第41話 反応

 その夜、家に帰ってから市村に電話を掛けたが出てくれない。メッセージを送っても既読にはなったが反応は無かった。

 仕方ない。明日も練習があるはずだし、堤防で説明しよう。


 俺はへこんだまま、翌日バイトに向かった。


「あ、熊谷君」


 竹本夏鈴さんが笑顔で俺を迎える。


「どうしたの? 顔、暗いよ」


「夏鈴さんは原因知ってるはずだけど」


「あ、市村さんかぁ。仲直りできなかった?」


「メッセージとか反応無くて……」


「そっかあ。どうしたらいいかなあ。また私が行ってあげようか?」


「いいよ。俺一人で」


「そう? 私が行った方が良くない?」


「大丈夫だから。あそこには来ないで」


「そっかあ、わかった」


「それから、鎌田には秘密だからね」


「あ、そうだねえ。二人の秘密にしておこう」


 そう言って夏鈴さんは微笑んだ。


 その日のバイトはやはり集中できず、なかなか作業を進めることが出来なかった。


 帰り道、俺は夏鈴さんと一緒にならないようにさっさと帰ろうとするが、夏鈴さんが「待って!」と俺を引き留めてきた。追ってこられても面倒だし、しかたなく途中まで一緒に行くことにする。


「ほんとにごめんね。でも、それにしても市村さんとはねえ、意外」


「意外、かな」


「うん。市村さん、彼氏居るって鎌田君が言ってなかったっけ」


「今はもう居ないんだ」


「そうなんだ。でも、市村さん、体育会系じゃん。熊谷君とは合わないよ」


「そうかな……」


「そうだよ。なかなか進展してないんでしょ。脈無いんじゃないかな」


「そんなことない……と思うけど」


「これを機会に別の恋愛見つけたら?」


「そんなわけにはいかないし……とにかく、今日これから説明する。堤防には来ないでくれよ」


 俺は夏鈴さんに釘を刺し、堤防まで急いだ。

 まだ市村は来ていない。俺は堤防に自転車を停め、市村を待った。



 だが、いつまで待っても市村は来なかった。まずい……俺の中で焦燥感が募る。背中が熱くなってきた。スマホで連絡するが、やはり反応が無い。


 夜11時をまわった。今日はもう来ないだろう。俺はあきらめて家に帰った。


 家に帰るとスマホにメッセージが来ている。市村か、と思ったが町田だった。


町田『何時でもいいから電話して』


 俺はすぐに電話を掛けた。


『熊谷君、何の用かは分かるよね』


「市村だよね」


『そうよ。今日様子がおかしかったんだけど』


「ごめん。俺のせいだ」


『やっぱり……何があったの?』


「市村に誤解されてしまった。実は竹本さんとバイトが一緒なんだけど……」


 俺は昨日あったことを話す。誤解が無いように「竹本さん」と呼んだ。


『夏鈴がそんなことを……』


「町田さんは竹本さんとは仲がいいの?」


『まあ、多少は』


「そうか・・・・・・」


『うーん……バイトが一緒か。そうね。だったら、熊谷君、明日、私の言うとおりにして』


「わかった。市村のためなら何でもする」


『よし、じゃあ……』


 俺は町田の指示を聞いた。


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