第45話 自己紹介は普段通りやればいい


 翌日、エリー達3人に起こされて学園へ行く。

 1人で起きてちゃんと起きられるというところを見せようと思っていたのに、

その目論見はご破算となった。


 「ロックさんってこんなに朝弱かったッスか?」

 「ここ数日、なかなか起きられないんだよ。寒さのせいかな?」

 「言われてみれば前はここまで寝起き悪くなかったわよね!」


 アーヤさんは最近、雰囲気の暗い学園でいい波のってるという魔除けの儀式

を歩きながら俺にしてくれている。

 具体的に言うと頭の上からパラパラ塩を振りかけられている。

 本人はすごい大真面目に取り組んでいるので言い辛いが正直やめてほしい。

 髪も真新しい制服も塩まみれになってる。


 「ロックさんはきっと取り憑かれてやばたにえん (ロック様、あなた疲れ

  てるのよ)」


 アドバンで一時期エリーが体調を崩したように、俺もノースヘッド学園にき

てからあまり体調が良くない。

 極寒の土地へ来たのが初めてなので慣れるまで時間が掛かるかもしれない。



 学園に着くと一昨日、学園長に会いに来た時とは打って変わりざわざわとし

ているのがわかる。


 「あれ? 一昨日より活気出てない?」

 「おかしいわね。昨日は静かなものだったわよ!」


 あちらこちらに生徒が散見されコソコソと話をしているのが見て取れた。


 「まずは教室なんだけどロック、あんたは職員室へ行ってきなさい」

 「わかったよ。誰に話せばいいの?」

 「転入生って言えばわかるッスよ」


 職員室の場所を教わり3人とは別れる。職員室の場所は学園長室の側だった

のですぐに見つける事ができた。


 「コンコン」


 ノックをして入室をする。


 「すみません。転校してきたロックという者なんですが……。」

 「おー、ロックやっと来たか。こっちだ」


 既に職員室にいたジャックに呼ばれそちらへ行く。


 「おはようございます。ジャック「先生」」

 「お前にそう呼ばれるとすごいむず痒いな。俺は副担任になったから担任の

  教師を紹介するぞ」


 ジャックに案内され1人の教師の前に連れて行かれる。


 「ケイト先生。昨日、欠席していたロックが来ました」


 その人は眼鏡をした若い女性の教師で真面目で清潔そうな感じは、セレンの

ギルド職員であるカレンさんと似ていた。


 「はじめまして。わたしがあなたの担任のケイトです。体調を崩したと聞き

  ましたがもう大丈夫ですか?」

 「はじめまして、ロックです。昨日は突然欠席してしまい申し訳ありません。

  まだ本調子ではないですが、徐々にこの寒さにも慣れていくと思います」

 「ここは寒い土地ですからね。充分気をつけてください」


 いきなり怒られるなんて事もなく優しそうな先生で良かった。

 学園で使う教科書等を一式で受け取り説明を受ける。


 「それではこれから教室へ行きます。簡単な自己紹介をしてもらうのでその

  つもりで」

 「ロック、頑張れよ」


 ニヤリと笑うジャックに励まされ教室に連れて行かれる。

 エリー達からは何も聞かされてなかったので突然の展開に驚きを隠せない。 

 ジャックの笑みはそういう事だったらしい。


 教室に行くまでの間に話していい内容と設定を頭の中でまとめる。


 「エリーは姉……。クゥは使用人……。アーヤは友人」


 ブツブツと呟いている俺を気遣ったのか、ケイト先生は言ってくれる。


 「簡単にで良いんですよ。あなたのお姉様は名前しか言わなかったですし」


 その姿が容易に想像できてしまう。「わたしの名前はエリザベス! 以上よ」

こんな感じで終わらせたのだろう。


 「それでは先にわたしが入りますから、呼んだら中へ入ってきてください」

 「わかりました」


 ケイト先生は先に教室の中に入って行った。

 それまでザワザワとしていた教室内が静かになったのがわかる。これは緊張

してきた。

 昔ジャックに教わった緊張した時の対処方を使う時かもしれない。それは。


 「ロック君。中に入ってください」


 対処している時間なんてなかった。

 教室に入るとたくさんの人達が一斉にこちらを見るのがわかる。

 うぐぐ。恥ずかしいよこれは。

 ケイト先生の横まで行くと促されて自己紹介をする。


 「はじめまして。1日遅れですが転校してきたロックです。昨日転入したエ

  リザベスの弟になります。わからない事だらけでおかしな事を言ったりす

  るかもしれませんが、みなさんよろしくお願いします」


 無難だ! 無難な挨拶が出来たはずだ!

 パチパチと拍手で迎えてくれる。アーヤさんがすごい勢いで拍手してた。


 「ロック君の席は一番後ろにいるお姉さんの横ね」


 一番後ろにいるエリーの隣に座る。


 「なんで教えてくれなかったのさ」


 自己紹介がある事を教えてくれなかった事をぼやいた。


 「あれぐらいわたしの弟ならできて当然だからよ! すっかり自己紹介なん

  てあった事を忘れてたわ」


 後半が本音かもね。エリーにとってあんな事は取るに足らない出来事なのだ。


 「ところでどんな自己紹介をしたの?」

 「わたしの名前はエリザベスよ! あなた達には特別にエリザベス様と呼ぶ

  事を許可してあげるわ! 確かこんな感じの事を言ったわ」


 予想の上をいっていた。名前しか言ってない、言ってないけれど様付けで呼

ばそうとしてるよこの子!


 「着々とわたしをエリザベス様と呼ぶ人が増えてきてるわ! くっふっふ」


 行く先々でエリー様とかエリザベス様とか呼ばせてるよ。この学園も彼女の

毒牙にかかるのだろうか。


 朝のホームルームが終わり、クラスメイトが一斉に近づいてきた。


 「もう体は大丈夫?」

 「ここは寒いからね。気をつけた方がいいよ」

 「エリザベス様の弟君だー!」


 初日に休んだ俺の体調を気遣ってくれる人が多くて驚いた。

 なんて紳士淑女の多いクラスなんだ。最後の方を除いて。

 転校生特有なのだという囲まれる儀式を終えると、全員から頭から塩を掛け

られまくって真っ白になっている俺にアーヤが近づいてくる。


 「うちのクラスにもダンジョン授業でデスッた人いるみたい。後で話聞くの

  オールオッケーだって (わたくし達のクラスにもダンジョン授業で被害

  に合われた方が何人かいますわ。後でお話を聞かせてもらえる約束をして

  おきました)」

 「本当!? ありがとう。助かるよ」


 やはりアーヤに協力を頼んで良かった。

 授業の合間に学生用ダンジョンでデスッた人達から話を聞く事ができた。で

きたのだが……。


 「みんな気がついたら教会だったらしいね」

 「そんなのありえないわ! ここのダンジョンってスライムとスケルトンし

  か出ないんでしょ?」

 「みたいッスね。気がついたらデスるなんてレベルのモンスターどころかデ

  スる事すら難しいレベルッス」

 「これでわかったのはスライムとスケルトン以外のモンスターが何らかの理

  由で出るようになったという事だね」


 それしか理由が考えられない。いくら学生と言えども最弱モンスター相手に

ありえない。


 「朝から学園内がやたらざわついてる理由とも繋がるわね!」

 「結局なんだったの?」

 「昨日、ダンジョン授業のあったクラスが全員デスッたらしいの。そんな真

  似できるなんて、どう考えても他のモンスターしかありえないわ」

 「え!? そんな事が起きてたんだ。アーヤはそのクラスに知り合いいる?」

 「それ上級生のクラスみたいでー。ないたー (上級生のクラスの方達らし

  く残念ながらわたくしの知り合いはいませんの)」


 話を聞きたかったが仕方ないか。ここまでである程度の情報は得られたので

学園長に報告した方がいいだろう。



 放課後になり、3人を連れて学園長室へ行く。

 もうアーヤにも聞かせても良いが一応外で待っていてもらう事にした。


 「コンコン」


 ノックをして学園長室へ入る。


 「君達か。掛けてくれたまえ」


 ソファーに座り集めた情報を伝える。


 「結論から言うとほぼ確実に別のモンスターが出現している可能性が高いで

  す」


 それは学園長もある程度予想していたようで苦虫を噛み潰した顔をしながら

も口を挟まずに聞いている。


 「昨日、ダンジョン授業で全員がデスッたクラスがあると聞いたんですがそ

  のクラスの誰かからお話を聞けないですかね?」


 学園長は報告書のような物に目を通しながら言った。


 「少し待っていてくれ。もしかしたら話をしてくれるかもしれない者がその

  クラスに在籍している」


 学園長は退室するとしばらくして1人の女生徒を連れて戻ってきた。


 「学園長、その人は?」


 学園長が連れてきた女性徒はキリッとした目つきの美人さんでこちらを見て

言った。


 「この学園にいてわたしを知らないとは……そなた達はこの学園の者ではな

  いな」

 「なんでわかったの!?」


 一発で化けの皮を剥がされてしまった。そんな有名人なら一言いっておいて

くださいよ学園長。

 学園長は手ですまんすまんと謝りながら紹介してくれる。


 「彼女は件のクラスに在籍している、この学園の生徒会長のミズキさんだ」


 ああ。それは知らなかったら一発でバレるよね。

 昨日転校してきたばかりで知らなかったんですぅという言い訳もできるけれ

ども全員のしまった! というリアクションを見た後ではもう遅い。


 そういうわけで生徒会長にも学園スパイの共犯になっていただこう。

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