第43話 降臨!降臨! ダ~メダメよ~
学園長室から出るとアーヤはそこにいなかった。すぐに戻ってくるだろうと
その場で待つ間、話をしている。
「これって要するに学生に紛れてスパイしろって事ッスよね」
有り体に言えばそうなるのかな。そう聞くとあまり聞こえは良くない。
「さてはロック、その顔はこの方法を気に入ってないな? 冒険者が情報収
集する時にはよくある事さ。しっかり覚えておけよ」
「よくわかったね。なんか騙してる気分になっちゃって。冒険者なら慣れて
いかないと」
ジャックにポンポンと肩を叩いてなだめられた。
余計な
肩書きを一旦置いて、学生として過ごす方がより自然だろう。
「俺は臨時職員として潜り込む
は任せておいてくれ」
教師としてはかなり若いけれども学生というには少し年上に見えるから
なところかもしれない。
「魔法使いでありながらスパイなんて。わたしの肩書きが増えていくわ!」
スパイとは程遠いエリーが喜んでいる。魔法で脅すのはスパイ行為じゃない
から……。
「わかってると思うけれど学園内で魔法は禁止だからね?」
「は!? なんでよ!」
全然わかってなかったみたいなのでちゃんと伝えておく。
「魔法の才能があったら国立魔法学校に通ってるはずなのはエリーが一番よ
くわかってるでしょ」
「ハッ! そうだったわね! 完全に忘れてたわ! 今回はスパイに徹する
事にするわ」
本当に大丈夫だろうか。お願いだから上位をぶっ放して大量デスを巻き起こ
したりしないでよ。先が思いやられる。
しばらくしてアーヤが小走りで戻ってきた。
「どこ行ってたの?」
「寒くてちょぼぱんだったから秒で行ってきた (そんな事女性に聞いてはい
けませんわ。恥ずかしいですぅ)」
学園長もタイミングを計ったように部屋から出てくる。会話聞かれちゃった
かな。特に問題のある会話はしてないと思う。
「アーヤくん、彼らを学生寮まで案内してもらってもいいかね? 寮の方に
は既に話を通しておいたから」
「おけまる (わかりましたわ学園長。確かにこのアーヤが承りました)」
「助かるよ。それとくれぐれも彼らが冒険者だという事は内密に頼むよ」
「りょ (心配なさらないでください。わかっていますわ)」
学園長は安心して部屋へ戻って行く。
「そんじゃ俺は一旦ここで別れて教師連中に挨拶してくる」
「わかったよジャック。頑張ってね」
片手をあげて去って行った。俺達もいつまでもここにいるわけにはいかない
しアーヤに案内してもらおう。
「わたし達も学生する事になったわ!」
「MJK うれぴよ (本当ですか!? 皆さんと一緒に学園生活が送れるな
んてまるで夢の様ですわ)」
学園内には様々な施設が併設されていた。それとは別に敷地内に都市部があ
るというのだから驚きである。
それだけの規模を誇る学園というのもここに通う生徒の大半が貴族であるか
らなのだという。
「そんな貴族の中で俺やっていけるかな……。」
「大丈夫ッスよ。ロックさん超大物慣れしてるじゃないッスか」
「チャーレスさんにアーヤのお父様に獣人王に極めつけには神様じゃない!
そこらの貴族にビビる必要ないわ! わたし達も一緒なんだから大船に乗
ったつもりでいなさいよ!」
そういえばエリーもアーヤさんも貴族だったね。
「とりま男子寮わっしょい。入り口にいる寮菅と話すンゴ (こちらがロック
様の入る男子寮ですわ。入り口の寮菅と話をしてください)」
「ありがとう。助かったよアーヤさん」
ここまで丁寧に案内してくれたアーヤさんにお礼を言う。
アーヤさんは暑さが苦手なだけあってこちらに来てからはだいぶ体調が良さ
そうだ。
「ロック! 1人だからって寂しくて神様を連れ込んじゃダメよ!」
「ロックさん不潔ッス!」
「最&低 (各寮は異性の出入りに寮菅の許可が必要ですのでお忘れなく)」
「さすがに想像で貶めないでよ」
3人と別れ1人で男子寮に入った。
寮の入り口のすぐ側には管理人のお爺さんが待機していて入るとすぐに気づ
いてくれた。
「学園長から話は聞いてる。こんな時期に転入なんて珍しいのう」
「しばらくお世話になります」
目を細めてほっほっほと笑う。
「そんな畏まらずに気軽に接してくれていいんじゃよ。名前はなんだったか
のう?」
「ロックって言います。よろしくお願いしますね」
「部屋へ案内しよう。これが鍵じゃよ。無くさんようにな」
寮菅の後を続き階段を登っていく。4階か、だいぶ上の方まできた。
「ロック君は運が良いねぇ。季節外れの転入で丁度1人部屋が開いておった
のじゃよ」
「それは嬉しいです」
簡単に一言で済ませたが俺としては非常に助かる。さすがに他の学生と同じ
部屋では色々とバレる可能性が出てきてしまうし、神様を呼ぶ事すらできない。
「ここが部屋じゃよ。何かわからない事や困った事があったら遠慮なく聞き
にくるとええ」
「わざわざありがとうございます。その時は立ち寄らせてもらいます」
「制服は届き次第持って来るでな」
寮菅は良い人そうだ。寮生の噂話や街の人の様子を彼からも得る事ができる
かもしれない。
部屋に入ると最低限の家具も備え付けられている。
小型の暖炉には火が灯されていて、パチパチと乾燥した薪が燃える音が聞こ
えてきた。
外はあの凍えるような寒さだったので少しの間暖炉の前で温まっていると、
かじかんでいた指先にも血流を感じるようになる。
「ふぅ、これで少し落ち着けたね」
もう少しだけ温まったら荷物の整理をしてしまおう。今回の依頼では持ち運
びやすい武器と威力の高い武器だけを持ってきた。
あれもこれもと選んでいたら、エリーに「そんなに持っていけるわけがない
でしょ!」と怒られてしまい最小限にとどめるしかなかったのだ。
困ったぞ。「武芸」をなかなか成長させられない。
こういった遠方での依頼もあるだろうし何か対策を考えた方が良いかも。
その夜の事。
(……ん! ロックくん!)
あれ、この声はクロエ様? 目の前に現れていない。脳内に話し掛けてくる
なんてどうしたんだろう。
(クロエ様ですか? どうしたんですか?)
(やっと届いたわね~。 聖クロエフェスティバル中からどこに行っちゃった
の? ロックくんと全然楽しめなくてわたし悲しいわ)
頭の中に直接語り掛けてくる声だけでも、しょんぼりしてるクロエ様が想像
できた。
(ごめんなさい。迷宮魔窟タイムトライアルで認めてもらえて今、依頼でノー
スヘッド学園にいるんです)
(誰となの!? 浮気なのね! わたし泣いちゃう)
(うちのパーティメンバーとアーヤさんとジャックですよ。いつものメンバー
ですから。クロエ様は出てきてくれないんですか?)
いつもならぼわーんという煙とともに「ジャーン、わたしです~!」と現れ
るはずなのに本当にどうしたのか。
(ん~。そこの一帯何かおかしいわ。何かに
そんな事ってあるのだろうか。様々な神様がいるらしいがクロエ様が最高神
であり、そのクロエ様を阻むってそれはもう神様級の何かなのでは……。
(今回の依頼と何か関係があるんでしょうか)
(それはちょっとわからないからわたしの方でも調べてみるわね~。ロックく
んは充分に気をつける事。わたしとの約束よ?)
(わかりました。自分達の手に余ると感じたらすぐに応援を頼む事にします)
依頼を引き受けたがいいがちょっと大変な事になっているのかも。今回も慎
重に事を運んだ方が良いかな。明日にでも作戦会議を開こう。
クロエ様との脳内会話の内容でかなり緊張してしまい背中を嫌な汗が一筋流
れた。
(怖がらせてしまってごめんね。いつものように頭をなでなでしてあげられた
らいいのに~)
(いえ、俺の方こそ情けないですね)
(なので今日は脳内に直接語りかけるロックくんだけのクロエをやりま~す)
脳内に直接語りかけてきてるのは今も一緒なのでは? と思ったがそんな事
はなかった。
(わたしはロックくんだけのわたし。ロックくんが好きよ~。いっぱい好き)
クロエ様の声が頭の中で反響したりゆらゆら揺らめいてる様な、まるで水中
の中にでもいる様なそんな気分でクラクラする。
(浮気はダメよ~。わたしだけを見て。わたしだけを感じて)
まるで大きなクロエ様に全身を包まれてる気分。現実感がなくなりさっきま
での緊張感や恐怖感もなくなった。
自分の体の境界線が薄れまるでクロエ様と一体になってるみたいだ。
(そうよ~。ロックくんは今、わたしと一つになっているの。好きだから一つ
になるのは当たり前の事だよね~?)
クロエ様と一つになるのは当たり前の事……。もっとクロエ様と一つになり
たい。
(わたしがずーっと一緒。だから何もかも全部大丈夫よ~)
(そ、れ、に、アリスもいるから大丈夫なの~!)
(ちょ、ちょっと~アリス、突然割り込まないの)
(アリスもね、そこの場所行けないみたいだから話したかったの~)
突然のアリスの乱入で一気に意識は引き戻された。
(アリスもやっぱり降臨できなそう?)
(うんうん。だからろっくおにーちゃんは成長を蓄えて戻ってきてね)
(はい、それじゃアリスも戻るわよ。ロックくんからも接続を繋げるようにし
ておいたから、もしも何かあったら教えてね)
(アリスもしといたよ~! それじゃまったね~)
2人の声が脳内から消え静けさを取り戻す。
さっきまでのクロエ様との会話で疲れや負の感情も取り払われ、ゆっくり眠
れそうだ。
本当は聖クロエフェスティバルで何かお礼をするつもりだったのに結局何も
できなかったなぁ。
エリーやクゥに相談してみよう。
この地で起きてる事についても。
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