第21話 お礼

 火曜日、今日は久しぶりのバイト。会社に着くと既に竹本夏鈴さんも来ていた。


「おはよう、熊谷君。今日もよろしくね」


「ああ、よろしく。でも、もう教えるところも無さそうだけど」


「そうね、何か分からないところがあったら聞くから」


「分かった」


 こうしてバイトが始まった。夏鈴さんはいくつか質問をしてきたが、特に問題は起こらずそのまま終了した。


◇◇◇


 それから俺は帰り道にいつものようにコーヒーを買って堤防に来る。しばらくするといつものように自転車がやってきた。


「お疲れー」


 市村亜衣だ。自転車を停め、降りてくる。だが、いつもと違い何か袋を持っている。


「昨日はありがとね。これ食べよ!」


 市村は袋からアイスを出し俺に渡した。


「買ってきたのか?」


「うん、暑いから。昨日のお礼も兼ねて」


「なんでだよ。俺はご褒美でケーキ買ったのにそのお礼って」


「いいから、いいから。私が食べたかっただけだし。食べよう」


「そ、そうか。だったら、ありがたく」


「うん」


 そして2人で並んで川を見ながらアイスを食べる。


「はぁ、練習の後のアイスは最高!」


「確かにそうだろうな」


「あんまり食べちゃだめだけどね」


「……やっぱりアスリートは食事にも気を付けてるのか」


「まあ、プロとかそういうレベルとは全然違うけどね。一応考えてるよ。筋肉も必要だし」


「そうだよな」


「私、こう見えても腹筋すごいからね」


「そうなんだ」


「うん。見る?」


 市村が服をめくろうとする。


「ちょ、ちょっと……」


「え、何?」


「さすがに女子の腹筋を見るのは……」


「別にいいよ。筋肉だし。恥ずかしくないから」


「そ、そうなんだ」


「うん……」


 そう言って服をめくった。そこには良く割れた腹筋があった。


「どう?」


「す、すごいな。漫画で見るような腹筋だ」


「漫画で見るって……アハハ」


 市村はツボに入ったようで笑い出した。


「触ってみる?」


「え!? そこまではちょっと……」


「そ、そっか……」


 そういって、市村は服を元に戻した。


「ありがとう」


 俺は思わずお礼を言ってしまう。


「な、なんかお礼言われると照れる……」


「そ、そうだな」


「まあ、熊谷君なら優子ちゃんの腹筋とか見てるよね」


「いや、見たこと無いな」


「そうなの? ……なんか恥ずかしくなってきたな」


「そう言うとこっちも恥ずかしくなるから」


「そ、そっか。まあ、いいや。じゃあ、行くね」


「う、うん……」


 市村は立ち上がった。


「また、明日!」


「おう!」


 ◇◇◇


 家に帰り、ふと優子に聞いてみる。


「優子、腹筋見せてくれ」


「はあ? 何でお兄ちゃんに見せなきゃいけないのよ」


「嫌か?」


「普通に嫌」


「そうか……」


「あ、何? もしかして市村先輩に腹筋見せてて言って嫌われたんでしょ」


「ち、違う。逆だ」


「逆?」


「うん。腹筋見せてくれたから、鍛えている女子はそういうの見せるの普通なのかなって思って」


「へぇー、市村先輩の腹筋見たんだ。なんかいやらし」


「なんでだよ。俺が見たいって言ったんじゃ無くて市村の方から見せてくれたんだからな」


「へー、そうなんだ。やっぱり、脈ありそうじゃない?」


「そうかな……」


「うん。順調だね」


「そうだといいけど……」


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