第37話 遠征2日目

 朝、市村から電話があった。自分を落ち着かせるために俺に電話してきたそうだ。

 正直そう言われて嬉しかった。


 試合の時間になり、俺はまた実況アカウントで試合を見守ることにした。


実況アカ『熊本、ボールを支配しているがシュートまで行けず』


実況アカ『福岡、カウンターでシュートも外す』


 どうも一進一退のようだ。

 だが前半終了間際で朗報が入る。


実況アカ『熊本、PK獲得』


 市村が蹴るのだろうか。期待して続報を待った。


実況アカ『熊本、市村のPKで先制』


「よっしゃ!」


 俺は一人で叫ぶ。すると、妹の優子が入ってきた。


「何叫んでるの?」


「国体の九州ブロック予選。SNSで実況を見てたんだ」


「勝ってるの?」


「ああ。市村のPKで先制した」


「さすが市村先輩。残り時間は?」


「もう前半終わるところだ」


「あと半分か。勝って欲しいね」


「おう」


 優子は出て行った。後半、やはり試合は一進一退のようだ。

 しかし、後半終了間際、逆にPKを取られてしまい、同点に追いつかれた。


「まずいな……」


 こうなると相手は勢いづく。ピンチの連続のようだ。だが、しのぎきってもうアディショナルタイムも終わるかという時間だった。


実況アカ『熊本、カウンターから市村のゴールで勝ち越し』


「ようし!」


 また、俺は叫ぶ。すると優子がまた来た。


「勝った?」


「いや、追いつかれたが市村のゴールで勝ち越した」


「おー、すごい。もう終わりじゃないの?」


「まだ……いや、終わったようだ。勝ったぞ、優勝だ!」


「さすが、市村先輩。お兄ちゃんにはもったいない」


「……そうかもな」


 確かに市村はすごい選手だ。俺ではとても釣り合いが……


「ふふ、冗談だから気にしないで。そのうち連絡来るんじゃない? その前にお昼食べようよ」


「そうだな」


 俺は複雑な気分でお昼ご飯を食べた。

 食べ終わった頃にすぐ電話があった。市村が電話が来ると俺のテンションはすぐに戻った。


『勝ったよー!』


「おう、実況で見てたぞ。2得点したな!」


『うん。お守りのおかげだよ!』


「そうかもな」


『それに朝の電話で落ち着いてプレイできたし、感謝感謝!』


「役に立ったなら良かった」


『すごく役に立ったよ。とりあえず勝ってほっとした』


「よかったな。今日帰ってくるのか?」


『うん、そうだけど閉会式とかあるから夜8時すぎになりそう』


「そうか、学校までバスが来るのか?」


『そうだよ』


「わかった」


『え? 来るの?』


「顔見たいから行こうと思う。ダメか?」


『いいよ、でも無理はしないで』


「大丈夫だ。じゃあ、行くからな」


 電話を終えると優子が居た。


「なに? 会いに行くの?」


「まあな。8時頃に着くっていうから、ちょっとお祝いに行くだけだ」


「へぇ、お祝いならまたケーキ買って行きなよ」


「そうだな。夜遅くなりそうだしあらかじめ買っておくか」


 俺はケーキを買いに出かけた。


◇◇◇市村亜衣 side


「どうしよう、熊谷君、迎えに来るって」


 私は怜香に言う。


「へぇー、いいわねえ。彼氏の出迎え」


「彼氏じゃないから」


「千尋は? 関君だっけ。来るの?」


 怜香が森千尋に聞いた。


「あ、はい。来るそうです」


「そっちもか。いいなあ。私は家族だけだし」


 怜香がふてくされて言う。


「そんなことより、熊谷君、来るんだよ。私、髪乱れてない?」


 私は慌てて怜香に言う。


「あー、別にいいんじゃない」


 だめだ。全然真剣に見てくれない。


「千尋、お互いチェックしよ」


「そうっすね。私もお願いします」


 私と千尋は慌ててお互いの身だしなみを確認した。

 と言ってもまだ彼に会えるのは何時間も先だけど。

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