第22話 違うコーヒー

 水曜日。今日もバイトだ。今日は竹本夏鈴たけもとかりんさんが初めてバグを見つけた。それで休憩中も夏鈴さんのテンションは高かった。


「もう、びっくりしたよ、私が間違えたかって思って」


「だよな。初めての時は俺も驚いたよ」


 鎌田が返答している。おれは近くで話を聞いているという感じだったが、夏鈴さんが話しかけてきた。


「熊谷君はバグを見つけたとき、原因まで見抜いたって話聞いたよ」


「あのときはたまたまだよ」


「すごいよね、熊谷君」


「そうかな」


 俺は美人に褒められて照れくさかった。


◇◇◇


 バイトが終わると今日は夏鈴さんも会社を一緒に出てきた。


「あれ? 今日は叔父さんと一緒じゃ無いの?」


「うん、遅くなるみたいで。私も自転車」


「そっか。どっち方向?」


「熊本駅の方」


「じゃあ、俺と一緒か」


「そうなんだ。一緒に行こうか」


「そう……だな」


 俺と夏鈴さんは自転車を漕ぎ出す。しかし、このまま堤防まで一緒だとどうしよう。俺が途中で止まるのも変な感じになるよな。かといって、市村が来るだろうにそこに居ないわけにもいかない。いつも甘いコーヒーを買う自動販売機はもう過ぎてしまった。


 どうしよう、と思っていたが、その悩みは無用だった。


「じゃあ、私こっちだから」


「あ、そうなんだ。じゃあ、また明日!」


「うん!」


 途中の交差点で夏鈴さんは別れていった。

 その後、俺は別の自動販売機でコーヒーを買う。だが、普段とは違う自動販売機なのでいつも飲む甘いコーヒーが無い。仕方なく、違うコーヒーを買った。


 そして、堤防のいつもの場所に自転車を停め、市村を待った。

 しばらくすると、市村がやってきた。今日は黙って自転車を停め、俺のところに来た。


「お疲れ!」


「おう、お疲れ様」


 そして慣れたように隣に座る。すっかりこれが当たり前になった。


「あれ? 今日はコーヒー違うね」


 市村が気がつく。


「良く見てるね」


「うん。毎日だし」


「そうか。今日はいろいろあって、いつもの自販機で買えなかったんだ」


 途中まで夏鈴さんと一緒だったというのは何か言いにくかった。


「そうなんだ。連絡くれたら私が買ってきたのに」


「そこまでこだわってないから大丈夫だよ」


「そっか。でも遠慮無く言ってね」


 そう言って、自分はスポーツドリンクを飲んだ。


「……また、練習試合あるんだよね」


「そうか、じゃあ行こうかな。また学校?」


「うん。でも今度は土曜の16時開始だから」


「夕方からか。だったら、優子も行けるかもな」


「そうかもね、是非一緒に観に来てよ」


「わかった。聞いてみる」


 その後は俺たちは黙ったまま、川を見ていた。すると、肩に何か感触がある。

 市村の頭が俺の肩にもたれかかっていた。


「……市村?」


「……え? あ、ごめん! ちょっと寝てた」


「疲れてるな」


「うん。ごめんね、肩借りて」


「俺は別にいいぞ」


「そっか……じゃあもう少し、肩、借りていいかな……」


 市村の頭が再び俺の肩にもたれかかる。俺はその感触を感じて緊張してしまっていた。


 しばらくそのままだったので、俺は言った。


「また寝るぞ」


「そうだね……なんか……パワー注入できたかも」


「そ、そうか」


「……そろそろ行くね」


 市村は立ち上がった。


「また明日ね! 今日は肩かしてくれてありがと!」


「おう!」


 市村が去って行く。それにしても肩の感触、あれはやばかったな。


◇◇◇◇


 私、市村亜衣は自転車を漕ぎながらも自分の体が熱くなっているのを感じざるを得なかった。

 疲れからか、川を見ているうちについ寝てしまって、熊谷君の肩に頭を預けてしまった。


 でも、それが気持ちよくて、起きたのにまたやってしまう。


「パワー注入か……」


 自分でも何を言っているかよくわからないけど、すごく心が落ち着いて透き通ってくるのが分かった。


「また、明日もしたいな」


 そんなことを考えてしまった。


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