「罰当たりだな。これは君、死んだね」
「別に良いよ。ちょうど、死にたかったところだから」
自身の運命を掻き回した元凶の祠を壊した小夜。
だが土地神――暁は気まぐれで、小夜を振り回す。感情が読めない暁の奇行に怯える小夜。だが帰る場所がない小夜は、暁のところに住まわせてもらうことになる。
実は暁は、うかつにも小夜に神力を与えてしまった。神は神力を与えてしまえば、責任を取らなければならない。
そのことは明かさず、暁は小夜にこう告げる。
「小夜、君はどちらになりたい? 神(わたし)の生贄か──それとも、花嫁か」
暁の気まぐれ翻弄されながらも惹かれる小夜と、心の中で言い訳をしながら小夜に触れる暁。
だが小夜は、暁がなぜ求婚を迫ったかを知ってしまい…。
「自分が愛されるなんて思い上がってはいけない」と、自身の恋心を抑え込む小夜。小夜に様々なものを与えながらも、「人に本気で恋することなどあるか」と言い訳を続ける暁。
神は気まぐれで、冷徹で、助けを求めても優しさなどは持たず、けれどどこかあたたかく憎めない。
力の差がある神と人の恋の行方は、どうなるのか。
二人の丁寧な日常の積み重ね、すれ違う二人の想いがジリジリと来る物語です。
あと私の推しは蜜さまです。
澄み渡った水の中で生きられない魚がいるように、この世界の物語は、下界で生きる私にとって眩しいものでした。
救いがあるとすれば、神という存在であっても、人間と同じ喜怒哀楽の"感情"があるなら――
ときに惑わされ、ときに不合理な選択をすることもあるのだと、一抹の安心感を得られたことでしょうか。
最初の選択が正解でも、時の移ろいによって同じ選択が必ずしも正解とはなり得ないこと。なぜそうなり得ないかの心理描写がとても丁寧に表現されていて、もどかしさを含めて最後まで楽しく読めました。
などと、サラッと『最後まで楽しく読めました』と書きましたが――
他の方のレビューでも触れられている通りで、私もこのように思えたのは久しぶりです。ましてや10万字超えのWeb小説を、日を跨いで読み浸る熱量が残っていたことに自分自身驚きました。
"気まぐれ"でたどり着いた作品ではございますが、土地神さまと小夜姫さま。
私の心を浄化していただきありがとうございました。