第18話 バイト休みの日
翌日の土曜。バイトは休みだ。夏休みの宿題もだいたい片付いた。俺は特にすることも無く、家に居た。こんなとき、市村とメッセージをやりとりできたらな。そう思ったら市村からメッセージが来た。
市村『朝練終わり!』
熊谷『お疲れ様』
市村『何してた?』
熊谷『何もしてない。暇してた』
市村『暇なら電話していい?』
何か相談があるんだろうか。
熊谷『いいぞ』
すると、市村からすぐ電話がかかってきた。
「どうした?」
『え、何が?』
「電話掛けるって言うから」
『あー、別に何も無いよ。暇って言うから話そうかなって思って』
「そ、そうか」
『今日来るんだよね、堤防』
「うん」
『バイト休みなのに来てもらうんだし、私がコーヒー買っていくから』
「いいって」
『遠慮しないで。明日も試合見に来てもらうし』
「そうか、わかったよ」
『あ、みんな来たから。じゃあね』
「おう!」
市村と電話したことで俺の気分は明るくなった。そこに、妹の優子がやってきた。
「お兄ちゃん、誰と電話してたの?」
「別に誰だっていいだろ」
「何か妙に声が明るかったから。もしかして、市村先輩?」
「べ、別にいいだろ」
「あ、やっぱりそうなんだ。すっかり仲良くなったんだね。何か信じられないけど」
「あ、そうだ。明日、練習試合あるらしいんだけど行くか? 10時だけど」
「だから部活だって」
「そうだったな……」
「で、お兄ちゃんは行くんだ」
「う、うん……」
「ふうん、もしかして付き合えそう?」
「……正直、わからん」
「そうなんだ。私が手伝えることあったら言ってね」
「そうか。助かる……」
優子が何か手助けしてくれるならありがたい。
◇◇◇
夕方になり、市村からメッセージが来た。
市村『練習終わり!』
熊谷『お疲れ様。じゃあもう行った方がいいかな』
市村『うん、よろしく!』
おれは了解のスタンプを送り、出かける準備をする。
「あれ? 出かけるの?」
優子が俺を見て言った。
「うん、ちょっとな」
「市村先輩?」
「……まあな」
協力してくれるという優子に隠す必要は無いか。
「頑張って!」
「おう!」
優子に応援されて、俺は家を出た。
◇◇◇
堤防に着くと市村はもう来ていた。
「早いな」
「お疲れ! 私も今来たところだよ」
「そうか」
俺は市村の隣に座った。
「はい、これ。約束のブツ」
そう言って、市村は缶コーヒーを俺に渡した。
「ありがとう。別に良かったのに」
「いいから。受け取って」
「うん」
俺は缶コーヒーを飲んだ。
「はぁ、明日試合か……」
市村が何か憂鬱そうに言った。俺はそれが意外だった。
「試合が嫌なのか?」
「嫌じゃ無いけど……何かモチベーションがね。ただの練習試合だし」
「そうか……」
先週の試合は公式戦だったが明日は練習試合だから気持ちが上がらないのだろう。何かモチベーションを上げてやれないだろうか。
「じゃあ、そうだな、勝ったらご褒美とかどうだ?」
「え、ご褒美?」
「うん。何か美味しいものとか」
「ご馳走してくれるの?」
「うん、俺で良ければ」
「やったー! いいね。ご褒美。やる気出てきたよ」
「勝ったらな」
「うん、わかってるって。よし、頑張るぞ!」
市村のやる気が出てきたようでよかった。
それにしてもつい、何か美味しい物とか言ってしまったが、何がいいだろうか……
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