第30話 ランチ
街をぶらぶら歩きながら気になった店に入ったりして、俺たちは下通りアーケードを進んでいく。
「そろそろお昼ね」
町田怜香が言った。
「じゃあ、どこで食べる?」
「今日は亜衣が行きたいところがあるって」
「へぇ、じゃあそこに行こう」
「よし! 付いてきて」
俺たちは市村に付いていく。行き先は百貨店だ。この中には様々な飲食店がある。7階まで来ると市村はある店の前で立ち止まった。
「ここか……」
ここはいわゆるデパートの食堂的な店だ。「ファミリーレストラン」と看板には書かれていた。
「なかなかここ来れないから、来てみたかったのよね」
「確かに小さい頃に家族で来た記憶はあるが、最近は来てないな」
「でしょ」
「よし、入ろう!」
俺たちは4人でファミリーレストランに入った。長島はステーキ、町田はハンバーグ、市村はエビフライ、俺は冷やし中華を選んだ。
「やっぱり、熊谷君、個性的だよね。ここで冷やし中華って……」
市村が言う。
「そうか? メニューに大きく載ってるし、おすすめじゃないのか。夏だし」
「そうだけど、高校生男子はもっと肉とか食べるんじゃない?」
「俺は文化系だし」
「アハハ、それ関係ある?」
盛り上がっている俺たちの会話を聞いて、町田が言う。
「あんたたち、ほんと仲いいわね」
「そ、そうかな……」
市村は少し照れているようだ。
「じゃあ、そろそろ二人の関係を詳しく聞きたいんだけど」
「え? もう話したと思うけど」
「だから、最初からよ。一学期の終わりには全然話してなかったでしょ。なんでこんなことになってるのよ」
「だから、それは部活帰りに偶然会って……」
俺たちはこれまでのことをかいつまんで話した。
その間に料理も来て、食べながら話す。
「なるほどねえ、少しずつ愛をはぐくんだ感じか」
「愛って……そういう関係じゃ無いから」
市村が言う。
「ふーん、そういう関係じゃないんだ」
「うん。そうだよね、熊谷君」
「あ、ああ。そうだな……」
俺は少し沈みがちに言った。
「ふーん。まあ、今はそういうことにしとこうかな。熊谷君も苦労するかもね」
町田が言った。
「俺は市村が元気に活躍してくれればそれでいい」
俺は言った。
「まあねえ。君と会うようになってから調子取り戻したし」
「そうなのか?」
長島が聞く。
「うん、そうなのよ。急に調子よくなったからどうしたのかと思ったら、やっぱり男だったってわけ」
「そういう言い方はちょっと……」
市村が恥ずかしそうに言う。
「まあ、私にはどこがいいかわかんないけどねえ。熊谷君はサッカーとかも普段見ないんでしょ?」
「まあ、そうだな」
「……でも、だからよかったのかも。私と話す人はみんなサッカーの話ばかりだから。少しそういうところから離れる場所が必要だったのかな」
市村が言った。
「そういう場所に俺がなれているなら良かったよ」
「うん、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
「……なるほどねえ、関係は分かってきたかな」
町田が言った。
「勝弘的にはどうなの? 熊谷君は」
町田が長島に聞いた。
「いいやつだと思うぞ。真面目だし。だから俺は応援している」
「そうなんだ。ま、亜衣が調子上げてくれるなら文句言う筋合いは無いんだけどね」
俺たちは店を出ようとレジに並んだ。長島と町田はそれぞれお金を払っていたが俺は市村と一緒に払おうとする。
「え、いいよ」
「いや、ロアッソの試合に連れて行ってもらったお礼だよ。チケット代より安いだろ」
「そうだけど、チケットもらったものだし」
「それに俺はバイトしてるんだから遠慮しないで。今日もこうして楽しい時間を過ごしてるしそのお礼だよ」
というわけで俺が払うことにした。
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