第11話 試合の翌日

 翌日、俺は再びバイトだ。またバグを見つける毎日が続く。この日はバグが見つからないまま一日が終わった。まあ、会社にとってはいいことではあるが。


 俺はいつものように甘いコーヒーを買う。昨日は市村がゴールを決めて、試合も勝った。市村が来たら何か渡した方がいいだろうか。何がいいかは分からないがスポーツドリンクを飲んでいたよな。俺はスポーツドリンクも買って堤防に向かった。


 すると、もう自転車が停まっていた。早いな。俺もその近くに自転車を停めた。だが、市村は何も言ってこない。気がついてないのかな。俺は市村に近づいた。


「おう、早いな」


「……」


 あれ、何も言ってくれない。とりあえず横に座るが、それでもこちらを向いてもくれなかった。


「ん? どうかした?」


「熊谷君、私、怒ってるからね」


「え? 俺、なにかした?」


「昨日、なんで試合後、何も言わずに帰っちゃったのよ」


「え? だめだった?」


「だめに決まってるでしょ。感想聞こうと思ったのに。探したんだからね」


「そ、そうなんだ。ごめん、俺、試合後どうしたらいいかわからなくて」


「もう……」


「ごめん。お詫びじゃ無いけど……」


 そう言って、スポーツドリンクを渡す。


「あ、ありがと。まあ、何も言ってなかった私も悪いんだけどね」


「……俺、ああいう試合も初めて見たから」


「そうなんだ。優子ちゃんの試合で慣れてるのかって思ってた」


「いや、ほとんど行ったこと無いし」


「そういえばそう言ってたね。じゃあ、私の思い込みか。ごめんね」


「いや、俺も感想は言いたかったんだ」


「そうなんだ。どうだった?」


「うん。とにかくすごかった! 市村、お前ってすごいな!」


「ありがと。語彙力全然無いみたいだけど」


 市村が笑顔を見せた。


「ごめん、サッカーよくわかんなくて。でも、市村の動きが他の人と違うのはすぐ分かったぞ。なんというか、キレが違うな。キュッキュッって動いてる」


「キュッキュッって……」


 市村は笑った。機嫌は直ったようだ。


「ねえ、昨日のようなことにならないように連絡先交換しとこうよ」


「え? 俺と?」


「だから他に誰が居るのよ。連絡先交換しておけば、試合の後でも連絡できるでしょ」


「そ、そうだな」


「それに、ここに来れないときとかも連絡できるし」


「うん、わかった」


「もしかしたら暇なときにもメッセージ送っちゃうかもしれないけどね」


「そ、そうか。もちろんいいぞ」


「ありがと。じゃあスマホ出して」


 俺と市村は連絡先を交換した。


「じゃあ、行くね。また明日!」


「おう!」


 市村は立ち上がり去って行った。


 しかし、あの市村亜衣の連絡先を手に入れるとは。少し前の俺からは考えられないことだな。


 家に帰ると早速市村からメッセージが届いていた。

 だが、俺はそれを見てがっかりせざるを得なかった。


市村『早速だけど、明日部活休みだった。また、明後日ね』


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