第29話 ダブルデート

 今日はダブルデートの日。何を着ていくかが全く分からなかった俺は妹の優子を頼った。


「確かに『手伝えることあったら言って』とは言ったけど……面倒くさ」


「そう言わずに頼む。俺の持っている服でどれがいいか考えてくれ」


 優子は服を引っ張り出して広げ、考えてくれた。


 俺はそれを着て、家を出る。


「お兄ちゃん、頑張ってね」


「おう!」


 何を頑張るのかはよく分からなかったが待ち合わせ場所に急いだ。


 待ち合わせ場所は「カドマック」の前だ。ここはアーケードの角になっているところにあるマックなので、通称「角マック」と呼ばれている。俺が到着するともう長島は来ていた。


「熊谷、遅いぞ」


「は? これでも20分前には着いてるが」


「男子は30分前だろ」


「そうなのか?」


「知らんけど」


「知らないのかよ。デート初心者なんだから騙さないでくれよ」


「そうか、お前デートとか初めてか」


「そりゃそうだ。女子と話すらしてないって言ったろ」


「そういや、怜香だけだって言ってたな。今は市村も居るから2人か」


「……そうだな」


 竹本夏鈴さんとも話すようになった、なんてことは言わない方がいいだろう。


 しばらく待っていると女子二人がやってきた。長島の彼女、町田怜香と市村亜衣だ。


「お疲れ。待った?」


「いや、今来たところだ」


 長島が言う。


「今来たところ? 結構前から居るだろ」


 俺は思わず長島に言った。


「お前なあ……」


「アハハ、やっぱり熊谷君面白いね」


 市村が笑った。町田はため息をついている。


「こんなやつに亜衣を任せて大丈夫なんだろうか。心配だわ」


「そう? 私はやっぱり熊谷君いいなって思ったけど」


「亜衣には合ってるのかもね」


 町田が言った。


 今日は町田も市村もロングスカートだ。市村のこういう姿は初めて見る。俺はまじまじと見てしまった。


「ん? 熊谷君、どうかした?」


 市村が言う。それを聞いて長島が言った。


「お前の格好に見惚れてるんだよ」


「え?」


「なんかキモい……」


 町田が言う。俺は慌てて言った。


「あ、いや、そうじゃなくて……いつもと違ったから、その……似合ってるなって」


「そう言ってもらえると嬉しいかな。昨日のリクエストにちゃんと応えてきたからね」


「昨日?」


 長島が言った。


「……なんかね、練習帰りにこの二人会ってるみたいで」


 町田が長島に説明する。


「そういえばそんなこと言ってたな。もしかして毎日か?」


 長島が鋭い質問をする。それに俺も市村もすぐにごまかせなかった。


「え、毎日なの?」


 町田が驚いて言った。


「ま、まあ……そうかな」


 市村が認めた。


「私たちより会ってるじゃない。なんかずるい!」


「俺たちは練習時間も違うからなかなか一緒に帰れないもんな」


 町田と長島が俺たちに文句を言ってきた。


「いいでしょ、もう。行こう!」


 市村が歩き出す。俺たちは下通アーケードを歩いて行く。


「今日はどこに行くんだ?」


「うーん、街をぶらぶらするだけだよ」


「そうなのか?」


「うん。最後はハヤカワまで行くけどね」


 ハヤカワとはスポーツ店だ。だが、ここからだと結構あるけど……。自転車停めてるので往復必要だ。これぐらい歩くのは体育会系にとってはなんでもないのだろうが、俺は結構きついかも。


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