第39話 町田の呼び出し

 翌日の朝。俺は電話で目を覚ました。こんな朝早くから電話なんて誰だろう。スマホの画面には「長島」の文字だ。俺は電話に出た。


「……もしもし」


「熊谷、朝から悪いな」


「何の用だ?」


「怜香がお前と話したいと言っている」


「町田さんが?」


「ああ。お前に聞いておきたいことがあるそうだ」


「お前経由で聞けばいいだろ」


「直接会って聞きたいんだと。市村と会っている堤防があるんだろ?」


「ああ」


「そこに10時に居るって」


 バイトは午後だから行けるか


「わかった。じゃあ行くよ」


「頼むな」


◇◇◇


 町田怜香が俺に聞きたいこと。きっと市村亜衣のことだろう。俺は自転車で堤防まで来た。すると停めた自転車の横に町田が立っていた。


 俺は自転車を停め、町田と向かい合う。


「わざわざ来てもらって悪かったわね」


「いや、別にいいぞ。それで、何の話?」


「亜衣のことよ」


「だろうね」


「うん。あんたがどこまで真剣なのかと思って」


「真剣?」


「そうよ。亜衣のこと好きなんでしょ?」


「な……」


「隠さなくていいわよ。勝弘からもいろいろ聞いてるし」


「そりゃそうか……そうだよ。俺は市村を好きだ。できれば付き合いたいと思ってる」


「そう。で、それはどれぐらい本気なの?」


「それは……」


「例えば他にも狙ってる子とかいないでしょうね」


「そんな子はいない! 俺は市村だけだ」


「そう……亜衣は純粋なのよ。裏切られたらすごくショックを受けると思う。あなたは裏切らないわよね」


「当たり前だ。俺は市村を裏切ることは無い」


「誓える?」


「誓うよ」


「わかった……見た感じ、嘘では無さそうね」


 町田は俺をじーっと見ていた。


「嘘じゃない」


「わかったわ。昨日は出迎えにまで来てたし、あそこまでするんだったら大丈夫だとは思ったけどね」


「だったら、なんでわざわざ……」


「一度ちゃんと話して自分の目で確認しておこうと思って。これからは私もサポートできるところはするから。連絡先交換しよ」


「え?」


「亜衣のことでしか連絡しないからいいでしょ」


「そ、そうだよね。わかった」


 俺と町田は連絡先を交換した。


「今日は軽い練習か?」


「うん。さすがに疲れてるし」


「お前もだろ。よく、朝からここに来る気になったな」


「だって、あんた午後からバイトなんでしょ。仕方ないじゃない」


「まあ、そうか」


「じゃあね。困ったことがあったら相談するように」


 そう言って町田は去って行った。これからは町田にサポートしてもらえるなら助かるな。


◇◇◇


 午後、俺はバイトに行く。今日は鎌田だけで、竹本夏鈴さんはお休みだった。

 その後、俺は堤防に向かった。


 今日は練習は早めに終わるから、やはり先に市村が来ていた。


「あ、熊谷君! お疲れ!」


「おう」


 俺は自転車を停めて横に座った。


「はい、例のブツ」


 そうやってコーヒーをもらう。


「ありがとう。今日は練習どうだった?」


「軽く流しただけだから問題ないよ」


「疲れてないか?」


「少し疲れはあるかな。足とかむくみやすいし」


 そう言って足を揉み出した。


「大丈夫か。俺が揉もうか?」


「え?」


「あ、ちょっとキモかったな。忘れてくれ」


「大丈夫だけどさすがにちょっと恥ずかしいかな、足太いし」


「そんなことないよ。でも、ごめん」


「熊谷君こそ疲れてない? 昨日迎えに来てもらって今日バイトでしょ」


「俺はたいしたことしてないから大丈夫だ」


「そっか。肩とか凝ってない?」


「肩こりか。多少はあるかもな。キーボード使うし」


「ほう。じゃあ、揉んであげよう」


 そう言って市村が立ち上がる。


「いいって。疲れてるだろ」


「大丈夫。昨日のお礼だよ」


 そう言って市村が肩を揉み出した。さすが体育会系。握力あるな。


「どう?」


「うん、気持ちいい」


「そっか、いつでもやってあげるからね」


「ありがとう」


 すると、背中に市村がもたれかかってくる感触があった。


「えっと……市村?」


「あ、ごめん……私、何やってるんだろ……背中大きいなって思ったら、ちょっと背中借りたくなっちゃって……」


「俺は別にいいぞ」


「あ、ありがと……も、もうこんな時間か。私帰るね!」


 市村は慌てて帰っていった。

 俺の背中にその感触だけが残っていた。


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