第27話 試合後半

 後半になると、市村は声を出すのを止め、俺にいろいろ教えてくれるようになった。


「オフサイドというのは、ほらあそこに守備が居るでしょ。それよりも前に出てパスをもらっちゃいけないことなんだよ」

「ロアッソは3-4-3っていって、守備が3人、中盤が4人、フォワードが3人なんだ」

「中盤で後ろ目で守備をしているのがボランチ。でも、ほら、前にも入っていくから」


 いろいろ、教わって俺も少し分かってきた。


「えーと、市村の場合、あの18番の選手の位置だよな」


「うん、ロアッソは3トップっていって3人が前に居て、そのうち中央は1人だけど、ウチのチームは2トップといって2人だからだね。私と怜香が前に居るよ」


「優子はどこになるんだ?」


「優子ちゃんはサイドって言ってたからあの16番の位置だね」


「なるほど」


 今後、試合を見るときに役に立つことを教わった。


 試合は終盤、ロアッソが猛攻に出て最後に点数が入った。その瞬間、スタジアムはすごい盛り上がりに包まれた。


「やったー!」


 観客は総立ちで周りとハイタッチしている。

 俺と市村もハイタッチをかわした。


◇◇◇


 試合はそのまま終了。試合が終わり、気持ちよくスタジアムを出ようと通路に出たときだった。


「あれ? 亜衣?」


「怜香!」


 町田怜香が居た。その横には彼氏の長島勝弘も居る。


「やっぱり来てたんだ」


 町田が言う。


「う、うん……」


「熊谷君も一緒なんだねえ、へぇー」


「い、いいでしょ」


「うん、いいけど……ちょっと話そうか」


「うん……」


 俺たちはスタジアムの外に出て、入り口から少し離れた木の下に集まった。


「私たちはデートだけど、二人は何なのかな?」


 町田がニコニコして聞いてくる。


「別にいいでしょ。チケットが二枚あったんだから」


「そうだけど、親と行くって言ってなかったっけ?」


「行けなくなったから」


「ふーん、で、熊谷君なんだ。同じサッカー部でも良かったと思うけど」


「おい、怜香。市村さんをそんなにいじめるなよ。熊谷も困ってるぞ」


 長島が助けてくれた。市村の顔は赤くなっていた。


「ごめんごめん」


「もう、意地悪なんだから……」


「そういえば、町田とはお盆しか休みが合わないって言ってなかったか?」


 俺は長島に聞いてみた。


「そのはずだったんだけど、急遽練習が休みになったから」


「そうなんだ、じゃあ、お盆はまた別か」


「うん。あ、そうだ。お前達も一緒に行くか? ダブルデートしようぜ」


「ダブルデート?」


「おう。明後日、俺と怜香は街中で遊ぼうって計画立ててたんだよ。でも、お前達が来ても面白いかなって。なあ、怜香」


「そうだね、一緒でも面白いか」


 長島は俺たちのことをいろいろサポートしたいって言ってたし、これもそのひとつかな。


「でも、お前達2人のところに一緒に行くのは、悪い気がする」


 俺は言った。せっかく長島と町田が2人で会える貴重な機会なのに。


「あ、気にしないで。私も亜衣と遊びたかったし」


 町田が言う。


「それに解散した後は怜香が俺の家に来る予定だし、2人の時間はあるから」


 長島も言った。そういうことなら少し早く解散すればいいだけか。


「どうする?」


 市村が俺に聞いてきた。


「俺は行きたいかな」


 せっかくの長島のサポートを無駄にしたくないし、なにより市村とサッカー関係なしに会ってみたい。


「わかった。じゃあ、行こうかな」


 市村が言った。


「やった! ダブルデート初めて! それも亜衣となんて」


 町田がすごく喜んでいる。


「でも、私たち付き合ってないからね」


「わかってるって。まかせて」


 町田が言った。何を任せるのやら。

 でも、明後日が楽しみだな。

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