第40話 遭遇

 今日もバイトだ。だが、今日から新システムのテストになる。新しいシステムの説明を軽く受け、後は資料を読みながらテストを開始した。だが、分からないことも多く、鎌田と竹本夏鈴さんと話し合いながら何とかこなしていった。


 休憩時間。また、3人で休憩室に行った。


「はあ、新しいシステム慣れないな」


 鎌田が言う。


「ほんと、全然わかんない。熊谷君居なかったら終わってた」


 夏鈴さんが言う


「そんなことないよ。俺にも難しかったし」


「よくすぐわかるよね。熊谷君は頭の出来が違うよ」


 夏鈴さんが言う。


「まあ、俺は自分でコードを書いてるからって事もあるだろうけど」


「すごいよね、熊谷君。この後も頼りにしてるから」


「おう」


 その後も俺は主に夏鈴さんをサポートしながらなんとかバイトを終えた。


 その帰り、今日も夏鈴さんは途中まで一緒だ。


「熊谷君、やっぱりすごいなあ」


 自転車で横に並びながらそう言ってくる。


「そうかな」


「そうだよ。こりゃやっぱりモテるねえ」


「……こんなことできてもモテないよ」


「そうかなあ。今狙っている人ともいい感じなんでしょ」


「うーん、どうなんだろうなあ」


「誰だったっけ?」


「自然な流れで言っても言わないからね」


「……最近も会ってるの?」


「まあね」


「ふうん」


 そして分岐点まで来た。


「じゃあ、ここで!」


「おう」


 俺は堤防に向かった。


 堤防に到着するとまだ市村は来ていないようだ。俺は自転車を停め、堤防に座った。しばらく川を眺めているか。


 すると、後ろで自転車が止まる音が聞こえた。あ、もう来たか。そう思い振り返る。


 だが、それは市村では無かった。


「ここで何してるの?」


「夏鈴さん……どうしてここに」


 そこに居たのは先ほど別れたはずの竹本夏鈴さんだった。夏鈴さんは自転車を降り、俺の横に座る。


「ごめん、私と別れた後、もしかして熊谷君が狙ってる子に会うんじゃないかと思って、あとつけちゃった」


「おいおい……」


「そしたら、こんなところで黄昏たそがれてるからどうしたのかなあって思って」


「いや、別に……」


 まずい、このままだと市村がここに来るぞ。これを見られたら誤解されかねない。そう思ったときだった。


「熊谷君……」


 市村の自転車がもうそばに来ていた。俺は慌てて立ち上がり駆け寄る。


「市村……」


「今日は誰かと一緒だった?」


 堤防の下の方を見た。


「いや……」


 すると、夏鈴さんが立ち上がる。


「あれ? 市村さん?」


「竹本さん!?……どうしてここに?」


「私は熊谷君とバイトが一緒だから。いつも一緒に帰ってるんだよ」


 そう言って夏鈴さんは俺の腕をつかんだ。


「い、いつも一緒なの……」


「夏鈴さん、誤解を招くようなことを……」


 俺は慌てて腕をふりほどく。


「え、『夏鈴さん』って……!?」


 しまった。いつものように名前で呼んでしまった。


「いや、これは――」


「私、帰るね」


 市村は急に自転車を漕ぎ出した。


「い、市村!」


 呼びかけるが市村は止まらずに去ってしまった。

 追いかけようと動く俺の腕を夏鈴さんが再びつかむ。


「熊谷君の気になる人、市村さんだったんだあ」


「……そうだけど、困るよ」


 俺は再び腕をふりほどいた。


「誤解しちゃったかな」


「そうだよ。夏鈴さんから誤解を解いてもらえないかな」


「私、市村さんと親しくないし」


「そ、そんなこと言わないで……」


「うーん、ごめんね。お詫びに今度何かご馳走する」


「そういうのはいらないから……はぁ……」


「元気出して。じゃあ、私、帰るね。また、明日!」


 夏鈴さんは帰っていった。

 はぁ……とにかく市村の誤解を解かなくては。帰ったらすぐに電話しよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る