第13話 デス祭り


 「手数料を引きまして、金貨1952枚になりました」


 あまりの金額に驚くが小声で伝える。


 「俺とエリーのギルドカードに半分ずつ預けてもらっていいですか?」

 「かしこまりました。それではお2人のギルドカードをお願いします」

 「ロックほら、ギルドカード出しなさいよ」


 俺は途中で頭が真っ白になってしまい、エリーに言われてギルドカードを取

り出し2人で渡した。


 「それでは少々お待ち下さい。今回は高額でしたので受け取りのサインもお

  願いできますか?」

 「いいわよ! わたしがサインするわ」



 冒険者パーティーは臨時雇い等の特別な場合を除き、ダンジョンでの収入は

均等に分けるんだ。

 今回も均等に分けた。あの杖は自分の力で直したいと言い、エリーはスケル

トンのレアを自分で買うと言い出した。


 今もスケさんのレアが安値で出品されていないか探している最中だ。貴族の

娘さんなのに良くできた子で。

 魔法学校を首席卒業してるだけあって自立心が人一倍強いのかもしれない。


 「これでいいわね! それじゃスケルトンのレアの件お願いね」


 サインをしギルドカードを受け取ってきた。


 「はい、ロックのギルドカードよ。落としちゃダメよ?」

 「わかってるよ。まさかエリーにそんな注意をされる日が来るなんて」




 一方、併設された酒場では大いに盛り上がっていた。

 金貨2000枚を超える落札額に誰もがグール討伐に躍起やっきになった。


 「俺も、俺達もグールを倒すぞー!」

 「「「おーーーー!」」」

 「いざ、出陣じゃあ!」

 「絶対に賭けの負け分を取り返す」


 ジャック……賭けの負けを取り戻そうとする人は大抵失敗するんだよ。次は

勝てるから! 絶対勝てるから! からの全部溶かす。



 この日、霊廟と教会では阿鼻叫喚あびきょうかんのデス祭りが開催された。

 グールが冒険者を返り討ちにし、次々と狩りまくったため教会は死に戻りし

た人が多過ぎて折り重なり更に死に戻るという死に戻りループが起こる事態に。


 その上最後には大人数でグールに襲い掛かりパーティー数違反で大量のダン

停者を出した。


 この事件は、始まりの街セレンで新たに語り継がれる伝説となった。

 グールデス祭り、と。


 ジャック、ダン停のマーク恥ずかしいから解けるまで近寄らないでね。

 やっぱりダメだったよ。



 まとまったお金も手に入ったので今後の事についてエリーと相談しておく事

にした。


 「この先メンバーを増やすかはまだわからないけど、将来的にパーティーで

  使える家を買いたいと思うんだ」

 「いいと思うわよ! どこか当てはあるの?」

 「霊廟で実力と資金を貯めたら迷宮都市を目指したいと思う」


 迷宮都市アドバン。

 その地下にはダンジョンが広がり、街自体がまるで迷宮のように入り組んで

いる事からそう呼ばれている。街の周辺にもダンジョンがいくつかあり中級、

上級の冒険者にとって憧れの街だ。


 「へー! そうね、わたし達の実力ならきっと目指せるわ!」

 「うん。そのためにも前衛としての実力を伸ばしたいと思って、またスキル

  講習の予約をしたよ」

 「なんでわたしにも言わないのよ! わたしも受けるわ」


 言われると思ったが、さすがにこのスキルは。


 「軽盾スキルなんだよね、受ける?」

 「それは1人で行ってきなさい」


 さすがに軽盾スキルは魔法使いエリー様には必要なかったようです。



 数日後エリーもスケさんのレアを落札できたのでガリアさんの店に一緒に行

く事にした。

 俺も他の武器と併用できる軽盾を探すついでだ。

 軽盾のスキル講習は既に終わり取得済み。スキル講習での軽盾は無料で貸し

出ししてくれたが、実は座学の最中に取得できていた。


 以前俺が覚えた「武芸」についてクロエ様が仰っていた。


 「武器という言葉だけに惑わされちゃダメよ」


 と。これは装備できる武器に連なる物全てに該当するんじゃないかと思い試

しに軽盾の講習を受けたのもあるんだ。

 これで確信した。「武芸」はとんでもないスキルだと。これをエリーに話し

たら馬鹿にされた。


 「ロック、あなた馬鹿ね。そこの小さい石を持ってあの遠くの岩に当ててみ

  なさい」

 「いや、遠過ぎるでしょ。あんなの届くわけないよ」

 「もう! いいから早くやりなさーい!」


 その結果、小石は岩に命中して砕けた。なんだこれ。


 「武器に連なるなら投石でもいけるじゃない。まー軽盾は前衛として使える

  からわたしをちゃんと守りなさいよね!」

 「魔法学校を首席卒業だと初めて認めるよ」

 「そうよ! もっとあがめなさい」

 「さすが! エリー様!」

 「やっぱりやめて……。」


 エリーはただの頭魔法使いじゃなかった。目から鱗だよ。

 武器のバリエーションが更に広がりそうでワクワクしてる。



 「ガリアさんいるー?」


 以前と同じように何かを叩く音が続く店の奥に向かって叫ぶ。

 しばらくすると叩く音が止み店に現れる。


 「坊主と嬢ちゃんか。その様子だとスケルトンのレアは用意できたか」

 「はい。これです。あの杖大丈夫でしょうか?」


 スケルトンのレアを受け取り答える。


 「おー良い色つやだ。任せておけ。最高の杖にしてやる」


 太鼓判を押した。俺の方もついでに頼む事にする。


 「俺の方は軽盾スキル取得したから俺の体に合った軽盾と一緒に使いやすそ

  うな武器を頼みたいんだ」

 「軽盾スキルも取ったのか。人の成長は早いな。2人ともそこら辺見て待っ

  ていろ。まずは嬢ちゃんの杖を仕上げてくる」


 ガリアさんは再び奥の仕事場へ行った。

 俺とエリーはどんな武器が軽盾に合うか店の武器を見て話したり、杖がどん

な強化されるのか楽しみだとかジャックがダン停になったとか話して時間を潰

した。


 「ジャックは残念イケメンね!」


 そんな結論が出た辺りでガリアさんが戻ってきた。


 「ジャックも悪いやつではないんだが。ほれ嬢ちゃん、これが完成した杖だ。

  裏で試し撃ちしてみるか?」


 ガリアさんを紹介してくれたのがジャックだからね。顔も広いし良い先輩な

んだよね。


 「くれぐれも大破壊しないようにね」

 「当然よ! 初歩魔法で試させてもらうわ! この杖持っただけで違いがわ

  かるし、何より見た目がかっこいいわ!」


 魔法使いの人の感覚はわかんないね。俺も見せてもらう事にしよっと。

 エリーは詠唱破棄で魔法を連発してる。


 「嬢ちゃん、初歩とはいえその年でそれだけ詠唱破棄の魔法を操るとは。人

  の成長は早いな」

 「名工ガリアが強化した杖を使えるなんて最高です!」

 「エリー、そろそろまとが跡形もなくなってきたからその辺で」


 的が完全になくなる前に止めた。ほとんど残ってない。何十発撃ったの。


 「今度は俺の方も見繕みつくろってもらっていい?」

 「おうそれじゃ店に戻るか」


 軽盾は使わない時、邪魔にならないよう背中に背負えるように調整してくれ

た。問題は武器だ。


 「今までの片手剣と軽盾で戦うのがオーソドックスなスタイルだが何か希望

  の武器でもあるのか?」

 「うん。さっき思いついたんだ。投擲とうてき武器って置いてる?」

 「投げナイフならあるぞ。あまりオススメはせんがな」

 「何かオススメできない理由があるの?」

 「近くにある武器は死に戻ってもロストせん。しかし遠くにある武器はロス

  トするから、その度に補充する事になるぞ」


 不思議な事にデスッても近くにある武器も教会に回収されるんだよね。今の

話だと離れた武器はそうならないみたい。


 「あーそれなら気にしなくていいよ。しっかり回収するから」

 「坊主がそう言うならこれがいいぞ。5本セットでナイフケースもサービス

  してやる」

 「ありがとー。ちょっと試してみていい?」

 「いいぞ。裏の的もまだギリギリ残ってるか」


 もう一度店の裏に行き投げナイフを試す。

 的へ目掛けてかなり手加減して軽めに投げたつもりだった。


 「ドゴンッ」


 的は粉々に砕け散ってしまった。


 「ごめん! ガリアさん。手加減したのにー!」

 「あの的はそう易々と壊れる物じゃなかった。さすがグールを狩った2人な

  だけはある」


 的を散々撃ち抜かれた挙句あげく、最後には粉々に壊されたガリアさんからの評価

が上がった。



 その間ずっとエリーは新しく強化された杖に頬ずりをし何かを語りかけてい

た。きっと俺の知らない魔法的儀式でもしてるのかな。そっとしておこう。

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