辛い境遇にいた小夜が祠を壊したら気まぐれな神様に溺愛されて――というお話です。
人ならざる存在に愛される和風シンデレラストーリーの王道と、今流行りの「因習村の祠を壊す話」とを掛け合わせた部分が新鮮です。
美丈夫なのにどこか飄々としていてつかみどころのない暁と健気で無垢な小夜。脇を固める蜜や弓彦、惣一郎といったキャラもよく、感情移入できました。
暁に拾われ人間らしい生活をするようになる小夜と、小夜に出会い人間らしい心を持ち始める神様の暁。
二人が出会うことで互いに失ったものや足りなかったものを補い合う関係なのがいいですね。
特にライバル出現に嫉妬する暁や夏祭りの場面はロマンチックでニヤニヤが止まりません。
互いに相手への気持ちを自覚するシーンは切なく、心の機敏の描写が丁寧で素敵な作品だなと思いました。
じっくりと丁寧な恋愛描写を楽しみたい方、二人のじれじれ感を楽しみたい方におすすめの作品です!
「罰当たりだな。これは君、死んだね」
「別に良いよ。ちょうど、死にたかったところだから」
自身の運命を掻き回した元凶の祠を壊した小夜。
だが土地神――暁は気まぐれで、小夜を振り回す。感情が読めない暁の奇行に怯える小夜。だが帰る場所がない小夜は、暁のところに住まわせてもらうことになる。
実は暁は、うかつにも小夜に神力を与えてしまった。神は神力を与えてしまえば、責任を取らなければならない。
そのことは明かさず、暁は小夜にこう告げる。
「小夜、君はどちらになりたい? 神(わたし)の生贄か──それとも、花嫁か」
暁の気まぐれ翻弄されながらも惹かれる小夜と、心の中で言い訳をしながら小夜に触れる暁。
だが小夜は、暁がなぜ求婚を迫ったかを知ってしまい…。
「自分が愛されるなんて思い上がってはいけない」と、自身の恋心を抑え込む小夜。小夜に様々なものを与えながらも、「人に本気で恋することなどあるか」と言い訳を続ける暁。
神は気まぐれで、冷徹で、助けを求めても優しさなどは持たず、けれどどこかあたたかく憎めない。
力の差がある神と人の恋の行方は、どうなるのか。
二人の丁寧な日常の積み重ね、すれ違う二人の想いがジリジリと来る物語です。
あと私の推しは蜜さまです。
澄み渡った水の中で生きられない魚がいるように、この世界の物語は、下界で生きる私にとって眩しいものでした。
救いがあるとすれば、神という存在であっても、人間と同じ喜怒哀楽の"感情"があるなら――
ときに惑わされ、ときに不合理な選択をすることもあるのだと、一抹の安心感を得られたことでしょうか。
最初の選択が正解でも、時の移ろいによって同じ選択が必ずしも正解とはなり得ないこと。なぜそうなり得ないかの心理描写がとても丁寧に表現されていて、もどかしさを含めて最後まで楽しく読めました。
などと、サラッと『最後まで楽しく読めました』と書きましたが――
他の方のレビューでも触れられている通りで、私もこのように思えたのは久しぶりです。ましてや10万字超えのWeb小説を、日を跨いで読み浸る熱量が残っていたことに自分自身驚きました。
"気まぐれ"でたどり着いた作品ではございますが、土地神さまと小夜姫さま。
私の心を浄化していただきありがとうございました。