされていたからだ。

 ジャックが上級冒険者だったとはね。

 神である事を知ってしまった今となれば当然と言えば当然かな。

 エリーとクゥはショックを受けて「どよーん」とした落ち込みようだ。


「すごいショックを受けてるようだが俺一応神の1柱だからね」

「じゃあなんでデス祭りでデスりまくってたのよ!?」

「アレはノリだ」

「ただのバカッスね」


 いつも通りの辛辣さで本当に嫌わないようにしているのかはなはだ疑問である。

 俺は村に帰ってきてからまさか……の連続で麻痺しているのかもしれない。

 ジャックからギルドカードを見せてもらっても、やっぱりそうだよねと呆気

なく納得してしまった。


「ゴホンッ」


 脱線しかけた話を戻すためか父さんが咳払いをする。それに気づいた3人は

言い合いを止めた。


「そ、それじゃ話を続けるぞ。ロックはコンゴウと、エリー様はフィーナ様と、

 クゥちゃんは俺と、それぞれ別れて鍛える事にする」


 それを聞いたクゥが黙って手を挙げる。


「自分だけ不安しかないッス」

「クゥちゃんに教える適任が現役冒険者の俺しかいないんだ」

「しかたないッスねー。しっかりやるッスよ」


 クゥはジャックの頭をパンパン叩きながら言っている。

 教える側と教わる側が逆転してるのでは? という疑問はさて置き、ただの

帰郷のつもりがこんな事になるとはね。

 ずっと俺達を近くで見ていたジャックならうちのパーティーの弱点がわかっ

ているだろう。

 父さんもフィーナ様もクロエ様もジャックが言っている事になんの異論も挟

まない。

 まるで以前から決まっていたかのように。


「クゥちゃんも納得してくれたしそれぞれ別れてどんな鍛え方をするか話して

 くれ」


 ジャックが言うのを聞き俺は父さんの所へ向かった。クロエ様を連れたまま。



 ロックmode


「来たか。神様も一緒のようだが」

「わたしはロックくんといつも一緒よ。気にしないでいいわよ」

「ふむ、そうか」


 さすが元勇者だけあってクロエ様を前にしても全く臆する様子がない。


「ジャックにロックの最大攻撃方法は投擲だと聞いた。今から拙者に使ってみ

 るがいい」

「使うと周囲にも被害出そうだけどいいの?」

「大丈夫だから本気でやれ」


 それでは全力で投げてみようかな。人に対して全力で投擲するのは少し抵抗

があるけど父さんも大丈夫だと言ってるしやってみよう。


「いくよー!」


 離れた場所から父さんに向けて自分ができる最大の力を籠めて投げた。

 放たれた投擲用の剣は風を切りすぐに目標へ向けて到達する。だが、いつも

のように衝撃で周囲が抉れる事も爆音が聞こえる事もなかった。


「う、嘘だよね……」


 俺が一番の自信を持っていた攻撃方法は父さんの2本指でピタッと挟まれ防

がれていた。


「なかなかの威力であった。この威力を鑑みるにロック、お主やはり投擲に頼

 りきりであったな?」

「それでも父さんを動かす事すらできなくて自信を失いかけてるよ」

「くるとわかっている攻撃なのだから、見て防げばいいのだ。威力は充分出て

 おるよ」

「コンゴウさんはあまりに特殊なのよ」


 クロエ様も苦笑しながらフォローしてくれた。


「ロックには変則的なアレをやってもらうとしよう」

「変則的?」


 あの訓練方法自体が既にかなり変則的なのに、それよりも更に変則的とは一

体どういう事をするのだろうか。


「お前のパーティーでの役割はなんだ?」

「盾役とアタッカーだね」


 クゥとエリーに敵を通さない事が俺の役割だと思っている。


「変則的というのはだな、アレにルールをつけ加える。ロックは防御と受け流

 しのみを可とする」

「あー、それは確かに俺に必要な事だね」


 ノースヘッド学園のダンジョンで嫌という程味わった。あんな新種がまた現

れた時に平静を保ちながら対処できる力はどうしても欲しい。

 今の俺は盾としてペラペラで薄っぺらい。

 クゥが全方位を安全に警戒でき、エリーが心置きなく詠唱できる。そんな強

さが必要だ。


「そういえばアレってわかりづらいから名前つけましょう」

「他の人が聞くとわからんもんかもしれんな。クロエ様には案がおありか?」

「ふふふっ。わたしそういうの考えるの得意なのよ~。「武芸への道」なんて

 どうかしら?」

「クロエ様! それすごくいいです」


 正にアレを一言で表していてこれ以上ないぐらいハマッていると思う。


「よしっ。それではこれからは武芸への道と呼ぶ」


 さすがクロエ様だ。武芸への道とかかっこよすぎる。

「ロック、今日何してたの?」「今日俺は武芸への道を極めていたよ」

 想像しただけでもうどうにかなりそうだ。


「変則的武芸への道を行う事で異議はないな?」

「うーん。異議はないんだけど、それってダンジョンでやらないと効果低かっ

 たりしないの?」


 クロエ様から教わり自分も体験してきた。ダンジョン内でデスらずに経験を

積み重ねる事によって成長の仕方が段違いだという事を。

 ダンジョン外でも成長する事はわかっている。それだと時間が掛かり過ぎる

のでは? というのが心配だった。


「それなら心配無用だ」

「ロックくん知らなかったのね~」

「何をですか?」


 ここにきてまだ俺の知らない何かが隠されていたのか。

 ふっふっふ。だがしかし俺の驚愕スイッチはもう壊れてしまっているんだ。

簡単な事じゃ驚かない自信がある。


「お前が今立っている場所はダンジョンである」

「またまたー。ここって家の敷地内にあるただの空き地でしょ?」

「裏の森がダンジョンでウチの敷地も丸々ダンジョン内だ。誰も近くに家を建

 てない事をおかしいと思わんかったのか」

「えぇーっ!?」


 子供の頃遊んでた森と10年以上住んでいた家がダンジョン……?


「いやいやいや、それはおかしい。だってそうだとしたら俺はもっと強くなっ

 ていてもいいよね」


 村にいる頃デスッた事なんてなかった。ずっとダンジョンで暮らしていた俺

は今頃とんでもない冒険者になっていたはずだ。


「昔、お主は女の子とままごとばかりしとったであろう」


 そうでした。

 くそおおおおおおお!


「それを見兼ねてだな、農家の拙者が手ほどきする事にしたのだ」


 だから武芸なんてスキルを取得できたんだね。


「でも、森がダンジョンなら危なくない? 子供の遊び場になってるよね?」


 俺はたまにしか入らなかったけど、はじまりの街で冒険者になったあの3人

組や村の男の子達は森にしょっちゅう入ってたと思う。


「あぁ。手前は普通の森と変わらんよ。奥には力のある者しか入れんようにな

 っている。ロックもその結界を知っておろう?」

「少し前、フィーナ様に結界を貼るところを見せてもらったよ」

「うむ、それであるな」


 という事はだ、俺はむざむざ強くなれる機会を逃しままごとマスターになっ

ていたわけだ。

 もちろんままごとなんてスキルは存在しない。


「言い難くて黙っていたのだけれどね。はじまりの街へ行ってからロックくん

 弱体化してるの……。」

「え。なんでですか?」

「ロックくんったら毎日デスッてたから……それでね」

「……。」


 頭の中を走馬灯の様に駆け巡る光景。

 ジャックと一緒に1日に何デスできるか競争した日。どんな風にデスるか、

散り様を何度も練習した日。そして帰りは毎日デス帰り。

 そんな日々を1年以上続けてしまったわけだ。

 子供の頃の俺とはじまりの街へ行ったばかりの俺に言ってやりたい。


「トホホ……。」



「トホホなんて使う人師匠以外にいるんッスね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界のダンジョンから ~寿命以外で死なない世界では縛りプレイが最強だったようです~ さくら @sakura-yuudachi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ