第38話 出迎え

 夜7時近くになり市村からメッセージが来た。


市村『まだ人吉ひとよしだから、8時には着かないと思う』


熊谷『わかった。大丈夫だ』


 だが念のため、8時に着くように学校に向かった。

 すると、校門の近くに何人か居る。迎えに来た家族だろう。練習試合で良く見る人も居るな。あれは……久しぶりに会った。一年生の森千尋の彼氏、関だ。俺は声を掛けた。


「よう、お前も出迎えか?」


「あ、熊谷先輩。そうですよ。先輩は市村先輩を出迎えですか?」


「まあな」


「じゃあ、あれから付き合えたんですか?」


「……まだだよ」


「あ、そうなんですね」


「まあ、もう少しだと思う……たぶん」


「ですよね。迎えに来てるぐらいですし」


「ま、まあな……」


 8時半が過ぎて、ようやくバスが着いた。そこから何人か降りてくる。まず森千尋が降りてきた。すぐに関が駆け寄り、荷物を持っている。


 次に町田が降りてきて、その後に市村も降りてきた。きょろきょろと辺りを見ている。俺を探しているのかな。俺は声を掛けた。


「市村!」


「あ、熊谷君」


 市村が笑顔で近づいてきた。


「優勝おめでとう」


「ありがとう。熊谷君のおかげだよ」


「そんなことないよ……これ」


 おれはケーキを差し出した。


「え?」


「お祝いのケーキ」


「あ、ありがとう……。嬉しい」


 それを見て町田が近づいてくる。


「なに? プレゼント?」


「まあな、優勝したからお祝いのケーキだ」


「私には?」


「お前は長島が買ってくれるだろ」


「買ってくれないよ。第一、ここに来ても居ないし。いいなあ、亜衣は」


「アハハ……」


 市村は笑ってごまかしていた。


「わざわざ迎えに来るなんてマメねえ」


 町田が俺に言う。


「会えなかったから顔を見たかっただけだ」


「1日だけでしょ」


「そうだけど……」


「あ、家族来たから。じゃあね」


 町田が去って行った。そういえば、市村はどうやって帰るのだろう。


「市村は――」


「亜衣!」


 女性の声が来た。ふと見ると大人の女性だ。


「あ、お母さん」


 市村のお母さんか。しまった、市村の家族が来る可能性を考えていなかった。


「優勝おめでとう」


「ありがとう」


「それで……この人は?」


 市村のお母さんが俺に言う。


「は、初めまして。市村さんの、いや、亜衣さんのクラスメイトの熊谷秀明です」


「初めまして。あなたも家族がサッカー部に居るの?」


「あ、いえ……亜衣さんを出迎えに来ました」


「へぇ……もしかして彼氏?」


「お母さん! 違うから!」


 市村が言う。


「はい、彼氏ではありません。友達です」


「そう。友達なのに出迎えねえ。あら、それは何?」


「ケーキ。熊谷君がお祝いって……」


「ケーキまで。どうも、ありがとう」


「あ、いえ……」


「それで、あなたは亜衣のことどう思ってるの?」


「お母さん!」


「亜衣さんは大切な友達です」


「へぇ、そう」


「お母さん、もういいから。帰るんでしょ!」


「ああ、そうね。熊谷君、今度はうちに遊びにいらっしゃい」


「あ、はい」


「お母さん!」


「はいはい、じゃあ、亜衣をよろしくね」


「はい!」


「熊谷君、ごめん! また連絡する!」


「おう、またな」


 市村はお母さんと去って行った。


 しかし、市村のお母さんと会うことになるとは……。話してみた感じ、悪い印象は持たれなかったようだ。家にも招待されたし。しかし、家か……。市村は俺の家に来たが、俺が市村の家に行くなんて考えても居なかったな。ほんとに行くことになったらどうしよう……


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