座敷牢の中に閉じ込められ、幻夢に縋って生きているヒロイン・槐は、夢の中で鱗のある美しい男に出会います。叢雲と名乗る彼に血を分け与えて助けたことをきっかけに、槐の運命が変わっていきます。
この物語は、そんな二人の逢瀬だけでなく、槐が閉じ込められている場所である石清水の里の謎に迫るダークミステリー風味なところにも本筋があると感じました。
座敷牢の中にいる槐と、里の人間視点の両方で話が進んでいきます。槐視点では、槐は純粋な女性で、閉じ込められて血を採られている可哀想な子という印象が強いですが、里の人間視点では、完全な人間ではない槐の不気味さがじわじわと伝わってきて、美しくも怖い存在であるのが分かります。全体を通して、この妖艶でホラーっぽいダークさがとても好きな雰囲気でした。
舞台設定も素晴らしかったです。
特殊な里だからこそ登場人物が自分の意思だけでは動けないシーンがあり、とにかく関係性が拗れていて、どうにもならなくて最高でした。ドロドロ要素が好きな方もぜひ読んでほしいです。
里が行い続けている、槐の血を用いた毒酒造り。そもそも人ならざる者である槐や叢雲はどういう存在なのか? 槐の母は何故消えたのか? 槐と昔からの馴染みである斎郎は、何故槐に冷たい態度を取られているのか? など、読み進めていくと気になる謎が多く出てきます。ゆっくりと明かされる真実、ラストスパートでは畳み掛けるように展開が動いていき、鳥肌でした。
斎郎ーーーーー!!!
叢雲ーーーーー!!!
どっちも好きだーーーーーー!!!
不思議な血をその身にやどすヒロインの槐。彼女は座敷牢に押し込められて生活しています。
小さな世界で生きる槐を不憫に思う斎郎は、彼女と交流を重ねるうちに槐に恋心を抱くようになるのですが……
趣のある文章、時折りさしこまれる藤の描写の美しさ。そして、ほんのりと暗い恋愛模様が魅力の和風ファンタジー。
小さなコミュニティーが脈々と受け継ぐ因習、複雑に絡みあう人間関係。そんな環境のせいでしょうか。純粋な愛が少しずつ変容していく様子が恐ろしくも興味深かったです。
現実にヒロインみたいな血を持つ人がいたら、こんな状況が生まれてもおかしくないなと思えるリアルさも本作の見どころだと思います。
明るく可愛らしい恋愛ファンタジーも好物ですが、本作のような現実味のある恋愛ファンタジーは大大大好物!(笑)
セクシャルな描写もある一筋縄ではいかない恋愛模様がお好きな方におススメです。
この残酷で美しい夢幻の世界。
読むたび、その描写の美しさ儚さに、息を飲まずにはいられない。
屋敷の奥に囚われ血を採られ続ける槐。彼女の血は毒で、鬼すら倒す力がある。
人ではない槐。ならば彼女は何者なのか。
ずっとそんな疑問を抱えたまま物語を追っていた。
辛い現実から藤の花の幻想に入り浸る槐。その中に突如として現れる黒い男。
彼は槐の救いとなるのだろうか。これ以上彼女を傷つけないで欲しいのに。
槐の心に同調したように、読む私の心にも疑心暗鬼が生まれる。
過去と現在を織り交ぜながら、かつては桃源郷であった集落の謎が少しずつ解き明かされ、幻想的な結末へと読み手を導いてゆく。
作者さまが織りなす美しい夢幻の世界。
ぜひとも読んでみて欲しい!
毒にも薬にもなる自らの血を里人に採られ続ける主人公の槐。
痛々しく瘡蓋を重ね、耐えるだけの彼女に訪れた出会い。
なにもできそうにない彼女に対する周りの緊張感。
妖しくも不気味な藤の花。
正体のわからない優しい鱗の男。
相反する状況がとても幻想的で、ずっと読んでいる側が幻惑を受けているような気持ちでした。
特に、後半の斎郎視点で槐の取り巻く環境や謎が明かされていくところが好きです。
槐自身はなにもしていないのに、視点が変わると印象が変わっていきます。
人並みでどうしようもなくて、でもきっと臆病で根は優しいままの斎郎の気持ちがとても理解できてとりわけ好きでした。もちろん、ヒーローである叢雲さんも決めるときに決めてくれます。
水や雨、酒。そして花。古き信仰を題材にした和風ファンタジーが大好きなので、とっても素敵な読了感でした。おすすめです!
鬼をも殺す酒『神便器毒酒』を作る里に、毒となる血を持つ槐(えんじゅ)はいた。
彼女は一人格子の中に閉じ込められ、血を取られ続けていた。
「助けてくれないか。血が必要だ」
そんな中、彼女の藤紫の夢に現れたのは、鱗を持つ男叢雲。
物のように扱われる日々に現れた人ならざるものに、槐は温もりを求める。例えいつかは思い出にしかならないとしても。
そんな中叢雲は、彼女をここから出すと言い出し、「夫婦の契り」を結ばないかと提案する。
奇しくも槐に複雑な想いを持つ杜氏斎郎も、かつて同じ提案をしていた……
クラクラするような甘い香りと、どこまでも続く藤花の世界。
槐を縛っているようで、縛られているのは誰なのか。幻想的で蠱惑的な和風ラブストーリーです。