第63話 二学期(最終話)

 月曜日。いろいろとあった夏休みが終わり、今日から二学期だ。久しぶりに制服を着て、俺は学校に向かった。時間の感覚を忘れ、俺は早めに来てしまった。駐輪場に自転車を止め、教室に入るとまだあまり人は居なかった。仕方なく俺は自分の席でスマホを眺める。


 しばらくすると、だんだん人が多くなった。そこに長島と町田のカップルが入ってきた。


「おはよう」


「おう!」


 長島が席に座る。


「彼女はまだか?」


「だな」


 すると、今度はそこに竹本夏鈴さんが入ってきた。


「おはよう!」


 さすがクラスの人気者。みんなに挨拶をしている。俺と一緒にバイトしていたとは思えないな。そう考えていると夏鈴さんが俺に近づいてきた。


「おはよう、熊谷君」


「お、おはよう」


「……夏鈴さんって言ってくれないの?」


「か、夏鈴さん、おはよう」


「うん、おはよう」


 そう言って夏鈴さんは自分の席に着いた。


「怜香に聞いてはいたけど、竹本さんといろいろあったんだってな」


 今のを見ていた長島が言う。


「まあな。いろいろあったけど、結局はバイト前と関係は変わらないよ」


「そうか。だったらいいけどな」


 そう長島が言ったところで市村亜衣が教室に入ってきた。


「おはよう!」


「あ、亜衣、おはよう」


 クラスの女子達と挨拶している。そして、俺のところに来た。


「おはよう、秀明」


「おはよう、亜衣」


 その様子を見て、クラスのみんなが驚いている。


「あ、亜衣!? 夏休みの間に2人仲良くなったの?」


 女子の一人が市村に聞く。


「うん、付き合ってるよ」


 市村は軽く言った。


「「えー!!」」


 女子たちが大きな声を上げた。他のクラスメイトも唖然として俺たちを見ている。


「ちょっと、どういうこと!? 詳しく教えてよ」


「え?」


「いいから」


 市村は女子達に引っ張られていった。


「大変だな……」


 そう思っていると隣のクラスの鎌田がうちのクラスに来ていた。


「見たぞ、ほんとに付き合ってるんだな」


「ほんとだよ」


「お前、マジでうらやましいやつだな。ラッキーなやつめ」


「自分でもそう思うよ」


「せいぜい長く続くようにがんばれよ」


 そう捨て台詞を言って鎌田は教室を出ていった。と思ったが、すぐに出て行かず、夏鈴さんに話しかけている。あいつもこの夏の幸運をこれからにつなげたいようだ。


 ふと見ると市村は町田と一緒になって俺とのことを女子達に説明しているようだ。っていうか、よく見ると町田が一人でしゃべってないか? 少し声が聞こえてきた。


「……で、急に調子が良くなったと思ったら、熊谷と会ってたからだったのよ」


「えー! すごい、愛の力だね」


「それで熊谷も毎試合見に来て、毎回手振ったりしてたんだよね。それで付き合ってないって言うから…・・」


 俺は長島を見た。


「お前の彼女、しゃべりすぎじゃないか? なんとかしろよ」


「……俺が何とか出来ると思うか?」


 町田の怖さはこの夏で俺もよく分かった。


「出来ないだろうな」


「そういうことだ」


 町田と付き合っている長島のことを夏休み前まではうらやましさしか感じていなかったが、今は尊敬すら感じる。


「がんばれよ」


 俺は長島に言った。


◇◇◇


 二学期の初日だから午前中で学校は終わりだ。すぐ放課後になった。

 すると、市村が俺の席に来る。


「秀明、一緒に帰ろ」


「そうだな」


 昨日試合があったので今日は練習が休みらしい。俺は帰ろうと立ち上がった。

 が、周りの目が気になる。何かみんな見ているような……


「ほんとに付き合ってるんだねえ」


 女子が言ってきた。


「まあな」


「ずばり、亜衣のどこが好きになったの?」


 女子が聞いてくる。


「うーん、守ってあげたくなる感じかな」


「「キャー!」」


 女子達は騒ぎ出した。


「秀明、嬉しいけど恥ずかしいよ。帰ろう」


「わかった。亜衣、行くか」


「うん!」


 市村は俺の手を取って軽い足取りで教室を出て行く。俺もそれに続く。

 今日は天気もいい。帰りに堤防によって川を見て行くか。甘いコーヒーも買わなきゃな。


(完)


―――――――

夏休みの期間を対象とした小説ですので、予定通りこの作品はここで終了となります。これまでたくさんの方にお読みいただき、本当にありがとうございました。


公開前には不安もあったのですが、予想以上の方に読まれ、私の作品では最も読まれた作品となりました。大変ありがたいです。コメントも感謝しております。


次回作は一週間以内には発表したいと思います。少しテイストが変わりモテる友人の親友ものになる予定です。



※「声が大きい元気系美少女が陰キャの俺を好きらしい」は引き続き並行して連載を行っております。こちらはまだ夏休みに入ったばかりで現実から遅れておりますので、引き続き夏を楽しみたい方は是非。

https://kakuyomu.jp/works/16818093076780722449


※追記

新作ラブコメ「俺の周りの女子はみんな親友を好きになる、はずだった」の公開を開始しました。

https://kakuyomu.jp/works/16818093084035418270


※追記:秘密の関係ものの新作ラブコメを公開しました。


アリスとたっくん。ときどき黒猫 ~公園で偶然出会った女子に猫のなで方を教えたら~

https://kakuyomu.jp/works/16818093087542087803

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る