第56話 バイト最終日

 金曜日。今日で夏休みの平日は最後だ。つまり、バイトは今日で終わりだ。

 バイトに行くと、二見さんと竹本さんが俺たちのところに来た。


「今日までお疲れ様。ほんとによくやってくれたよ」


「ありがとうございました」


 俺たちは言った。


「来年は後輩達が来るのかな。このバイトのことを伝えておいてくれ」


「はい!」


 バイト最終日は全員早めに終わった。


「じゃあ、今度は学校だな」


 鎌田が言った。


「だな。パソコン部で会おう」


「おう!」


 鎌田が去って行った。

 夏鈴さんは自転車だ。


「また堤防行くの?」


「いや、今は学校に練習観に行ってるし」


「そっか。じゃあ、帰りは別々だね。次会うのは教室か」


「そうだな……いろいろ迷惑掛けたな」


「迷惑掛けたのは私の方だけど……いい夏にはなったかな。好きな人も出来たし」


「え、そうなのか?」


「ま、チャンスは無さそうだけどね。熊谷君、あんまり教室でイチャイチャしないでよ」


「するわけないだろ」


「だといいけど。じゃあね!」


 夏鈴さんは去って行った。俺も行くか。


◇◇◇


 学校のグラウンドに行くと、妹の優子が居た。今日、家に市村が来ると言ってあったので、練習を観に来たらしい。


「あ、お兄ちゃん。もう練習終わるよ」


「今日は早いんだな」


 俺が優子の隣に行くと練習を終えたサッカー部員が横を通り過ぎていく。市村は残ってシュート練習をしているようだ。


 サッカー部員が俺を見る目が何か冷たい気もするが……。そこに森千尋が来た。


「……先輩、何なんすか」


 いきなりけんか腰だ。


「え、森さんどうした?」


「……市村先輩が居るのに何なんすか、この子は」


 優子を見て言う。なるほど、それで俺を見る目が冷たかったのか。


「妹だよ。来年は後輩になるかもしれないからよろしくな」


「い、妹の熊谷優子です。よろしくお願いします!」


 優子が勢いよく頭を下げた。


「……あ、妹っすか。すみません、てっきり新しい彼女連れてきて修羅場が始まるのかと」


「そんなことするわけないだろ、まったく」


 そこに市村が来た。


「優子ちゃん、久しぶり!」


「市村先輩、お久しぶりです」


「どうしたの?」


 市村が森さんに聞いた。


「すみません、別の女連れてるって思って問い詰めてました」


「アハハ、違うよ。熊谷君の妹だから。私の中学の後輩だよ」


「そうなんすね」


「うん。高速のサイドアタッカーだから千尋も来年はパスの出し甲斐があると思うよ」


「へぇー、優子ちゃん、期待してるから」


「は、はい!」


 そう言って森さんは去って行った。


「今日家に来るんですよね?」


 優子が言う。


「うん、ちょっとお邪魔しようかなって思って。いいかな?」


「もちろん是非! 彼女なんですからいつでも来てください」


「ありがと。じゃあ、ちょっと待っててね」


 市村の帰り支度が済むまで待ち、それから俺たちは一緒に帰った。今日は堤防には寄らず、まっすぐ家に向かった。


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