概要
どこを探せど陽光は見当たらない。天は覆い尽くされ、視界は全て、甘い香りの源である藤の花。その藤花の群生から、ひらひらと舞い落ちる藤色の花弁。それが行き着く先は、白い柔肌の上。耳をすませば、ざわめく藤花達の話し声も聞こえてくる。
幻怪な藤の花に囲まれた槐(えんじゅ)は、手を伸ばすも――景色はふつと変わり、藤の花なぞ何処にもない格子で囲われた座敷牢の中だった。
幼い頃から座敷牢の中で育った槐は、そこから一歩も出る事は叶わず、日々血を採られていた。槐の血は特殊で、毒と言われいるが、槐にはその自覚はなかった。
日々は虚しく、慰めは藤の夢だけ。
そんな時、藤の夢に見知らぬ男が現れる。男にはまだらに鱗があり、どう見ても人ではない。そんな鱗の死にかけて今にも事切れそうだったが、槐に
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- ★★★ Excellent!!!藤の花が印象的! 美文で綴られる、ダークでファンタジックな和風恋愛譚
不思議な血をその身にやどすヒロインの槐。彼女は座敷牢に押し込められて生活しています。
小さな世界で生きる槐を不憫に思う斎郎は、彼女と交流を重ねるうちに槐に恋心を抱くようになるのですが……
趣のある文章、時折りさしこまれる藤の描写の美しさ。そして、ほんのりと暗い恋愛模様が魅力の和風ファンタジー。
小さなコミュニティーが脈々と受け継ぐ因習、複雑に絡みあう人間関係。そんな環境のせいでしょうか。純粋な愛が少しずつ変容していく様子が恐ろしくも興味深かったです。
現実にヒロインみたいな血を持つ人がいたら、こんな状況が生まれてもおかしくないなと思えるリアルさも本作の見どころだと思います。
明るく可愛…続きを読む - ★★★ Excellent!!!人ではない彼女は、妖か、精霊か、それとも……
この残酷で美しい夢幻の世界。
読むたび、その描写の美しさ儚さに、息を飲まずにはいられない。
屋敷の奥に囚われ血を採られ続ける槐。彼女の血は毒で、鬼すら倒す力がある。
人ではない槐。ならば彼女は何者なのか。
ずっとそんな疑問を抱えたまま物語を追っていた。
辛い現実から藤の花の幻想に入り浸る槐。その中に突如として現れる黒い男。
彼は槐の救いとなるのだろうか。これ以上彼女を傷つけないで欲しいのに。
槐の心に同調したように、読む私の心にも疑心暗鬼が生まれる。
過去と現在を織り交ぜながら、かつては桃源郷であった集落の謎が少しずつ解き明かされ、幻想的な結末へと読み手を導いてゆく。
作者さまが織り…続きを読む - ★★★ Excellent!!!夢か現か。毒か薬か。藤花の香る和風ファンタジー異類婚姻譚。
毒にも薬にもなる自らの血を里人に採られ続ける主人公の槐。
痛々しく瘡蓋を重ね、耐えるだけの彼女に訪れた出会い。
なにもできそうにない彼女に対する周りの緊張感。
妖しくも不気味な藤の花。
正体のわからない優しい鱗の男。
相反する状況がとても幻想的で、ずっと読んでいる側が幻惑を受けているような気持ちでした。
特に、後半の斎郎視点で槐の取り巻く環境や謎が明かされていくところが好きです。
槐自身はなにもしていないのに、視点が変わると印象が変わっていきます。
人並みでどうしようもなくて、でもきっと臆病で根は優しいままの斎郎の気持ちがとても理解できてとりわけ好きでした。もちろん、ヒーローである叢雲さ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!捕らえているようで、囚われているのは誰だ。
鬼をも殺す酒『神便器毒酒』を作る里に、毒となる血を持つ槐(えんじゅ)はいた。
彼女は一人格子の中に閉じ込められ、血を取られ続けていた。
「助けてくれないか。血が必要だ」
そんな中、彼女の藤紫の夢に現れたのは、鱗を持つ男叢雲。
物のように扱われる日々に現れた人ならざるものに、槐は温もりを求める。例えいつかは思い出にしかならないとしても。
そんな中叢雲は、彼女をここから出すと言い出し、「夫婦の契り」を結ばないかと提案する。
奇しくも槐に複雑な想いを持つ杜氏斎郎も、かつて同じ提案をしていた……
クラクラするような甘い香りと、どこまでも続く藤花の世界。
槐を縛っているようで、縛られているのは…続きを読む