第16話 真の祭り
昨晩はいつの間にか寝てしまったみたいだ。目が覚めると朝になっていてク
ロエ様も帰っていた。
夜にクロエ様を呼んでからの記憶があやふやなので、今度クロエ様に聞いて
みようと思う。
それにしてもこんなに清々しい気分で朝を迎えられたのはいつぶりだろう。
解錠スキルを手に入れ、今日からグール生息エリアをメインの狩り場にする
予定だった。朝から調子が良いなんて最高の日になりそう。
「コンコン」
ドアをノックする音がした。
「はーい、今開けるよー」
ドアを開けると珍しくエリーがいた。
「今日はいつもみたいに入って来なかったんだね」
「だって神様と何かしてて消されたら怖いじゃない!」
「完全に誤解したままだよね、それ」
朝からエリーも元気そうだし今日は頑張ろう。
解錠用のアイテムを持ったか確認する。武器はスタンダードに片手剣、短剣、
投げナイフ、ラウンドシールド。
これでグールエリアでどれだけ戦えるか、探索まで可能かを試す。
今の俺とエリーなら充分やっていけるとは思うがダンジョンではアクシデン
トが付き物だからね。
あのデス祭り以降グールに挑戦する冒険者も増えたらしいから警戒スキルを
モンスターだけじゃなく冒険者も対象にしながら行くつもりだ。
「なんで冒険者も警戒するのよ?」
「グールから逃げてきた冒険者と鉢合わせると複数のグールを相手取る可能
性が高いからだよ」
「あー確かにそうね! 警戒は常時発動で行きましょ」
霊廟のモンスター相手だとスライムにしか効果がない隠密もほぼ常時発動し
ている。
なぜ、そんな無駄に思える事をしているかというと隠密は成長型だからだ。
成長型スキルは使用しないと全く伸びないものもあるんだ。パッシブスキル
として発動している鉄壁の盾と即死回避は経験で伸びるってスキル講習で習っ
たんだよ。
武芸に関しては謎なんだよねぇ。むしろ持ってる人も聞いた事がないぐらい
だからエリーにも「黙っておいた方がいいわ!」って言われちゃった。
スキルの説明から推測して色々な武器を使っている。稼いだお金を武器につ
ぎ込んでいて良かった。
こんな考え事をしながらでもスケさんエリアは既に楽勝になっていた。
「そろそろグールエリアに入るよ。警戒上げようか」
「そうね! わたしも後方へ警戒使っておくわ」
「ありがとう。背中は任せたよ」
他の冒険者を警戒で察知した場合、隠密を使いやり過ごすと事前に作戦を練
っておいた。これで余計なトラブルは回避できるはず。
警戒の網に一匹のグールが引っ掛かる。周囲に他のモンスターや冒険者はい
ないようだ。
「単体のグールを
「こっちも
「それじゃ
警戒を発動したままグールに近づく。
こちらに気づいたグールは全速力で走ってくる。以前のように真正面から馬
鹿正直に攻撃を受け止めない。
投げナイフを下半身に向かい全力で投げて先制攻撃をする。
「ドガンッ」
手応えを感じるそんな音と共にグールは体勢を崩しゴロゴロと転がった。
「やったわ! 今度はわたしの番ね!」
「燃え盛る火炎よ! 我が敵を焼き尽くせ! 顕現せよ、フレイムアロー!」
エリーの周囲に10本程の炎の矢が形成される。
一瞬後、その全てが倒れているグールに向けて発射された。その矢が着弾す
るとグールは燃え上がり周囲に熱風を巻き起こす。
グールが光に包まれ消えていき倒したとわかる。
2人してしばらく黙り込む。意を決したようにエリーが話しかけてきた。
「倒したのよね? わたしたち」
「うん、倒しちゃったね」
戦えるとは思っていた。けどこんな一方的な展開になるとは思ってもみなか
ったんだ。
「さっき、牽制のつもりで投げナイフ投げたでしょ?」
「最初の攻撃ね。それがどうしたの?」
「全力で投げたら命中したグールの足が吹き飛んだ」
「あーそれで倒れてから動かなくて当てやすかったのね!」
1投目でほとんど勝負がついていた。いくら力が強く素早いグールでも遠距
離から機動力を奪われ高火力で攻められたらどうしようもないみたい。
「エリーの場合、あの魔法の威力だと1、2本で倒せると思う」
「初歩でも余裕なのね! 次のグールで試してみましょ!」
俺たち2人による、真のグールデス祭り開催。
どれだけ火力を削り、消耗せずに倒せるかをグールさんに実験台になっても
らった。
遠距離のハメ殺しだけではなく近距離でどれだけ戦えるかも試す。
「ロック! 危なくなったら言いなさいよ!」
「わかったよ。それと毒の回復はよろしくね」
グールの攻撃を軽盾で受けながらスキを見て片手剣で少しずつ攻撃を加えて
いく。
初めて戦った時は力と素早さに
互角以上に戦えているのがわかった。
戦闘が継続するうちにグールの攻撃にスキやクセがあるのも掴めてくる。
グールが少し屈んだ事で飛び込みながら大振りの攻撃がくる。
(いまだ!)
攻撃を見切り軽盾で受けず横にかわす。
「シールドバッシュ!」
大振りの攻撃を避けられて体勢を崩したグール目掛けて全体重を乗せ
シールドバッシュを叩き込んだ。
「グシャッ」
強靭なグールの体に甚大なダメージを与えられたようだ。倒れて動けないグ
ールに片手剣で止めを刺す。
グールが光へと帰っていくのを確認する。
「やったよ。1人でも倒せた……。」
「頑張ったわね! 毒にもなってなかったわよ」
まさか自分がグールをソロ討伐できる日がくるなんて思っていなかった。
その嬉しさでテンションが上がってしまい、2人でグールを狩りまくった。
いつもならエリーを止める俺が一緒になってハメを外しグールをハメ殺した。
「それじゃ今日は一発上位いっちゃっていい!?」
「いっちゃえいっちゃえ」
「見てなさい! 丁度良くグールの群れがいるわ」
グールの群れはまだこちらに気づいていない。
エリーは少し指の先を
と同時にエリーの前に魔方陣が現れゆっくりと回転しはじめる。
「地獄の
す初めの炎! 炎の神よ! 召喚を
俺はエリーを止めるべきだったのかもしれない。グールの群れがいた周辺は
数日間燃え続けた。
せめてもの救いはここがグール生息エリアの中でも奥地にあたり、あまり他
の冒険者がたどり着けない場所だった事だろう。
それでも、この側まで来られた冒険者がいたらしくギルドや酒場ではその噂
で持ちきりになった。
「グールエリアに燃え続けてる場所があるらしいぜ」「俺も聞いたぞ」「地
獄の悪魔が儀式でもやってるとか」
うちのパーティーの悪魔がすみません。ゆるしたまえ。
後半は悪ふざけが過ぎちゃったけどグールエリアでも戦える事がわかっただ
けでも大収穫だよ。
その晩、使った武器の手入れをしていると突然部屋が光り輝きだした。これ
はアリスかな? と思い上と横を見るが誰もいない。
「正解はこっちでしたー」
後ろに軽い重さを感じるとそこにはアリスが抱きついてきていた。
「後ろだったんだね。今日はどうしたんだい?」
「ろっくおにーちゃん、アリスが来たって事は……わかってるでしょ?」
後ろから抱きついたアリスは俺の頭をなでなでしはじめる。
「今日はアリスおねーちゃんがいっぱいろっくおにーちゃんを甘えさせてあ
げるのー」
アリスぐらいだときっとお姉さんぶりたい年頃なんだろう。ここは付き合っ
てあげないと。
「うんうん、アリスおねーちゃん」
「はい、よくできましたー。いっぱいなでなでしてあげる。ついでにスキル
も成長したから祝福を与えちゃうね」
アリスから光が流れ込んでくる。成長した時にアリスがやってくれていたの
は祝福だったんだ。
「スキルも成長した? さすがに早くない?」
「グールをあれだけ倒しちゃったからねー。普通のしょしんしゃさんはグー
ルなんて倒せないよ?」
「あはは、そうだよね」
成長の神様であるアリスに謎の多い武芸について聞いておこう。
「アリスおねーちゃん。武芸の成長ってどうやればできるの?」
「しかたないなー。今まで通り武器をいっぱい使うといいよ! 今回武芸も
上がってるからね」
「さすが、アリスおねーちゃん。ありがとう!」
「どういたしまして。アリスおねーちゃんって呼ばれるのクセになっちゃい
そうだよー」
アリスになでなでされながら2人でしばらくの間仲良く話をした。
「ろっくおにーちゃん、今日はいっぱい甘えられた? またアリスが甘えさ
せてあげるからねー。それじゃまったねー」
「コンコン」
ドアがノックされる。返事をしてドアを開けると顔を真っ赤にしたエリーが
立っていた。
「こんな時間にどうしたの? とりあえず中に入りなよ」
「ダメよ! 今はロックの顔をまともに見られない!」
不思議に思い先を
「わたしも立ち聞きしちゃって悪いと思ってるの! でもさすがにアリス様
相手にお姉ちゃんプレイは上級者過ぎるわ!」
走って自分の部屋へ戻って行った。
そんな内容聞かれちゃって恥ずかしいのは俺の方だよ……。
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