第60話 九州リーグ
翌日の日曜。今日は九州リーグの試合だ。最初に試合を見たのも九州リーグだったな。
久しぶりに水前寺競技場に向かう。ここは屋根は無いが大きなスタンドがある。以前は大きな屋根があったらしいが老朽化して取り壊されたそうだ。階段を上り、スタンドに入るともう関が待っていた。
「先輩、来ましたね!」
「おう。今日の相手は強いのか?」
「福岡の大学ですからね。強いですよ」
「大学? そんなところともやるのか」
「はい。九州リーグは高校に、大学に、社会人に、いろいろですから」
「厳しいな……」
「はい、体格が違いますしね。千尋は細いから苦戦しそうです」
「亜衣もどうだろうな。鍛えてはいるけど……」
練習が始まり両チームの選手が入場し、礼をした。俺は市村に手を大きく振った。市村も大きく振り返してくれた。関も同じだが森さんは手を挙げただけだ。
相手チームを見ると確かに体が大きい選手が多い。これは苦戦しそうだ。
練習が終わりスタンドに引き返す市村に声を掛ける。
「亜衣、応援してるぞ」
「ありがと!」
そう言って市村は自分の頬を叩いた。気合いを入れているようだ。
試合が始まるとやはり相手ペースだ。なかなか攻撃が出来ず、市村もボールを触れない。ようやく市村にボールが来ても相手ディフェンダーのマークがきつく、チャンスが作れなかった。かなり攻められているが、森千尋も守備に入り、なかなか相手のシュートは入らない。そのまま前半は終わった。
「なかなか厳しいですね」
「そうだな」
関とそんな話をしていると、市村がスタンドに帰ってきた。
「亜衣、がんばれ!」
そう言うと市村はこちらを見てにこりと笑った。
「あ、今の可愛かったですね」
関が言う。
「だな。まだ余裕はあるようだ」
「後半期待ですね」
後半が始まる。うちのチームは1人交替したが、相変わらずこちらが攻められる展開だ。前半より攻められている気がする。
「大丈夫なのか?」
思わず関に聞く。
「前半よりいいと思いますよ。5-4-1になってますね。市村先輩が一人で前線です」
確かに前半は町田と2人で前に居たが今は市村だけだ。
「1人だけで大丈夫なのか?」
「まずは守備重視ということでしょう。ボールを奪ったら市村先輩に預けて、キープしている間にみんなが上がってくると思います」
関がそう言った直後にボールが市村に出た。相手が奪おうとするが市村は奪わせない。上がってきた町田にパスし自分は前に走る。そこにちょうどいいパスが町田から出た。
「あ、チャンスです!」
関が言う。
市村の前にはディフェンダーが1人いる。だが、市村は相手の股下にボールを通し、それを自分で取って、さらにキーパーと相対する。そして、強く放ったシュートはキーパーの逆を付いてゴールに突き刺さった。
「よーし!」
「やったあ!」
俺と関はハイタッチする。市村も駆け寄ってきた町田と森千尋に抱きついていた。
「いやあ、すごかったですね。キレキレでした」
「キレキレ?」
「はい、動きがキレまくってました」
なるほど。すごくキレのある動きをしていたと言うことだな。
スタンドがまだ興奮状態にあるときだった。相手が再開したゴールをすぐさま市村が奪った。そして、ドリブルで突き進んでいく。また、スタンドが湧いた。
「亜衣、行けー!」
俺も興奮して叫ぶ。市村は相手ディフェンダーが3人引き寄せたところですぐに隣の町田にパス。町田はこれをポーンと上に浮かしディフェンダーの背後に送る。そこに走り込んだ市村がダイレクトに蹴り込んだ。キーパーは全く反応できなかった。あっという間の追加点だ。
「うおおおお!」
「すげー!」
俺も関も叫んだ。市村は町田と抱き合っている。
「なんだ、今のプレイ。サーカスみたいな……」
「ですね。プロでもなかなか見れないですよ。今のようなプレイは」
「さすがは亜衣と町田だ。息がぴったりだったな」
「はい、市村先輩と町田先輩のコンビネーションプレイですね。たぶん、練習でもやってるんだと思います」
そう言われれば、自主練したとき、やってたな。俺の頭を越すパスを町田が出し、市村がダイレクトで決めていた。やはり練習のたまものか。二人はすごいな。
その後は相手の攻撃がすさまじく、一失点してしまったが、なんとか逃げ切って2対1で勝つことが出来た。
これで市村にご褒美だな。
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