第59話 馴れ初め
森千尋と関、そして俺と市村亜衣のダブルデートは何か新鮮だ。
考えてみたらこれまで関ともあまり深い話はしたことは無かった。どうしても試合の話ばかりになるからだ。
「明日の試合は熊谷先輩も見に来るんですか?」
関が聞いてくる。
「おう、行くぞ」
「俺も行きます。俺は週末ぐらいしか見に行けないんで」
「忙しいのか?」
「家が遠いってのもあるんですけど、平日は手伝いが忙しいんで。うち、農家なんで」
「そうなのか」
「はい。兼業農家ですけど。土日は親も居るんですけどね」
「じゃあ、平日は会えないのか?」
「いえ、毎日会ってますよ。学校は遠いので途中で待ち合わせして送ってますから」
「そうか、だったら俺たちと似たようなものか」
俺たちも帰り道途中の堤防で待ち合わせしていたからな。
「……美味しかったっす。先輩、ありがとうございます」
森さんは食べ終わって、俺にお礼を言った。
「別にいいぞ。一度後輩におごってみたかったんだ」
「秀明はすぐおごりたがるのよね。私にお金出させないんだから」
市村が言う。
「それぐらいしかできないからな。俺は亜衣にいつも元気もらってるし、お返しさせてくれ」
「そう言われると何も言えないけどね……」
市村が少し赤くなった。その姿を森さんがじっと見ている。
「な、なによ、千尋」
「……乙女の市村先輩、かわいいっす」
「う、うるさいわね! 千尋も関君の前では乙女なんだからね」
「……私は違います」
「そんなことないよね、秀明」
「まあ、そうだな。関に頭ぽんぽんとされて赤くなっている森さんは可愛かったぞ」
「え、何それ。私も見たい!」
市村が言う。
「ダメです。あれは俺たちにとって大事なものですから。そんな見世物じゃありません」
関はきっぱりと言った。
「そっか……そうだね。関君ごめん」
市村が謝る。すると、森さんの様子がおかしくなった。
「ん? 千尋どうした?」
「……
もじもじして森さんは言った。
「うわあ、千尋も乙女じゃん!」
「ち、違うから……」
森さんは恥ずかしそうだ。
それにしても関の下の名前、巧己だったのか。
「でも、熊谷先輩がようやく市村先輩と付き合い出してほっとしましたよ。いつも『まだ付き合ってないんですか』って聞いてましたもん」
「そうなの?」
「はい。だから、付き合い始めたって千尋から聞いてほんと嬉しかったです」
「ありがとな。でも、俺たちばかり馴れ初め知られてるのは不公平だぞ。お前達のも教えてくれ」
「俺たちのは言ったじゃ無いですか。中学になって、千尋が綺麗になってみんなから注目集め出したから、焦って俺が告白したんです」
「……そうだったんだ」
森さんが言った。なぜ関が告白したかは知らなかったようだ。
「そうだよ、千尋がどんどん可愛くなっていくから、俺焦っちゃって……」
「……私も巧己がどんどんかっこよくなるから焦ってた」
「そ、そうだったんだ……じゃあ、お互い同じだったのか」
「……うん。私も告白しようかって思ってたから」
「!! そうなんだ……よかった。俺の一方通行じゃ無くて」
関がほっとしたように言った。
「……私もなんで急に告白してくれたんだろって思ってたから分かって嬉しい」
森さんもまた乙女の顔になってるな。
「ダブルデートってやっぱりいいですね。今度は本格的にお願いします!」
関が俺に言う。
「だな。また行こう」
「はい!」
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