第34話 遠征前日
お盆休みが終わり、久しぶりのバイトだ。いろいろ忘れていないかと不安だったが、やり始めるとすぐに思い出した。その休憩時間、俺と鎌田と竹本夏鈴さんでまた休憩室に来ていた。
「夏鈴さんはお盆はどこかに行ったの?」
鎌田が聞く。
「ううん。どこにも行けずに家で親戚の相手してたよ」
「そうなんだ。俺も似たようなもんだな。親戚の家に行っただけだし。熊谷は?」
鎌田が聞いてきたのでどう答えようかと考えたところに夏鈴さんが代わりに答えた。
「熊谷君はクラスメイトと遊んだんだよね」
「へえ、珍しいな。あ、まさか、気になる子も一緒か?」
「……まあな」
「やるじゃん、付き合えそうなのか?」
「さあな。まだわからんよ」
「で、誰なの?」
夏鈴さんがまた聞いてくる。
「いいだろ、誰でも」
「クラスメイトなんだから夏休み明けにはバレるからね」
「付き合えればそうなるけど、上手くいかなかったらそのままバレないだろうなあ。教室では話してなかったし」
「そうなの?」
「うん。夏休みに入ってから話すようになったから」
「へぇ。誰だろ……」
しまった、話しすぎたな。
◇◇◇
バイトが終わり、また、夏鈴さんと一緒に途中まで自転車で帰る。
「夏休みに入ってから話すようになったのかあ。私と一緒だよね」
「まあそうだね」
「どうしてこんなに差が付いたんだろ…・・」
「え?」
「あ、なんでもない。気にしないで……熊谷君、その子と付き合いたいんでしょ?」
「まあ、上手くいけばいいとは思ってるけど」
「じゃあ、なんで告白しないの?」
「……向こうがこちらをどう思ってるのか、分からないし。異性として好かれている自信は無いなあ」
「へぇ。そうなんだ。もしかして、片思い?」
「そうかもな」
「ふうん。だったらチャンスあるかも……」
「え、何?」
「ううん、何でも無い。じゃあ、ここで!」
「おう!」
いつの間にかいつもの場所に来ていた。俺は夏鈴さんと別れ、いつもの堤防に行く。
すると、そこには市村がもう来ていた。
「お疲れ!」
俺を見て市村が言う。
「おう、早いな」
「うん。明日から遠征だし、練習は軽めだったから」
「そうか。遠征、準備は出来たのか?」
「まあね。後は結果出すだけかな」
「そうか……あ、そうだ!」
俺はアレを思い出す。慌てて鞄から紙袋を取り出し、市村に渡した。
「はい、これ」
「え、何?」
「開けてみて」
市村は紙袋を開けて中に入っていた物を取り出した。
「お守り?」
「必勝祈願。良かったら持って行って」
「買ってきてくれたの?」
「まあ……それぐらいしかできないから」
「ありがとう! 嬉しい。持って行くから」
「おう」
市村が喜んでいるようで良かった。
「必ず勝ってくるね」
「うん。勝てそうなのか?」
「まあ、私たちが本命だろうね」
「そうなのか?」
「うん。この九州ブロック大会は前の大会の結果を基に組み合わせしてるんだけど、そのときは優勝してるからね」
「強いんだな」
「うん。だから、勝たなきゃいけないし、プレッシャーもあるかな」
「そうか。まあ、気負わずに頑張れ」
「ふふ、よく分かってない熊谷君に言われると何か気楽に行けるよ」
「そうか。確かによく分からずに言ってるな、俺」
「アハハ、そうだね。でも、そういうところが……」
「ん?」
「あ、なんでもない」
そう言って市村は川を見た。
しばらくすると、また市村は俺の肩に頭を預けてきた。
寝ちゃったかな? と思って見てみるが、起きているようだ。
「ごめん、またパワー注入してもらっていい?」
「ああ、いいぞ」
市村の頭の感触にはいつまで経っても慣れそうにない。
俺たちはしばらくその格好のままで居たが、やがて市村が言った。
「よし、オッケー。そろそろ行くね」
「おう、そうか」
市村は立ち上がった。
「宮崎行ってもいろいろメッセージ送ると思うけど、適当に返信して」
「おう、わかった」
「あと……たぶん、夜、電話する。そういうタイミングがあればだけど」
「おう、待ってるな」
「うん。じゃあね!」
市村は自転車で去って行った。
明日と明後日、ここには市村は来ない。俺もバイトは休みだしここに来る意味は無いな。
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