第53話 バイトと練習帰り

 翌日、俺はバイトだ。市村と付き合いだしてからは初めてのバイト。できるだけいつもと同じように振る舞い、休憩時間になった。俺と鎌田と竹本夏鈴さんはいつものように休憩室に行った。


「今日、熊谷君、何かいつもと違うね」


 夏鈴さんが言う。


「そうか?」


「うん。何か浮ついてる感じ。もしかして、うまくいった?」


「まあな」


「えー! 付き合いだしたの!」


「うん」


 市村はオープンで行くというし、俺も言っていいだろう。


「え? 相手は誰だよ?」


 鎌田が俺に聞いてきた。


「市村だ」


「は? 市村って、あの市村亜衣か? サッカー部の」


「そうだよ」


「マジかよ……お前と市村って……なんか月とすっぽんだな」


「なんでだよ!」


「だよねえ、似合わないって私も言ったんだよ」


 夏鈴さんが言った。

 俺は少し頭にきたので夏鈴さんに小声で言う。


「夏鈴さん、町田に言いつけるよ」


「ご、ごめん……それだけは……」


 急に夏鈴さんがおびえだした。町田、ほんとに怖がられてるな。


「お前、うらやましいなあ。どうやって付き合ったんだよ」


 鎌田が聞いてくる。


「まあ、その話はまた今度な。時間も無いし」


「じゃあ、バイト終わってから聞かせろよ」


「あー、ごめん。今日から俺、少し早く上がるんだ」


「え、何か用事でもあるのか?」


「市村の練習帰りを送っていこうと思って」


「……リア充め、爆発しろ」


◇◇◇


 そして、この日。俺はバイトを早く終わり、堤防では無く学校に向かった。運動場ではまだ女子サッカー部が練習している。俺はそれを見ていた。すると、市村が気がつき俺に手を振ってきた。俺も振り返す。周りの部員が何かはやし立てていた。


 練習が終わり、町田が市村に言う。


「亜衣、彼氏が待ってるよ!」


「うん! すぐ行く!」


 以前だったら、『彼氏じゃ無いから』って答えてたのにな。本当に彼氏になったことを実感する。


「秀明、ほんとに来たんだね」


 市村が帰る準備を終えて、俺のところに来た。


「うん。今日から亜衣を送るからな」


「じゃあ……堤防行く?」


「そうだな」


 行く必要は無いのだが、俺たちは自転車で堤防に向かった。いつもの場所に自転車を停め、2人で座る。


「なんだか初めてここに座ったのが遠い昔みたいだね」


 市村が言った。


「そうだな。あのときは夢のようで嬉しかったな」


「え?」


「だって、中学の頃から人気者の市村亜衣が俺の横に座ってるんだから」


「へぇー、そんなこと思ってたんだ」


「うん」


「その人気者が今は彼女だよ。どう思ってる?」


「ほんと、夢みたいだ」


「夢じゃないよ、現実」


 そう言って市村は俺の手を握った。


「確かに現実だな」


 俺は手を握り返した。すると、市村は頭を俺の肩に預けてきた。


「またパワー注入してもらっていい?」


「ああ、いいぞ。もう彼女なんだからいつでもオッケーだ」


「ありがとう」


 しばらく俺たちはそのままで居た。


「よし、オッケー」


「そろそろ、帰るか?」


 俺は時間が心配になって言った。


「そうだね」


「送っていく」


「いいよ、いつもここで別れてたでしょ」


「でも、今は彼氏だし」


「……そっか。じゃあ、お願い」


「うん。行こう」


 俺たちは市村の家の前まで自転車で向かう。あっという間に着いてしまった。


「じゃあ、また明日」


 市村が言う。


「うん、おやすみ」


「まだ寝ないから。あとでメッセージ送る!」


「おう、わかった。じゃあ、またあとでな!」


「うん!」


 俺は家に帰った。

 家に帰った後も俺と市村は遅くまでメッセージのやりとりをしていた。


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