第35話 遠征初日

 土曜日。市村は宮崎に遠征だ。俺は特にやることも無く、家で動画でも見ていた。すると、市村からメッセージが早速来た。


市村『今、バスだよ。高速に入って暇だー』


熊谷『俺も暇だよ』


市村『何してた?』


熊谷『また動画見てた。パソコン関係の』


 そう返したが市村から返信が来ない。10分後ぐらいにようやく来た。


市村『ごめん、怜香に絡まれてた』


熊谷『町田か。一緒なのか?』


 選抜メンバーと言うからてっきり、同じ高校は居ないのかと思っていた。


市村『うん、今隣に居てうるさいんだよね。スマホ見てくるから必死に隠したよ』


熊谷『別に見られてもいい会話だろ』


市村『そうだけど私が男子とやりとりしてるのが珍しいらしくて』


熊谷『そうなのか?』


市村『うん、熊谷君ぐらいだから』


熊谷『そうか。何か嬉しいな』


市村『照れるからストレートに言わないで』


熊谷『ごめん』


 それからまたしばらくメッセージは来なくなった。


市村『ごめん、また怜香がうるさくて。トンネルも多くなって電波も悪いからまた後でね』


熊谷『じゃあな』


 しかし、町田も一緒なら市村も寂しく無さそうだな。


 その後は連絡も来ないまま午後になった。

 そろそろ試合の時間のはずだ。しかし、国体の予選の試合が中継があるわけも無く、試合の経過は当然分からない。だが、SNSで検索してみると試合を実況しているアカウントが見つかった。おれはそれを見ることにした。


実況アカ『熊本、優勢に試合を進めている』


実況アカ『熊本、町田のシュートはキーパー正面』


実況アカ『熊本、市村のシュートは惜しくも外れる』


 優勢のようだが、なかなか点が入らないようだ。しかし、前半も終わりかという時間帯で朗報が入った。


実況アカ『熊本、市村のシュートで先制』


「よし!」


 俺は一人、部屋でガッツポーズをした。

 後半に入り、今度は相手チームの攻勢が続いているようだったが、結局一点を守り抜き、熊本選抜は1対0で勝利し、明日の決勝に駒を進めた。


 夜になり、市村からメッセージが来た。


市村『勝ったよ!』


熊谷『おめでとう』


市村『今電話していい?』


熊谷『いいぞ』


 市村から電話が来た。


『今大丈夫?』


「ああ、いいぞ」


『今日はゴール決めて勝ったよ、1対0!』


「おめでとう。SNSの実況で見てたよ」


『え、そんなのあるんだ』


「うん。はらはらしたよ」


『後半、やばかったけどね。何とか乗り切れた! これもお守りのおかげかも』


「そ、そうか」


『うん。私がお守り持ってるの怜香にバレちゃって、大変だったよ』


「何が大変だったんだ?」


『彼氏からもらったお守りだって怜香が言ったもんだから、チームメイトが大騒ぎしちゃって』


「そうか」


『もちろん、否定しておいたからね。でも、その騒動でみんなリラックスできたかも』


「だったら、ほんとにお守りの効果あったな」


『うん! ほんとありがとう』


 そのとき、遠くから何か声が聞こえた。それに市村が言い返す声が聞こえる。


『彼氏じゃないって言ってるでしょ』


『ごめん、ごめん、また怜香が絡んできて』


「そうか」


『そろそろ行かなきゃいけないみたい。またね!』


「おう、明日もがんばれよ」


『うん!』


 電話は切れた。そんなに何度も彼氏じゃないって言われるのも、複雑な気分だ。


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