第12話 レアでは買えないご褒美がある


 街は騒然となっていた。オークションにグールのレアが出品されたとあって

色々な街から資産家や商人が集まってきている。

 まさかここまでの事になるとは思ってなかった。匿名で出品させてもらって

良かったよ。


 今や、グールのレアがいくらで落札されるか、けの対象になるぐらい

の盛り上がりを見せていた。


 「エリー、もう1度言うけど絶対にグールのレアの事を話さないようにね」

 「わかってるわよ! ここまでの騒ぎになるとは思ってもみなかったわ」

 「グール関係の話に関わらないようにしばらくギルドと酒場に行くのもやめ

  ておこっか」


 どこでボロを出しちゃうかわからないんだよね。特にエリーが。


 「えぇそれが良さそうね。だってわたし……話したくてウズウズしてるもの!」

 「本当にやめてね! お願いだから」


 絶対に近寄らせてはならない。絶対に。

 霊廟に通い出したばかりであったが、どちらにしてもエリーの杖が直るまで

は少しゆっくりしようという事になった。


 「この借りた杖もそれなりの出力が出せるんだけど、やっぱりあの杖の方が

  使いやすいわね」

 「出力で思い出したけどこの間みたいに巻き込みは気をつけてね。空を飛ん

  だ時はさすがにデスると思ったよ」

 「ごめーんねって謝ったでしょ! 言い訳させてもらうと杖が変わると細か

  い操作が格段に難しくなるのよ。巻き込むつもりはなかったのよ?」


 近接の武器でも武器によって長さも重さも癖も違うしそういう事かな?


 「即席の借り物武器だったもんね。この間の戦いで思い知ったけど俺は少し

  防御系のスキルを増やした方がいいのかなぁって」

 「そうかもしれないわね! わたしが狙われたらたぶん一撃でデスッちゃう

  と思うわ!」


 グールと戦う事前提だとエリーの火力を生かさないといけないからね。まだ

まだ問題が山積みのようだった。




 「ロ゛ック゛ク゛ーーーーン゛」


 沢山の煙を上げながら地の底から這い上がるような声でクロエ様が現れた。

 そういえばこのところ忙しくて呼べていなかったなぁ。


 現れたクロエ様は珍しく声を荒げていた。


 「その女誰なの!? この世界から消すわ」


 それを聞いたエリーは震え上がり土下座をして謝り始めた。


 「神様!お願いです。許してください。つい出来心だったんです」

 「落ち着いてエリー? 君何もしてないでしょ」


 あまりにオーバーで本気なリアクションにちょっと驚きながら言う。それと

もクロエ様を前にした時って皆こんな感じなのかな。


 「ふふふ、なんて冗談よ。呼んでくれないから勝手に出てきちゃいました」

 「クロエ様なかなか呼べなくてごめんなさい。エリーが半泣きになっちゃい

  ましたよ」

 「だってーエリザベスちゃんとはずっと一緒にいるのにずるいんだもん」


 おびえるエリーに「冗談だってさ」とフォローする。


 「本当に消さないでくれますか。なんでもしますから」

 「あらあら、そんなに怯えさせちゃってごめんなさいね。冗談だから気にし

  なくていいのよー」


 クロエ様はいつも俺にしてくれるようにエリーをなでなでする。そうされて

るとエリーも落ち着いてきた。


 「神様にでて貰えるなんてわたし嬉しくてデスりそう」

 「ロック君もこっちにいらっしゃい」


 俺もクロエ様の側に行くといつものように膝枕で俺とエリーをなでなでして

くれた。

 そんなおかしな時間を過ごしながらクロエ様にエリーを紹介した。


 「クロエ様の事ですからもう知ってると思いますが彼女は俺のパーティーメ

  ンバーになったエリザベスです」

 「えぇ知ってるわ。わたし、神様ですもの」


 さすがクロエ様には全てお見通しだった。


 「グールと戦うところも見ていたわよ。強くなったわね。思わず興奮しちゃっ

  たわ」

 「な、なんか恥ずかしいですね」

 「それで思い出した。エリザベスちゃん、巻き込みは本当に気をつけてね。

  グール戦で成長してなかったらロック君死に戻りしてたわよ」


 それを聞いたエリーはパッと飛び起きた。


 「はい! 以後ないように気をつけます」

 「俺が言った時と反応が違い過ぎないかなぁ」

 「当たり前でしょ! 神様がおっしゃる事は絶対よ!」


 そういうもんか。気軽に接し過ぎてその辺の感覚が狂ってるのかもね。


 「今の話で出てきたけどグール戦でまた成長できたんですか?」

 「そうよ。短期間でこんなに成長できるなんて偉いわ。なでなーで」


 クロエ様のなでなでになすがままになる。



 「というわけでどーん」


 部屋が強烈な光で満たされたと思ったら目の前にアリスが現れた。


 「呼ばれた気がして出てきたよー」

 「まー今回は仕方ないわね。2人にやってあげなさい」

 「はーい、その前にアリスもなでなでするのー」


 アリスは俺の側に来てなでなでしはじめた。なんか体も撫でられてくすぐっ

たいんだけど。


 「ろっくおにーちゃんもいい感じで成長できてきたね」

 「そうなの? そういえばアリスはエリーに会った事あるんだよね?」

 「そだよー。こっちの子は前に一回会った事ある気がするー」

 「神様2柱とお話できるなんて……。胸が張り裂けてデスりそう!」


 エリー頼むからそんな事でデスらないでね。詳しい理由は話してないけどエ

リーもデスらせないようにしてるんだから。


 「ロック君がこの先もエリザベスちゃんとパーティーを組むつもりなら話し

  ても構わないわよ」

 「それじゃ良い機会だし話しておこうか」

 「なによ? そんなに重大な事なの」

 「そうだね。俺が死に戻りを使わない理由」

 「それは不思議に思ってたわ!」


 クロエ様から聞いた強くなるための秘訣についてエリーに教えた。


 「というわけで、ぼ、俺は強くなるためにデスらないようにしてるんだ」

 「そうだったのね! それじゃわたしも付き合うわよ!」


 この頭魔法のエリーならそう言ってくれると思ってた。


 「アリス、そろそろやってあげなさい」

 「はーいそれじゃ2人ともそのまま楽にしててね」


 アリスは部屋の中をまるでダンスでも踊るように跳ねている。跳ねる度に光

が舞い、その光が俺とエリーの中に吸い込まれていく。

 それが終わると以前と同じ、いやそれ以上に体から力が溢れてくるのがわか

った。


 「な……にこれ! 体が熱い」

 「俺も前より力が溢れ出てきてるのがわかるよ」

 「今回は急激に成長したみたいだよー。頑張ったろっくおにーちゃんにご褒

  美ターイム!」


 アリスはスススッと近づくと横になった俺のおでこに「チュッ」とキスをした。


 「アリス! あなたまた!」

 「へへへー。怒られる前に帰るね。ろっくおにーちゃんまた早く会いにきて

  ね。やくそーく」


 アリスは強烈な光とともに消えていった。


 「あの子ったら、まったくもう」

 「ははは、元気な神様ですね」

 「ロック君もそんなに簡単にされちゃダメなんだから」


 今度はクロエ様が優しくおでこにキスをしてくれた。


 「わたしもそろそろ戻らないと。ロック君、今度はちゃんと呼び出す事。わ

  たしとも約束よ? 絶対だからね」


 クロエ様は最後にひとなでした後、名残惜なごりおしそうに消えていった。


 「ロック……わたし勘違いしてた。あなたの周囲じゃなく、おかしいのはあ

  なただったんだわ」


 エリーはそんな失礼な感想を残し部屋から出て行った。

 アリスは元気いっぱいで、クロエ様は今日も優しかったなぁと余韻よいんに浸る俺

にはノーダメージだった。

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