第28話 デート前日

 ロアッソの試合を見に行った翌日。俺は午後からバイトに来ていた。明日は市村と一緒に長島・町田とダブルデート。今日は祝日で本来バイトは無かったが、急遽データを大量に確認しなければならない仕事が出来たそうで、来れる社員だけが来ている。だから、社内は閑散としていた。


 鎌田も来れずにバイト勢は俺と竹本夏鈴さんだけ。やることを聞いて、俺たちは作業を始めた。単純作業だが、注意力が要求される仕事だ。


 休憩時間、俺たちは二人で休憩室に向かう。


「今日は社員の方も少ないね」


「そうだな」


「もうお盆休みでどこかに出かけたりしてる人も多いだろうね。熊谷君はどこか行ったりするの?」


「いや、特に予定は……明日ぐらいかな」


「へぇ、明日はどこか行くの?」


「友達と遊ぶ予定だな」


 さすがにダブルデートとは言えない。


「ふーん、友達か……。それって、例の気になる人?」


「そうだけど……2人でじゃないぞ」


「そっかあ。もしかして、全員クラスメイト?」


 これ以上特定されるヒントは与えられないな。


「……ノーコメントだ」


「なるほど、クラスメイトか」


 あっさりとバレてしまった。


「じゃあ、私も行くってこともできる?」


 夏鈴さんが言う。


「……まあ、いろいろあって、ちょっと難しいかな」


 さすがにダブルデートに呼ぶことはできないな。


「へぇー、私でも参加できないんだ」


 夏鈴さんはクラスの人気者だし、普通のクラスメイトの集まりなら絶対参加できるだろうけどな。


「微妙な時期なんだよ、俺も。まだ付き合ってはないけど……いい感じなんだ」


「ふーん……なんかうらやましい」


「なんでだよ」


「だって、仕事も恋も上手くいってるじゃん」


「どっちもまだまだだよ」


「私なんて全然だし……」


「そうなのか?」


 クラスの人気者なのに意外だ。


「一人寂しくお盆休みか……寂しいなあ」


 そう言いながら上目遣いで俺を見てきた。


「そんなこと言っても、明日は誘えないからな」


「ダメかぁ……さすがに熊谷君だね、ガード堅い」


「そういうことじゃないだろ」


「わかったよ、でも、今日も一緒に帰ろ」


「ああ、途中までな」


 バイトの時間が終わり、帰り道、俺と夏鈴さんはまた、途中の交差点まで一緒だった。


「じゃあね!」


「おう」


◇◇◇


 俺は夏鈴さんと別れ、堤防に向かった。そこには市村が居た。


「お疲れ!」


 市村が言う。


「今日は早かったな」


「うん。明日も休みだし、時間は掛けずに終わったよ」


「そうか……もしかして結構待ったか?」


「うーん、そうでもないから大丈夫」


「そうか」


 俺は横に座り川を眺めた。


「はい、例のブツ」


 市村がコーヒーを差し出す。


「ありがとう」


「……明日だね」


「そうだな」


 明日はダブルデートだ。


「服、悩んでるんだよなあ。怜香はいつもデートしてるから、デート用の服持ってるだろうけど、私そういうの無いから」


「……前、いつもロングスカート着てるって言ってなかったか?」


 俺はふと思い出していった。


「ああ、そうだね。普段着だけど、それでいい?」


 市村が俺を見る。


「お、俺は何でもいいけど」


「何でもいいんだ」


 市村が拗ねた感じで横を向いた。


「あ、いや……」


「これでも結構悩んでるんですけど」


 市村が言う。


「ごめん……ロングスカート、見たい」


「ほんと?」


「ああ。本心から見たい」


「そう言われるのもなんか……」


「あ、ごめん。キモかったよな。でも、市村のそういう姿は見たこと無いから」


「……そっか。私にはいつもの格好でも熊谷君には新鮮に見えるかもね」


「ああ」


「わかった。じゃあ、明日、楽しみにしてて」


「おう」


「じゃあ、行くね」


 市村は自転車に乗り、帰って行った。


 ……服か。何も考えてなかったな。いつもの服でいいんだろうか。


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