第47話 そして1人目は器用貧乏
松明の灯る階段を下りて行く。壁も階段もしっかりとした造りになっていて
初心者ダンジョンを思い出す。
「クゥ、警戒と罠感知に反応ある?」
ダンジョンに潜ったと同時にクゥには両方のスキルを広域に持続使用で展開
してもらっている。
「今のところ罠の反応はないッスね。警戒の網には引っ掛かってはいるッス
けどスライムとスケルトンッスよ」
俺とエリーの警戒はクゥ程の正確性が出るまで成長させられていない。ダン
ジョンへ潜る前から警戒Level10にまでしていたのは伊達じゃないって事。
「クゥちゃんの警戒すごいな。最近ダンジョンに潜り出したとは思えない」
ジャックがそういうのもわかるね。
クゥの内面とこのスキルは合致しているんじゃないかな。俺がいくら成長さ
せてもクゥ程の正確性を持てるまでには成長させられない気がする。
「ジャック、あんたは殿なんだから後ろの警戒頼んだわよ!」
「エリー様任せておいてくれよ。クゥちゃん程じゃないがしっかり仕事はさ
せてもらう」
「それじゃここからは隠密で探索するよ」
学生用ダンジョンは初心者ダンジョンと同じ様に洞窟のようだった。
ダンジョンへ行った事がない人にダンジョンを想像してもらうと大体こんな
感じになるだろうという典型的なダンジョンの構造をしている。
「お前らとダンジョン潜るの初めてだが手馴れてるな」
ジャックが感心する。そういえばジャックとダンジョンに入るのも久しぶり
だった。
「スキル覚えてからはこんな感じだね。うちのパーティーは役割分担が確立
してるから」
強いて言えば俺の役割がほとんどない。俺が盾になる前にエリーが消してし
まうので軽盾が綺麗なままだ。パーティーメンバーが優秀過ぎてつらい。
俺にもっと力を!
地図に載っている階層を探索していく。代わり映えのない洞窟にスライムと
スケさん。特に問題はない。
「既知の場所は正体不明のモンスターもいなければ、罠もない初級ダンジョ
ンッスね」
やはり地図外に問題があるようだ。
「これから地図外にある場所へ向かうけれど、いのちだいじにね」
「わかってるわ! 今日は
「エリー様、ナチュラルに俺を囮に使おうとしないで」
エリーは目を瞑り何かを思い出している。そしてカッと目を開いて言った。
「わたしは初めて初心者ダンジョンのボスと戦った時に教わったの。使える
物は囮にでもして使えと」
「そんな事教えたの誰なんだ……。」
「ヒュスー……。」
俺は吹けない口笛を吹きながら地図外の場所へ向かって行った。
クゥが身振りでストップをかける。周辺に持続型警戒を広範囲に発動したま
ま集まる。
「おかしいッス。ここからだと生徒会長がデスッた方向に警戒も罠感知も効
果が発揮されないッス」
言われてみると確かにどちらの反応もサッパリなくなる。まるで壁でもあっ
てその向こう側には何もないかのように感じた。
「ダメね。わたしも使ってみたけど何も見えないわ!」
「ジャックはどう? ダンジョンでそんな事ってあるの?」
今までにない想定外の展開に焦りながらも、冒険者の先輩であるジャックに
聞いてみる。
「そんなダンジョン聞いた事もないな。俺も警戒を使ってるがこの先は何も
見えない。この先は全く別のダンジョンと考えた方がいいかもしれん」
「わかったよ。それじゃとにかく境界まで進んでみよう」
感知効果が効かなくなる境界を目指す。
地図の一番奥の場所、そこから先が境界。
俺も見えているという事は、獣人であるクゥにも既に見えているだろう。
「ヤバイッス。ヤバイッス」
そんな事を呟きながらも先頭を恐々と進んでいく。
ダンジョンのモンスターは生み出された階層からほとんど離れられない。数
十メートルぐらいは出てくる事もできるが、モンスターより先に気づき全力で
逃げれば逃げ切る事も可能だ。
「こりゃ、いよいよおかしいな」
ジャックにも境界が見えてきたようだ。俺も同意見だよ。
普通の洞窟は突如として終わりを告げ、その先には言葉に出すのもおぞまし
い空間が広がっていた。
デスッた学生達はこんなとこに突っ込んで行ってたのか。
昨今における学生の危機意識のなさが
「なにあれ。趣味が悪いわね!」
天井からは液体が垂れ落ち、全体が赤と黒の中間の色をしてモゾモゾと
得体の知れない気色悪さを醸し出していた。
「ここ入るッスか?」
「入ってみない事には何もわからないからね」
さすがにここまで
ので俺が先にその層へと足を踏み入れた。
果たして地面と呼んでいいのか、その場所はブヨブヨと柔らかく余計に気持
ち悪さを増長させた。
「警戒に反応あり、今度は前の層に警戒の効果が出なくなったよ」
ジャックの言った通りなのか、前の層と今いる層がこの境界で区切られてい
るかのようだった。
「ロックさん、まずいッス。おそらく正体不明のモンスターに捕捉されてる
ッス」
何かがゆっくりとこちらに向かってくるのが警戒の効果でわかる。
「全員戦闘準備! どんなモンスターかしっかり確認するよ! くれぐれも
いのちだいじに」
「わかってるッス。エリーさんを守りながら周囲に警戒と罠感知を展開して
おくッス」
「まずは小手調べね。初歩魔法だけを魔導書で溜めておくわ!」
片手剣と盾を構える。どんな攻、
「ガコンッ!」
突然、目の前に現れた何かに攻撃される。軽盾スキルのお陰か、盾で自然と
受け流せた。
その敵は既に目の前にはいない。
「全員、俺の後ろへ!」
一直線になり俺の後ろを狙わせないようにする。
さっきのをクゥやエリーが受けたらまずかったかもしれない。先頭になった
俺を狙ってくれて良かった。
「何? 今なにがあったの!?」
「正体不明モンスターは遠くから一気に近づく事ができるっぽい!」
そしてすぐに離れる事も、と続けるつもりだったが2撃目がくる。
今度は攻撃がくる事がわかっていたため、さっきよりも落ち着いて対処がで
きた。
それにしてもこのモンスター
ク攻撃してすぐに離脱するなんて。こんな事考えつくなんて酷過ぎる!
こんなの学生がされたら何が起きたかも理解できないまま一撃でデスらされ
てしまうだろう。
「ジャック! こんなモンスターっているの?」
何度目かの攻撃を受け流しながらジャックに聞く。
「いないな。そしてこのモンスターが使ってるスキルも未確認のものだ」
やっぱり新種な上にスキル持ちモンスター。しかも未確認スキルときた。
盾で感じる攻撃の重さはグール程ではない。このスキルがとんでもなく厄介
過ぎた。
「何か良さそうな攻略法思いつかない?」
「凍てつく氷よ! 串刺しにせよ、アイスグレイブ!」
エリーが魔法を唱えると、スキルで近づき攻撃してきたモンスターの地面か
ら氷の棘がいくつも飛び出し突き刺さっている。
必死に抜け出そうともがいているがモンスターは抜け出せずにいる。
「どうやらこうやって物理的に捕まえてしまえばスキルで逃げ出す事はでき
ないみたいね!」
いろいろと聞きたい事はあるがモンスターをデスらせる前に新種のモンスタ
ーを観察しておかなくては。
「新種と聞いて一応スケッチブックを持ってきたッス。新種の姿を書き写す
間、周辺の警戒頼むッス」
「ナイスだよ、クゥ。警戒はまかせといて」
「逃げ出されると面倒だからもう少し増やしておくわ! アイスグレイブ!」
「あ、やめ」
やったね、アイスグレイブが増えたよ!
光の中へと消えていく新種モンスター。えげつない攻撃と比べ体力や防御力
は低いのだろう。
「デスらせるつもりはなかったの……。」
「そうだね。みんなそう言うね」
この後、もう一体アイスグレイブった。
「一つ聞きたかったんだ。エリーは敵の攻撃がなんでわかったの?」
「そんなの簡単よ。1度あのモンスターが攻撃してきたら丁度10秒、
空くの。たぶんスキルのクールタイムなんじゃない?」
うちのパーティーメンバーが優秀過ぎてつらい。
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