第31話 スポーツ店

 百貨店を出たら今度は上通りアーケード街を進む。ぶらぶら店を見ながら、最終的に辿り着いたのがスポーツ店のハヤカワだ。熊本では有名なスポーツ店で、文化系の俺でもさすがに知っている。


「ようし、見るぞ!」


 長島はテンションが上がっている。町田と市村も笑顔だ。俺はよく分からないから付いていくだけだな。


 町田と市村はサッカーシューズを見始めた。結構な値段するな。将来こういうのがプレゼントできたら……と俺は妄想した。長島もバスケットシューズを見ている。こうなると俺は手持ちぶさただな。


 結局、町田と市村はリストバンドを買っていた。長島はよく分からないスプレーを買っていた。

 もちろん、俺が買う物は何も無い。


「あー、いい物も見れたし、これも買えたし良かったね」


「うん。でも、熊谷君が何も買ってないし」


「そうか。何か買いたい物あるのかな」


 町田と市村が話すのが聞こえてきた。


「俺か、そうだな……俺は何もいらないが市村に買ってあげたい物ならあるな」


「え、いいよ……」

「え、なになに?」


 市村は遠慮したが、町田が積極的だ。


「キャップだな。練習中には邪魔だろうけど、普段使いできるやつとかあったらいいかなと」


「いいね、日差し強いし。よし、じゃあ選ぼう!」


 町田がキャップのコーナーに行く。もちろん、俺も行って選び出した。


「これとかどうかな」


 町田が市村にキャップをかぶせる。


「うーん、こっちは?」


 俺は別のをかぶせた。……かわいい。


「あ、似合ってるね」


「だろ?」


「さすが、彼氏。じゃなかったか、まだ」


 町田が言う。


「ただの友達だからな」


「友達からのプレゼントかあ。結構するよ、これ」


「俺はバイトしてるんだからいいんだ。特にお金の使い道も無いし」


「そうなの?」


「うん。勉強を兼ねてバイトしてるだけだから。何か欲しい物があるわけじゃ無いんだ」


「そっか」


「うん。だから、これが一番いいお金の使い方だと思う。じゃあ、買ってくるよ」


 俺はキャップを買った。


「はい、かぶっていこう」


 買った後、俺はそれを市村にかぶせた。


「あ、ありがとう」


「いやいや、これを市村にかぶせたい俺のわがままだから」


「なんか私、着せ替え人形みたいだね」


「だな。つい、いろいろ着せたくなってしまう。今度は服を買おうよ」


「ま、また今度ね」


「おう」


 それを見て町田と長島が話していた。


「うわあ、もう時間の問題だね」


「だな、後一押し」


「きっかけさえあれば行けるかな」


 聞こえてきた会話で思う。きっかけか……それがなかなか難しそうだ。


 そこからは今度はアーケードを逆方向に進む。駐輪場に向かうのだ。


 帰りはさすがにあまり店にも寄らず、歩いていた。

 すると、女子三人が俺たちの方に近づいてくる。


「先輩、お疲れ様です!」


 その女子三人が言った。ということは女子サッカー部の後輩たちか。


「うん、お疲れ。みんなも来てたんだ」


 町田が言った。さすが、キャプテンっぽい。


「はい、先輩達はデートですか?」


「そうよ、ダブルデート」


「「「キャー」」」


 後輩達は騒ぎ出す。


「でも、町田先輩は彼氏いるの知ってましたけど、市村先輩も居たんですね」


「え? 私は違うから」


 市村が言う。


「あ、彼氏じゃないんですか?」


「うん。友達」


「あ、友達ですかー」


 むしろ女子達の目がさらに輝きだしたような……


「あの、練習試合にも来てましたよね。同じ学校ですか?」


 女子の一人が俺に聞いてきた。


「そうだよ、市村と同じクラス」


「同じクラス!」「キャー」「やば」


 それを聞いてさらに騒ぎ出す女子。それに町田が言う。


「今が大事な時期だからあんまり騒がないで。そっと見守ろう」


「そ、そうですね」「失礼しました」


 女子達が市村に謝っている。


「えっと……絶対勘違いされてるよ、熊谷君。ごめんね」


 市村が俺に言った。


「別に俺はいいよ」


「そ、そうなんだ……」


「うん」


 その後輩女子達と別れ、俺たちは帰路についた。


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