第6話 2日連続

 翌日、また俺はバイトだ。3日目にして俺はようやく慣れてきた。そして、この日、俺は初めてシステムのバグを見つけた。


「二見さん、何かバグがありそうです」


「え、マジ? どれ」


「このA004-0035のテストなんですけど……」


 俺は動かしてみせる。


「ここでエラー表示出てて……」


「あ、マジだわ。おーい、竹本。ちょっと来て」


「え、なんですか?」


 二見さんが竹本さんという社員を呼んでまた俺の操作を見せる。竹本さんは二見さんと同じぐらいの年齢の男性だ。


「あ-、こういうパターンは考えてなかったかもしれないですね」


 竹本さんが言う。敬語と言うことは二見さんの後輩か。


「たぶん、このエラーメッセージだとデータベースでの結合が上手くいってないとかですかね」


 俺は推測を言ってみた。


「そうだな……って、君、高校生だよね。すごいな」


「え、そうですか」


「うん、最近の高校生はすごいねえ。将来有望だよ」


 竹本さんに褒められて、俺は内心すごくテンションが上がった。


 そんなことがあったから、俺は今日もコーヒーを買っていつもの堤防に向かう。いつもとは違い、失敗を癒やすのではなく、褒められて高ぶった神経を冷ますためだ。


 堤防に座り、俺はいつものようにコーヒーを飲んでいた。すると、後ろで自転車が停まる音が聞こえた。振り向くとやはり市村だ。


「今日も居たんだ」


「おう!」


 俺は立ち上がり、自転車の方に向かう。


「今日は何か嬉しそうだね」


「うん。ちょっとバイトで褒められてね」


「へぇ、よかったね」


「まあね。3日目にしてようやくだよ」


「バイト、夏休みはずっとやってるの?」


「土日は休みだけどね。平日はほぼ全部かな」


「そうなの? すごいね」


「市村だって毎日部活だろ」


「私は小さい頃からずっとやってるし。いつものことだよ」


「でもすごいよ、エースなんだろ?」


「うーん、まあね・・・・・・」


 市村の顔が少し暗くなったような気がした。なんだろう。あまり、この話はしない方が良さそうだ。


「そういえば、優子に話したよ。市村が楽しみにしてるって。そしたらすごく喜んでた」


「え、そうなんだ」


「うん。だから合格するようにしっかり勉強しろって言ったら、うるさいなあって言われちゃったよ」


「アハハ、お兄ちゃん、うるさがられてるんだ」


 市村は屈託のない笑顔を見せた。


「まあね。うちは妹の方が強いから」


「へー、でも私は一人っ子だから、なんかうらやましい」


「そうか? 実際の兄妹はうっとうしいだけだよ」


「そんなことないと思うけど。優子ちゃんの試合、応援に行ったりしないの?」


「昔はあったけど最近は無いなあ」


「そうなんだ。同じ高校になったら応援しやすいかもね」


「そうかもな」


「……あ、こんな時間。そろそろ、行くね!」


「おう!」


 市村は去って行った。


 これで2日連続、市村と話したか。なんかこういうのいいな。


 こんな感じでこの時間にここに居れば毎日話せるのかもしれないな、そうなれば、俺の夏もすごく充実することになるかも。そんなことをこのときは思っていた。


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