第45話 友達以上
竹本夏鈴さんが謝ってきた翌日、俺がバイトに行くと、夏鈴さんがまた謝ってきた。
「ごめん、いろいろ迷惑掛けて……」
「いいよ、もう誤解は解けたから」
「でも……やっぱり意外だったなあ。市村さんかぁ」
「……いいだろ」
「いいけど、二学期が楽しみだなあ。みんな驚くよ」
「うまく行けばな……」
「行かないの?」
「うーん、どうだろうな。行けばいいけど……」
「そうなんだ。怜香がすごい怒ってきたし、もう付き合う寸前かと思ってたよ」
そうなって欲しいな……
◇◇◇
その日、バイト終わりに竹本さんは久しぶりに叔父さんの車で帰っていた。
俺は一人で帰り、堤防に向かう。すると、もう市村が来ていた。
「あ、熊谷君!」
「おう! 今日は早かったな」
「うん、明日試合だし」
「そうだったな」
明日、明後日とうちの高校は皇后杯の熊本県予選に出場する。
「熊谷君、私、あれからいろいろ考えたんだけど……」
「うん……」
「もし週末の大会で優勝できたら、試合後に時間取れないかな。話があるんだ」
「優勝したときか」
「うん。土曜も勝って日曜も勝てば優勝だよ」
「2試合か……確認するけど、優勝したときだけなんだな、話があるのは」
「うん。それぐらい自分にプレッシャーを掛けたいんだ」
「そうか、わかったよ。俺も全力で応援する」
「応援か……この間の練習の時のやつ、マジで恥ずかしかったからね」
俺は練習を観に行って、市村のときだけ声を出していた。
「あれは町田に言われてやってたんだよ」
「そうなんだ」
「うん。でも、俺にも応援したいって気持ちはあったから」
「熊谷君が私の時だけ声出すからもう、からかわれちゃって」
「ごめん、ごめん」
「熊谷君、うちの部員には彼氏認定されてるから」
「そうなのか?」
「うん。私は否定したんだよ。でも、みんなふざけて彼氏、彼氏って言ってくるし」
まあ、男子が一人で応援に来てるからそう思われてもおかしくないな。
「だから応援に行くと彼氏って言われたりすると思うけど、まあ気にしないで」
「俺は大丈夫だ」
「……そっか、そうだよね。だって……」
「ん?」
「あ、昨日の話。友達以上って言ってくれたでしょ」
「あ、うん……」
「てことは、つまり……そういうことだよね?」
市村が俺を見た。
これは……つまり、好きって意味だよな
「まあ……な。だから、別に彼氏認定されても問題ないぞ」
「も、問題ないんだ」
「ああ。むしろ――」
「あ、それ以上はまだ言わないで」
「そ、そっか……」
「うん。そういうの、ちゃんとしたいから。怜香からもちゃんとしろって言われてるし」
町田か。あいつはそういうこと言いそうだな。俺にもいろいろ言ってきたし。
「わかった」
「とにかく優勝したら話があるから、終わったら待ってて」
「おう、分かった」
「じゃあ、そろそろ行くね。明日はよろしく!」
「おう!」
「じゃあね!」
市村は去って行った。
試合に勝ったら話か。もちろん話の内容は気になるが、勝たないと話そのものがない。それが市村らしいプレッシャーのかけ方だが、果たして勝てるのだろうか。それが気になった。
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