第11話 何かを極めた人の眼力はすごい



 エリーの杖も限界だったので行きつけの鍛冶屋を紹介する事にした。


 「どうもー。ガリアさんいるー?」


 店の奥から聞こえてきた音が止み、少しするとのっしのっしと音が聞こえそ

うな雰囲気で現れた。


 「坊主か、よく来たな。ゆっくり見ていくがええ」


 いつも通りのマイペースな話し方で店に迎えてくれた。

 後ろにいたエリーに服のすそを引っ張られる。


 「ちょっと! ドワーフでガリアってこの人、名工ガリアじゃないの!?」

 「だれそれ?」

 「ドワーフの名工ガリアって言ったらわたしですら知ってるぐらい有名な鍛

  冶師よ!」


 ガリアさんはエリーを見ると笑った。


 「そのガリアがワシだ。坊主は知らんかったようだがな」

 「ガリアさんってそんな有名な人だったんだね。今日はうちのパーティーメ

  ンバーのエリーの武器の修理を頼みにきたんだ」

 「坊主もパーティーを組むようになったのか。人の成長は早いな。見せてみろ」



 エリーはおずおずと杖を取り出す。あのエリーがこんなにしおらしくなるな

んてガリアさんってそこまで有名なドワーフだったんだ。


 「むむっ。杖という事は魔法使いか。冒険者になるとは珍しい。坊主、大切

  にしてやれよ」

 「エリーにはいつも感謝してもし足りないぐらい感謝してるよ」

 「どうでしょう? 直りそうですか?」

 「少し待つがええ」


 そう言い残し奥の鍛冶場へ入って行った。


 「ロック、あなたの周囲って絶対におかしいわ!」

 「そうかな。みんなこのセレンの街の人だよ」

 「そういう事じゃないわ! 部屋へ行けば神様がいるし、行きつけの鍛冶屋

  は世界屈指の名工だし、おまけに友人は……ただの変態だったわね。差し

  引きゼロだわ」


 神様と名工を合わせてすら差し引きゼロになるなんてさすがジャック。友達

として誇りに思うよ。

 そうこうするうちにガリアさんが戻ってきた。


 「こりゃだいぶ使い込んだな。直すには預かりになる」

 「そうですか……。」


 しょんぼりするエリー。大切にしてきた杖なのかもしれない。


 「霊廟のレアでもあれば強化も可能なんだがなぁ」

 「ほんとに!?」


 これは渡りに船かもしれない。


 「俺達、丁度霊廟に行き始めたところなんだよ」

 「もう霊廟で狩れるようになったのか。人の成長はやはり早いな」


 虚空を見るように話すガリアさん。何か思うところでもあったのかな。


 「この杖には及ばんが仮の杖を貸してやるからレアを狙ってくるとええ」

 「やったー、ありがとう。ガリアさん!」

 「ガリアさん本当にありがとうございます! 杖よろしくお願いします」


 やっぱりエリーにとって大切な杖みたいだ。レア狙って頑張ろう。


 「どのモンスターが落とすレアなの?」

 「スケルトンだ。沢山いるから狙いやすいだろ」

 「スケさんなら余裕だね。それじゃ頑張ってくるよ」

 


 俺とエリーは急遽きゅうきょ、スケさんのレア狙いで霊廟に行く事にした。

とは言ったもののレアはそんなに簡単にドロップする物じゃない。

 だからすごい高額で取引されてるしそのほとんどがオークション行きだ。霊

廟のスケさんを全滅させる勢いで狩ろう。


 入り口のお爺さんとの会話もそこそこに霊廟へと入る。

 前回の教訓を生かし、警戒を常時発動し隠密はスライムだけに使った。


 どんどん現れるスケさんを2人がかりで倒しに倒した。


 「光の女神よ! この者のけがれをはらいたまえ! アンチポイズン!」


 毒を10回ぐらい治してもらっていた。本当にありがとうございます。光の

女神ってエリーの事じゃないかって言ったら杖で軽く叩かれた。


 「馬鹿な事言わないの! 次行くわよ次!」


 戦の女神かもしれない。



 道なりにスケさんを倒し続けた。武器持ちも今じゃ難なく倒せる。二人いる

事とスキルの効果で奇襲も受けない。後は冷静に対処して終わり。


 「ここまで来たのは初めてだよ」

 「わかってた事だけどなかなか出ないわね!」


 来た事のないエリアまで進んでいた俺達はそろそろ引き返す事にする。


 「一日でドロップしちゃったらレアとは言えないし、そろそろ引き返そう」

 「そうね、そうしましょう。 ん? 待って警戒に反応が」



 俺達は来た事のないエリアまで進んでしまっていた。ここはグールのテリト

リー。まずいと思った時には捕捉ほそくされていた。

 初めてグールを見たが聞いていた通りひと目でわかった。それは猫背で黒い

体色をした人型であり、前傾姿勢で気味の悪い目をこちらに向けている。

 小声でエリーにたずねる。


 「逃げられると思う?」

 「無理ね。完全にこっちを凝視ぎょうししてるもの」


 グールは素早い。人の足で逃げ切るのは不可能だ。だからみんな遭遇したら

デスる準備に入る。


 「こうなったらやれるだけやってやろう」

 「そうね! ぶっ飛ばしてやるわ!」


 さすが戦の女神(仮)だ。頼もしい。

 俺には最低ランクだが鉄壁の盾と即死回避がある。即死だけはまぬがれるはず。

遠くにいたと思ったグールは一瞬で間合いを詰めてきた。


 (速いッ!?)


 殴りかかってきたグールの一撃を片手剣を両手で持ち防ぐ。それだけで少し

体が吹き飛ばされた。


 (速さに加えてこの力は反則だろ)


 そこからグールの猛攻が始まる。殴り、引っ掻き、蹴りとこちらが反撃する

余裕もない。しかもカスッただけで毒が入り込み、その度に毒を回復してもら

っていた。


 「らちが明かないわね! 少し持ちこたえなさい」

 「既にギリギリなんだけどー!」


 グールには疲労がないのか、連続攻撃が止む気配がない。攻撃を受けないよ

うにだけ気をつけ受け流し続ける。


 怖い。デスれないというのはこんなにも恐怖を覚えるのか。

 余計な事は考えるのは止めだ。今は無心になって避ける。それだけに集中す

るんだ。


 (左、右、後ろへ飛ぶ、正面で受ける)


 少しずつ相手の動きもわかってきた。その時エリーから声がかけられる。


 「ロックよく、耐えたわね! そいつから離れなさい!」


 この猛攻で離れるとか無理だから! 絶対無理だから!


 「燃え盛る火炎よ! 我が眼前の全てを焼き尽くせ! フレイムバースト!」


 眼前の全てって俺も含まれてるよー! そんな俺の思いを無視して魔法が発

動する。俺はグールを無視して全力で真横に走って飛んだ。

 グールも俺を追い掛けてこようとしたがそれは叶わなかった。


 グールは一瞬で炎に包まれた。そしてその炎が大爆発を起こしグールは爆発

四散した。俺はその爆発のあおりを受け空を飛んだ。


 (わーい、人も空を飛べるんだー)


 その後落ちた。まだデスッてないけどかなりやばい。


 「ごめーんね! 光の女神よ! この者を回復させたまえ! ヒール!」

 「ふぅ。危なかったー。デスるかと思ったよ」

 「悪かったわね! でもほらグール倒したわよ」


 グールって倒せるんだね。

 俺はグールを倒したなんて話を聞いた事はほとんどない。皆が口々に言うの

はグールが出たら諦めろだったから。


 「あら、なんか落ちてるわよ! ドロップしたお金かしら」


 光るそれには見覚えがあった。以前手に入れたスライムと同じレア、グール

のレアであった。


 「ちょっと! それグールのレアだよ! それ持って急いでここを離れよう」

 「なんだかよくわかんないけどやったわ!」


 警戒をしっかり発動させてそのエリアから出口へ戻った。


 スケルトンのレアを狙っていたらグールのレアを手に入れてしまった。体の

震えが止まらない。


 「ギルドに行ってオークションの申請するけど静かに行くよ」

 「どうしてよ? 堂々と行けばいいじゃない!」

 「これが売れたらスケさんのレアを大量に買い込めるぐらいの値段がつくんだ」

 「グールのレアってそんなに高いの?」

 「グール自体ほとんど討伐されてないからね」

 「確かにアイツやばかったもんね。わかったわ!」


 俺達は静かにギルドに入りいつもの受付の人に匿名とくめいでオークションの申請を

した。さすがに受付の人も驚いていたが口に指を当て「シーッ」とすると事情

をわかってくれたみたいですぐに受理してくれた。



 ガリアさんの店に行きスケルトンのレアは手に入らなかったが別のレアが手

に入ったので、それをオークションにかけてからスケルトンのレアを買う事を

伝えた。なんのモンスターからレアを手に入れたかは伝えなかったが。


 「坊主たち、グールを狩ってきたのか。人の成長は早過ぎるな」

 「わたし達なら当然ね!」


 そうだね。スケさんのレアを買える霊廟レアとか他にないもんね。

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