第33話 お盆

 今日の市村は親の実家に里帰りらしい。俺も家族で午前中から祖母の家に行き、昼飯を食べ、もう帰ってきていた。今日は、バイトも無いし、市村に会う予定も無い。暇だな。


 そう思ったら、市村からメッセージが来た。


市村『暇だよー! 何してた?』


熊谷『俺も暇だ。ネットの動画見てた』


市村『何見てたの?』


熊谷『サッカーの解説のやつとか。勉強しようかと思って』


市村『そうなんだ。でも、熊谷君は素人感がいいからあんまり勉強しないでいいよ』


熊谷『そうか。じゃあやめとく』


市村『うん、それでいいから。必要なら私が教えるし』


熊谷『そうだな』


市村『後で電話していい?』


熊谷『いいぞ』


市村『じゃあ、また後で』


 市村とのやりとりは終わった。俺は暇になったのでネットの動画を見る。サッカーの勉強ではなく、コンピュータ関係だ。システム会社でバイトをやったことで、俺はやりたいことがしっかり見えてきた気がしていた。


 しばらくすると、市村から電話がかかってきた。


『ごめんね、今大丈夫?』


「おう、俺は暇だ」


『そっか。実は少し話があって……』


 なんだろう。俺は市村と結構仲良くなった気でいた。まさか、告白……なんて無いか。逆にもう会わないと言われたらショックで寝込む。少しドキドキしながら言った。


「なんだ?」


『前にも言ったんだけど、国体選抜の試合で宮崎に行くんだ』


「そういえば言ってたな」


『うん。土日で行くから明後日からなんだ。言ってなかったなって思って』


「明後日か」


 急だな。ていうか、聞いてなかった俺が悪いか。ということはその遠征の間も……


『うん。だから土日も堤防には来れないから』


「そうか。明日は来るのか?」


『明日は来るよ!』


「わかった。でも、その次は月曜か」


 今まで毎日会ってたのが、今日会えず、さらに明後日とその次も会えないとなると何か寂しいな。


『そうだね……でもメッセージも送るし、電話もすると思うから』


「そうだな。でも……」


『あ、私に会えなくて寂しいんだ』


 市村が茶化して言う。


「まあ、そうだな。ちょっと寂しいよ」


『え!? そんな、マジトーンで言わないでよ……』


「ごめん、市村は頑張ってくるんだから応援しないとな。大変なんだろ? 国体だっけ」


『うん。熊本県代表だからいつものメンバーじゃ無いし。急造チームだよ』


「そりゃ、大変だな。でも、県代表なんてすごいよ」


『まあそうだね。せっかく選ばれたんだし頑張るよ』


「おう、頑張ってこいよ」


『うん! じゃあね』


「おう」


 電話は切れた。国体選抜か……。やっぱり勝って欲しいな。

 宮崎だし、試合を見に行けないのがもどかしい。


 そのとき、俺の部屋の扉が開いた。


「お兄ちゃん、また市村先輩と電話してたでしょ」


 妹の優子だ。


「お前、盗み聞きするなよ」


「聞こえてきたんだもん。『ちょっと寂しいよ』とか」


「おい、やめろ!」


 恥ずかしいところを聞かれてしまっていた。


「市村先輩、国体選抜の試合だよね」


「そうだな。今度の週末だそうだ」


「明日は会うんでしょ」


「まあな」


「じゃあ、何か渡したら? お守りとか」


「お守りか……」


 自転車でひとっ走り行けば加藤神社で勝利のお守りを買えるな。


「よし、行ってくる!」


 俺は家を飛び出した。


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