第19話 練習試合
翌日、日曜。練習試合の日だ。10時開始なのでその1時間前となる9時には家を出た。学校に到着し、いつもの駐輪場に自転車を置いて運動場に行く。夏休みだけど学校だから俺は制服を着ていた。
運動場に行くと選手の親と思われる方がもう何人か居た。持ち運びできる椅子を置いて座っている。なるほど、ここだと立ってみるしかないから、ああいうのがあると便利なのか。
この前の試合に居た1年生の森千尋の彼氏、関は見当たらない。練習試合にはわざわざ見に来ないのだろうか。
そこに選手達が出てきた。練習開始だ。まずは、整列して挨拶する。市村が俺を見つけて小さく手を振ってきた。俺も手を小さく振り返す。市村の隣に居た町田怜香が俺をにらんでいたような気もするが気にしないでおこう。
練習が終わって選手達は一旦ベンチの方に戻り、監督の指示を聞いている。真剣な表情で話を聞いている市村を見る。凜々しい表情だ。
そして試合が始まった。すぐにうちの高校のチームが優勢だと分かる。相手はあまり強いチームではないようだ。一方的に攻め立てている。しかし、相手は守備一辺倒になっていて、かえって点が入らない。市村がモチベーションが上がらないと言っていた理由が分かった気がした。
だが、しばらく経つと先制点が入った。市村がおとりになる動きをして町田が決めた。その直後に市村が一人抜け出して2点目を決めた。その後も攻め立てたがそのまま前半は終了した。ベンチに帰るときに市村と町田はなにやら話し合っているようだった。
後半が始まり、今度は逆方向に攻め立てる。そのとき、隣に誰かが来た。
「熊谷か? なんでここに居るんだ?」
長島勝弘だ。町田怜香の彼氏、教室では俺の隣の席のやつだ。
「お前、部活は?」
思わず聞く。長島はバスケ部で忙しいはずだが……
「今、休憩中だから観に来たんだよ。で、なんでお前が居るんだ?」
「俺は……いろいろあってな」
さすがに市村と仲良くなったとは言えなかった。
「ふーん、まさか俺の怜香を観に来たんじゃないだろうな」
「なんでだよ、そんなことあるか」
「だって、女子は怜香としか話したこと無いって言ってただろ」
「言ったけど、お前の彼女だから話したんだろうが。まったく」
「じゃあ、誰狙いだ?」
長島が俺をにらんで聞く。だが、俺は言えなかった。
そのとき、市村が3点目を決める。後ろにこぼれてきたボールを見事なミドルシュートだった。
「おー! すごい!」
俺は両手を挙げて拍手した。市村を俺を見つけてガッツポーズを見せてくる。俺もガッツポーズを返した。
「……へぇー、なんでそんなことになってるんだ?」
その様子を見て長島も気がついたようだ。
「……ちょっとな。偶然バイト帰りに会ったんだよ」
「ふーん、偶然ね……で、付き合いだしたのか?」
「……付き合ってない。ただの友達だ」
「なんだ、まだ友達かよ」
「そりゃそうだよ。そううまくいくか」
「まあそうだな。でも、市村だったら怜香の親友だし、俺が協力してやってもいいぞ」
「本当か?」
「ああ。といっても、俺も忙しいから二学期からになるだろうけど」
「二学期かよ。でも、そのときは頼む」
「おう、わかった」
そのとき、選手が交代する。市村と町田と森千尋の3人が同時に交替となった。
「おい、点決めたのに交替って何でだよ。あの3人、活躍してただろ」
俺はよく分からず長島に言った。
「もう大差が付いたからだろ。練習試合だし、他の選手にも機会を与えてやるって事だ。要するにお役御免だな」
「なるほど……」
「お前、サッカー何も分かってないな」
「正直、素人だ」
「はぁ……さすがに少しは勉強しておけ」
「そ、そうだな」
優子に教わるか。
そのとき、長島が小さくを手を振った。見ると町田が手を振り返していた。いいなあ、彼女。
「じゃあ、俺は戻るから」
「え?」
「まだ部活の途中だ。じゃあな」
長島は去って行った。
試合は結局5対0で終わった。試合が終わると市村が俺のそばに来た。
「どう? 活躍したでしょ」
「ああ、すごかった」
「じゃあ、ご褒美忘れないでよね」
「ああ」
「楽しみにしてる。私はまだ帰るまで時間あるから先帰ってて」
「おう! また明日な」
「うん!」
市村はグラウンドに戻りジョギングを開始した。今度は俺のそばに町田怜香がやってきた。
「あんたたち、ほんとどういう関係よ」
「言っただろ。ただの友達」
「ふうん、まあ勝弘に聞くからいいけど」
しまった。長島に聞かれたら俺が好意があるのはバレるか。
「なんでもいいけど、亜衣の力になってあげてよね。あの子、スランプだったけど、抜け出せたの、あんたのおかげなんでしょ?」
「え? ああ、あれか」
そういえば前に不調だと言っていたな。
「やっぱりね。試合にいい影響が出るなら私も大歓迎だから。頼んだわよ」
そう言って町田はグラウンドに戻って行った。
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