第64話 俺、この戦争が終わったら田舎に帰って農家でもやるわ
コンゴウの発言に驚かされた3人は顔を見合わせながらもそれぞれ思考を巡
らせていた。
やっぱり思った通り!
でも、ロックのお父様とママが深い関係ってどういう事かしら。
まさかわたしとロックが本当の……。
ないわね。ロックは自分のお父様を養父だと言っていたし。
その場合義理のという可能性も……。
落ち着くのよ、エリー。不確定要素に惑わされてはダメ。
ここは一旦成り行きを見守りましょ。
ロックさんのお父様ッスもんね。
神様と多少なりとも関係がある事も無きにしも非ずッス。
血は繋がってないみたいッスけど親子ってやっぱり似るものなんッスね。
深い関係と言われた当のフィーナ様自体がドン引きしてるじゃないッスか。
見たところ、エリーさんも困惑気味ッスね。
ロックさんの言う偽の一般庶民ではなく本当の一般庶民である自分は完全に
蚊帳の外なので、エリーさんが言ってたように心を無にして全てを受け流す事
にするッス。
俺と父さんとフィーナ様の間で視線を漂わせるエリーと、目をつぶり深く瞑
想するが如く無言を貫くクゥ。
ここは俺が直接聞くしかないんだろうなぁと思い口を開く。
「深い関係ってどういう事なの?」
面識があるどころか深い関係って。
深い関係といえば、深い関係だよね。
「彼女とは長い時間を共に過ごしてきたのだ」
共 に 過 ご し て き た。だって!?
それを聞いたエリーが力なくテーブルの上に突っ伏してしまった。
クゥは何かブツブツ呟きながら深く瞑想している。
「もしかして、俺の本当の親はフィーナ様なんじゃ」
「何を言っておるのだ。彼女は母であろう」
それを聞いて俺も机に突っ伏した。
「プププッ。コンゴウその辺にしてやれよ。全員勘違いしてるぞ」
「むむっ。勘違いとは如何な事か」
大ダメージを受けている俺とエリー、耳を塞いでブツブツ呟いているクゥ。
フィーナ様まで引いている。悪夢なら早く覚めてほしい。
そんな思いに手を差し伸べてたのは意外にもジャックだった。
「完全に誤解してるからクロエ様も呼んで説明してやれって」
「ふむ、途中から皆の元気がなくなっていったのはそういう訳だったのか。ク
ロエ様、今来ていただけるか?」
いつもの白い煙をボワワンと漂わせクロエ様が現れた。椅子に座った俺の膝
の上に。突然顔が柔らかい何かに包まれて混乱した頭が真っ白になる。
「ロックとクロエ様は随分と仲良くなられたものだ」
父さんの前でクロエ様に包まれている。
なんという羞恥プレイだろうか。恥ずかし過ぎて顔をあげられない。
顔はクロエ様に包まれているので物理的にあげられないわけだが。
「コンゴウさんったら、ロック君達をいじめちゃダメじゃない」
最高神であるクロエ様が全ての人を知っていてもおかしくはないが、クロエ
様まで面識があるの?
「クロエ様も久しぶりであるな。少々行き違いがあったようで。拙者と神様達
の関係を初めて話す時が来てしまったらしい」
「途中から見ていたけど、行き違いなんてレベルのものじゃなかったわよ」
俺の頭のすぐ上でクロエ様が苦笑している姿が想像できる。
ジャックは笑い過ぎて過呼吸気味になっていた。後でエリーに酷い目に合わ
されないといいですね。
「それはすまなんだ。明確な表現を避けて曖昧な表現にしたらああなってしま
ったのだ」
「わたしもビックリしたわよ! 深い関係ってどういう事! って」
光の女神様であるフィーナ様をそこまで驚かせるなんて自分の父親ながらな
んて事をしてくれてるんだろう。
怒ってはいないようだからいいが。
俺、エリー、クゥの知らない神様達の表情が垣間見える。
「コンゴウさんに任せるとまたおかしな誤解が生まれそうだからわたしから説
明させてもらうわね」
「そのようであるなぁ。クロエ様頼む」
「えぇ。でもその前にわたしとそこでグッスリ寝ているアリスの分もお茶を貰
えるかしら」
「あいわかった。アリスちゃんも来ておったか」
父さんがウチで取れた茶葉を使った特製のお茶を淹れる間、クロエ様に包ま
れていた俺はすっかり落ち着きを取り戻しいつもの冷静な自分に戻っていた。
エリーとクゥも時間を置いた事で冷静になっているだろう。
「それじゃ話しましょうか。500年前から今まで続くわたしの罪のお話。ク
ゥちゃんは初めて聞く話かもしれないから最初から話すわね」
いつも笑顔のクロエ様が少し疲れた様な表情を浮かべながら話し始めた。
「昔々、500年以上前の世界は神と人は完全に隔絶されわたし達神々も人に
干渉せずに動いていたの。それ以前の最高神は人の事が本当に好きでね、し
ばしば人の観察をしてらしたわ。今となって思えばそれを止めさせるべきだ
ったのかもしれないわね」
「すみませんッス。話の腰を折って悪いんッスけどその言い方だと神様が元々
は最高神様ではなかったという事でいいんッスか?」
「そうよ。わたしが最高神になったのが500年位前の事なの。それ以前はこ
の世界、神々、生物全てを作り出した方が最高神だったのよ」
「そうだったんッスか。すみませんッス、続きをお願いします」
以前にノースヘッドで今の世界になる前の事をフィーナ様に教わったけど、
その時クゥはいなかったんだよね。
その時、学園での授業を受けていたという。1番学生生活を真面目に謳歌し
ていたのがクゥだった。
「ある時からその元最高神が顔を顰めながら人を観察する事が多くなったわ。
人口が増え、様々なコミュニティであったり国だったりができたり滅んだり
していったわ。そんな事を数万年繰り返していたら元最高神があまりわたし
達の前にも姿を現さなくなって……。再び現れた500年前にポツリと言っ
たの。「世界を無に還そう」と」
フィーナ様から聞いた事を改めてクロエ様から聞くと、やけにリアリティが
あって寒くもないのに鳥肌がたった。
「その頃存在した神達のほとんどが反対したわね。世界を無に還すという事は
人や生物だけじゃなくわたし達神も消すという事だから当然ね。元最高神対
神々の戦いになってしまったわ。神々の中には荒々しく真っ向から1対1で
戦いを挑む者もいたわね。名乗りを上げてる途中で消されてたわ」
その神様はもっとよく考えた方が良かったではないだろうか。消されてしま
った今となってはもう遅い事だけど。
「元最高神とはいっても世界を無に還す事は簡単にはいかなかったの。それだ
けの力を溜め込むために神界の中央で力を溜めだしたわ。わたし達には時間
がなかった。そこで彼の力を借りる事にしたの。もうわかったでしょ。それ
が誰に知られる事もなく文字通り世界を救った勇者、コンゴウさんよ」
……え? わかってない。父さんが500年前に世界を救った勇者?
「でもでも! そんなのおかしくないですか? 500年前に世界を救った勇
者のはずがどう見たって30代ぐらいにしか見えないじゃないですか」
エリーの言う通りだ。そもそも人間はそんなに長寿な種族ではない。父さん
は昔から30代ぐらいの見た目だ。ん? 昔から……?
「そういえば父さんの見た目って俺が子供の頃から変わってない気がする」
「それ普通は気づくッスよね」
考えれば考える程おかしな事がバーッと頭の中に浮かんできた。
「気づかないように、わからないように。コンゴウさんに関する事に違和感を
抱かない封印を世界に施してたのよ。今、あなた達3人だけがその封印から
解き放たれてるわ」
俺達3人は父さんをまじまじと見る。目が合うと照れた様に頭をボリボリ掻
きながら自ら名乗ってくれた。
「拙者はコンゴウ。そこにいるロックの父である。んーなんというか、恥ずか
しながら神様達は勇者などと呼んでおるが。500年前に元最高神様を封印
する手伝いをしただけのしがない農家だ」
「500年前の農家って最高にロックしてたんッスね」
今までおかしいと思わなかった事が一斉に頭の中を埋め尽くしていてクゥの
言っている事もよくわからなかった。
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