第43話 謝罪

 堤防に着くと、そこには竹本夏鈴さんが居た。


「私が呼んだの」


 町田が言う。俺たちは堤防のいつもの場所で停まった。


 すると、夏鈴さんが市村に頭を下げる。


「市村さん、ごめんなさい!」


「え?」


「誤解を招くようなことをして……謝ります」


「あ、もういいから頭を上げて」


 市村の言葉に夏鈴さんが頭を上げた。


「怜香に怒られちゃって……ほんと、反省してます」


「う、うん、大丈夫」


 クラスの人気者の竹本夏鈴に謝られて、市村は恐縮しているようだ。

 そして、町田が夏鈴さんに言った。


「夏鈴、亜衣は大事な時期なの。もう熊谷君に手を出さないって約束できる?」


「う、うん。約束する。ごめんなさい!」


「よし。じゃあ帰っていいわよ」


「はい、じゃあ……」


 夏鈴さんは俺に目を合わせることも無く、帰っていった。それにしても、夏鈴さんをあそこまで謝らせる町田の力はすごいな……絶対に怒らせないようにしよう。


「さてと……これで一件落着でいいわよね」


 町田が俺と市村に言う。


「ああ、助かったよ」


 俺が言った。


「よし! じゃあ、私も帰りますか。亜衣はゆっくり熊谷君を楽しんでから帰ってね」


「ちょ、ちょっと!」


「じゃあねえ」


 町田は帰っていった。


「じゃ、じゃあ、座ろうか」


「う、うん……」


 俺と市村はいつもの場所にぎこちなく座った。


「ごめん、市村。誤解させちゃって……」


「ううん、私もごめん。竹本さんが居たとき、びっくりしちゃって」


「そうだよな……」


「うん。それに、竹本さんのこと、夏鈴って呼んでたし」


「あ、あれは会社に竹本さんの叔父で同じ竹本さんが居るんだよ。それで夏鈴さんって呼ぼうってなって。俺だけじゃ無くて鎌田もそう呼んでるからね」


「そうなんだ……びっくりしたよ。だって、私は『市村』って呼ばれてるし」


 少し拗ねたように市村が言う。


「そ、そうだね……」


「でも、さすがに付き合っているとかそう言うのじゃ無いってのは分かってたんだけど……」


「分かってたんだ」


「うん。でも、私、腹が立っちゃって……でも、おかしいでしょ。別に熊谷君に彼女がいたっておかしくないわけだし、なんで私怒ってるんだろうって……」


 確かに市村は俺を友達だとずっと言っていた。


「そう考えたら、熊谷君のメッセージに返信できなくなってた。電話も出れなくなってた」


「そうか……」


 少しは俺のことを意識してくれたのかな。


「おかしいよね、私。友達なのに……」


「おかしくないよ。もし、逆の立場だったら俺もそうなると思う」


「そうなんだ……」


「うん」


「でも、それって……友達とかの範囲超えてるってことじゃないのかな」


「うん。そう思う」


「そう思うって……そういうことなの?」


「うん。俺はもうずっとそうだよ」


「そ、そうなんだ……」


 あれ? いつの間にか告白みたいになってる。話を急ぎすぎたかも。

 市村は顔が赤くなっていった。まずは元通りに戻りたい。俺は慌てて言った。


「で、でも、すぐにそういう話をしようとは思っていないから。ゆっくり進んでいけばいいと思ってる。俺たちのペースで」


「そ、そうだよね。私も急にそんなこと言われても困るし……」


「そうだよな。うん、別に俺は関係を急に変えようとか思ってないから。だから、今まで通りにここで会ってくれたら嬉しい」


「う、うん……わかった。とりあえず、今まで通りでいいかな」


「うん。そうしよう」


「だよね……よし!」


 市村が大きい声を出した。


「また、週末試合あるし、それに向けて頑張るぞ!」


「そうか、だったら観に行くよ」


「うん。是非来て。時間とかは後で送る」


「おう!」


「じゃあ、今まで通りこれからもよろしく」


 そういう市村の顔は少し赤くなっていた。


「おう、そうだな。よろしく」


「うん。じゃあ、帰るね!」


「おう!」


 市村は帰っていった。

 今まで通り、と言ったものの、ほんとうにそうできるだろうか。関係が変わっていくような感じがした。

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