第17話 次の試合

 夏鈴さんに驚いた今日のバイトが終わり、俺はいつものように堤防に向かう。もちろん、甘いコーヒーも買ってきた。今日は市村からのメッセージは特にない。ということは普通に来るのだろう。


 堤防に座り、しばらく待つ。すると、自転車の明かりが見えてきた。今日は一つだ。ということは町田怜香は一緒じゃないということだ。


「おーい、熊谷くーん」


 遠くから市村が声を掛けてくれた。


「おう!」


 俺も立って出迎える。市村が自転車を停め、降りてきた。


「昨日はここに座れなかったから、なんか久しぶり」


一昨日おとといは来たんだから」


「まあそうだけど」


 そう言って俺の隣に腰を下ろした。


「ふぅ、やっぱり落ち着くね。昨日は怜香が急に来るって言い出して大変だったよ」


「俺もびっくりしたよ」


「ふふ、そうだったね。さすがに毎日ここで会ってるとはちょっと言いにくくて……。ときどきって嘘ついちゃった」


「そうだよな。毎日ってのはな」


「うん。でも、あの後、追求されちゃって。ほんとは付き合ってるだろ、とか言われて大変だったよ」


「そうなんだ」


「うん。でも、ちゃんと付き合ってないって答えておいたから」


「そうか……」


 それが真実ではあるけど、悲しい現実だ。


「でも、試合に来てたのはごまかしようが無くて。私が呼んだってのは言っちゃったから」


「そうなのか」


「うん。それにこれからも熊谷君には試合観に来て欲しいし。そうなると、ごまかせないしね」


「そうだよな。また、試合あるのか?」


「うん。日曜にね。練習試合だけど」


「そうか。じゃあ、観に行こうかな」


「ほんと? でも、今度はこの間みたいに見やすいスタジアムじゃ無いよ」


「どこなんだ?」


「学校のグラウンドだよ。練習試合だし」


「俺が見に行っていいのか?」


「自分の学校なんだし、いいでしょ。それに、この間みたいに親とかも見に来たりしてるから」


「そうなんだ。じゃあ、行ってもいいか」


「ただ、怜香はまた何か言ってくるかもね」


「そうだよな。まあ、ごまかしとく」


「うん。さてと、そろそろ行かないと。じゃあ、また明日……って、明日はバイト休みだっけ」


「そうだな」


「そっか、じゃあ明日は会えないね」


「……また来ようか?」


「いいよ、迷惑掛けるし」


「迷惑じゃ無いから。俺も話したいし」


 思わず本音を言ってしまう。


「そ、そうなんだ。うん、じゃあ練習終わったら連絡するから」


「わかった」


「じゃ、また明日ね!」


 市村は自転車で去って行った。


 明日、バイトじゃないのに会う約束をした。一歩前進、なのかな。


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