第32話 ふわふわなかき氷を食べる日に限って肌寒い


 「話は聞かせて貰った!」


 ドンッという音と共に家の扉を開けてジャックが入ってきた。


 「曲者くせものッスか!?」

 「敵ね!」


 迎撃体勢に入りそのまま攻撃する。なんと頼りになるパーティーメンバーだ

ろう。

 ここが街の中にある自分の家であり、入ってきたのがジャックである事を除

けば。


 「うおっ! あぶねっ!」


 不意をついたエリーとクゥの連携攻撃を避けるなんてなかなかやるなぁと思

いながら止めに入る。


 「2人ともいきなり攻撃しちゃダメだよ。相手がジャックだから良かったも

  のを」

 「俺でもダメだろう……。」

 「それで突然どうしたのさ」

 「出店登録はしてやったが何を出すのか気になってよ。氷菓子ならちょっと

  俺に良い案があるんだ。神様少しよろしいですか? ごにょごにょ」


 ジャックと神様は2人で相談し始めた。ジャックは意外と神様に物怖ものおじしな

い。エリーなんて最初のうちは酷かったのに。ガリアさんもね。


 「あら、それはいいかもしれないわね」

 「ですよね。ガリアさんなら作れるでしょうし」

 「それでいきましょう。ロック君とエリーちゃんとクゥちゃんもこっちへい

  らっしゃい」


 話し合いが終わったみたいなので近くに行く。


 「今から途中を少し省いて実演するわね~。クリエイトウォーター」


 器に水が注がれていく。神様が出した神聖な水だよ。


 「これをクリエイトアイスで凍らせま~す。氷ができたら、お外で少し溶け

  させましょう」


 氷の塊を器ごと外に置いて溶けさせている。この暑さじゃすぐ溶けちゃいそ

うだね。

 民家から突然神様が普通に出てきたので、通り掛かりの人がすごい驚いて走っ

ていった。


 「これぐらいでいいわね。ここから本当は違う工程があるんだけど今はそれ

  を省いて、ウィンドカッター。はい、おーしまい!」


 これは俺でも知っている。みんな知ってるんじゃないかな。氷自体がなかな

か作れないのであまり食べる機会はなかったけれど。


 「これ、かき氷ッスよね」

 「わたしも暑い日によく食べてたわね。すっかり忘れてたわ!」

 「今は適当にこの果汁をかけてっと、できあがり~! 食べてみて~」


 かき氷を渡され口に入れると、ふわふわ柔らかい食感がして口の中でサッと

溶けていった。

 

 「なにこれ!? このかき氷は、まさにクロエ様のかき氷だ! おいしい! 

  おいしいよ!」

 「ふふふ、でしょう? ロック君もっとめてめて」

 「ロック! 神様がご所望よ! たたえなさい!」

 「俺、こんなにおいしいかき氷初めてです!」

 「ロック君、こんなにおいしいかき氷はなんですって?」

 「俺、初めてです!」

 「はい、よくできましたー」


 なぜかなでなでされている。その間にエリーとクゥはかき氷をすごい勢いで

食べていた。


 「な、なにこれ! 口の中が幸せになるー!」

 「うまいッス! 野性が目覚めるおいしさッス!」

 「野性に目覚めても、お皿を舐めるのは止めなよ。これって俺が知ってるか

  き氷と全然違うんですが何がどう違うんですか?」

 「このかき氷のポイントは魔法で水を作って、凍らせて、それを溶けさせた

  ところね。ウィンドカッターの部分はジャックに任せておけばいいわ」

 「ガリアさんに頼んで特注のかき氷機を作ってもらってくる。あっちはもう

  準備も終わって暇そうにしてたからな」

 「今回は何から何までありがとう! 今度何かお礼するよ」

 「俺とロックの仲じゃないか。気にすんな。お礼は楽しみにしてるぞ」

 「最後で毎回残念になるけど今回だけは礼を言ってあげる」

 「エリー様! ありがとうございます!」

 「なんでジャックさんがお礼してるッスか!?」


 神様はこれから街のお偉いさん達と打ち合わせがあるらしい。


 「また呼んでね。絶対よ?」


 頬にキスをして帰っていった。


 「ロックさんってアレッスよね。おかしいッス」

 「あれが日常茶飯事だから慣れるのよ。わたしにもして欲しいのに!」

 「エリーさんも大概ッス」


 ガリアさんへの依頼をジャックにお願いして俺達も仕入れに向かう事にした。

 まずはガリアさん行きつけの飲み屋に行く。マスターにエールを仕入れられ

ないか聞かないと。


 「うちは通常営業しかしないから仕入れ業者に頼んでおくよ」

 「今年は出店しないんッスか?」

 「お酒は競合店が多いし、うちみたいな小さい店は従業員も少ないからね。

  お祭りの時ぐらい順番に休ませてあげる事にしたんだ」

 「エールって出店だと1日にどれぐらい売れるんですか?」

 「どうしても温くなってしまうからね。2樽分ぐらい売れれば良い方だと思

  うよ」

 「それじゃ10樽ね! マスター大丈夫かしら?」

 「うちは毎日仕入れしてるから平気だよ。でも本当に大丈夫かい?」

 「ちょっとした秘策があるんで10樽お願いします」


 出店の日までお酒の保管庫に入れておいてくれるらしい。ここはメインスト

リートのすぐ裏通りにあるのですごく助かった。さすがに10樽を家からとな

ると一苦労だから。


 普段よりも早めに立ち始めたいちで、あのクロエ様のかき氷に合うフル

ーツやシロップを物色する。

 お祭りが近いせいかどこのお店も威勢良く客の呼び込みや叩き売りをしてい

た。

 だいぶ安く売られてる物が多かったので大量に買ってエリーに凍らせて保管

してもらうつもりだ。

 おそらくエールもかき氷もとんでもない数が売れるはずだ。もしかして本当

にトップを狙えちゃうかも。


 「ぐふふ、ふぇふぇふぇ」

 

 思わずおかしな笑いを出してしまった。怪訝けげんそうな表情で2人が見てくる。


 「突然、変な笑いしてどうしたの?」

 「大丈夫ッスか?」

 「トップ狙えるかもと思ったらおかしな笑いが出ちゃってさ」


 エリーとクゥもどうやら想像してくれたようだ。


 「「ぐふふふふふふふ」」

 「俺の気持ちわかったでしょ?」

 

 本当に楽しい事を見たり、聞いたり、想像した時って思った以上に変な笑い

声出ちゃうんだよね。



 「それでもフルーツもエールもあんなに買って大丈夫ッスか?」

 「売れ残ったら自分達で少しずつ飲めばいいよ」

 「うちのパーティーはね、楽しむ時は全力で楽しむの!」

 「完全に金の力に物を言わせてた気がするッス」

 「クゥも楽しみなさい! 例え金の力に物を言わせたとしてもね! おーほっ

  ほっほ」

 「あ、今のエリーすごい貴族っぽかったよ。しかも悪徳あくとくな」


 エリーは元々貴族だから堂々とした貴族的な仕草が似合うんだよね。


 「この悪徳風な立ち居振いふいが貴族の間でエモいとか、酒場で自称貴族に

  教えてもらったわ」


 酒場に来る……自称貴族……。色々な意味で大丈夫だろうか。

 本当に貴族かどうかとか、エリーを探しに来た追っ手じゃないかとか。


 「その自称貴族の人って大丈夫なの?」

 「ドレスでギルドの酒場で飲んでたのよ? 大丈夫なわけないじゃない!」


 ドレスって事は女性かな。何が大丈夫じゃないのかちょっと心配。


 「明らかにヤバイからみんな見ないフリしてたの! かわいそうだから話し

  かけてあげたのよ!」

 「ギルドの酒場でドレスで飲んでる人なんて見た事ないッス」

 「でしょ? エモい、エモいずっと言ってて完全に頭エモかったわ!」


 全然話がわからない。貴族の間でエモい? ドレスでギルドの酒場?


 「ちなみにそのエモい貴族が今日うちに遊びにくるわ!」

 「ちょ、ちょっとエリー!? そういう事は早めに言おうよ」

 「自分達ゆっくり買い物してたけど平気ッスかね」

 「とりあえず急いで帰ろうか」


 何時に来るかわからないエモい貴族を迎えるため家に急ぐ。


 聖クロエフェスティバルを目前に控え、何かが動き出そうとしているのかも

しれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る