SS クリスマスイブ①

(クリスマスイブ特別編を書きました。全4話予定)


 終業式が終わると、俺と長島の席にポニーテールの少女とショートカットの少女が近づいてきた。ポニーテールは町田怜香まちだれいか、長島の彼女だ。そしてショートカットは市村亜衣、俺・熊谷秀明の彼女だ。


「勝弘、もうお昼食べる?」


「ああ、一緒に食べようか」


「うん」


 そう言って町田は長島のすぐ隣に椅子を寄せて座る。そして、俺の隣には市村亜衣が同じように椅子を寄せて座った。


「あれ? 熊谷も弁当食べるの?」


 弁当を出した俺に町田が聞く。


「そうだよ」


「部活あるんだっけ。情報処理部だったよね」


「いや、今日は無いよ」


「じゃあ、なんで?」


「そりゃ、亜衣と一緒に帰りたいし。練習見学するから」


「そうなの? 聞いてなかったよ、亜衣」


「ごめん、何か恥ずかしくて……」


 市村亜衣は頬を赤く染めて言った。


「いや、あんたたち、もう付き合いだして4ヶ月ぐらい経ってるでしょ。なんでそんな初々しいのよ」


「そ、そうかな……」


「亜衣なんて、初めての彼氏でも無いくせに」


「それ言わないでよ。実質は秀明が最初の彼氏なんだから」


「実質ね……まあ、熊谷が亜衣を大事にしてるってのは分かるけど」


「そりゃそうだ。俺にとっては亜衣は世界で一番大事だからな」


「うわあ、こんなところで惚気ないでよ。ここ教室よ。まだ人居るよ」


「そ、そうか……」


 失敗したな。何人かに見られてしまった。ただでさえ、俺が市村亜衣とつきあっているのは釣り合ってないと思われてるのに。


「いいよ、気にしないで。私も秀明が一番大事だし」


 市村亜衣は弁当を食べながら普通にそう言った。


「はいはい、ごちそうさま」


 町田があきれている。


 そこに一人の女子が近づいてきた。竹本夏鈴だ。


「あの、熊谷君……」


「え?」


「冬休みってバイトしないの?」


「バイト? ああ、しないよ」


「え、そうなんだ。私、てっきり……」


「夏鈴さんはするの?」


「うん……」


「そうか。鎌田のやつはすると言ってたから、よろしくな」


「わかったわ。じゃあね……」


 竹本夏鈴は去って行った。


「夏鈴、まだまとわりついてるの?」


 町田が俺に聞いてくる。


「いや、話したのも久しぶりだぞ。だからバイトしないのも言ってなかったし」


「なら、いいけど。亜衣を心配させないでよ」


「亜衣はこれぐらいで、心配しないよ。なあ?」


 そう言って亜衣を見る。


「も、もちろんよ……アハハ……」


 そう言いながら卵焼きを箸でつかもうとして何度も失敗している。これは動揺してるな。


「亜衣、俺はお前だけだから」


 俺はそう言って亜衣の肩をつかんだ。


「うん、信じてる。信じてるけど……ちょっと不安かな」


「不安にさせたらごめん。でも、今日からは毎日練習も見学するから、それで許して欲しい」


「ちゃんと家まで送ってよ」


「もちろん」


 俺たちは見つめ合う。


「はいはい、そこまでにしておいてね。ここは教室だからね」


 そうだった。俺と亜衣はあわてて目をそらし、弁当を食べ始めた。


◇◇◇


 終業式も終わったのに俺が弁当を食べている理由は亜衣の練習見学だ。弁当を食べ終え、町田と市村亜衣はさっさと部室に向かった。俺は少し情報処理部の部室に立ちよって来ている部員と話した後、グラウンドに向かう。まだ、亜衣たちは出てきていなかった。


 だが、一人、男子が先に来ていた。関巧己。1年生の女子サッカー部員

・森千尋の彼氏だ。


「熊谷先輩、遅いですよ」


「ごめんごめん。って、まだ部員も出てきてないだろ」


「そうですけど、俺が一人で暇でしたから。今日から毎日来るって言ってたから早めに来たのに」


「すまんな」


 そんな話をしていると部員達が現れた。森千尋は表情は変えないが、関に小さく手を振る。関も手を振り返えしていた。


 やがて、市村亜衣が町田とならんで出てきた。亜衣も俺に手を振ってくれる。しかも笑顔だ。俺も振り返した。


「……いつも思うんですけど市村先輩の笑顔ってずるいですよね」


「なんでだよ」


「だって、千尋は笑顔なんて滅多に見せないし」


「そういう個性だろ」


「でも、市村先輩の笑顔はかわいいっていつも思ってるでしょ」


「当たり前だ。お前だって滅多に見せない森の笑顔を独占できるんだからいいだろ」


「まあそうですけどね」


 ときどきこいつは俺に張り合ってくる。それぞれの彼女でいいところがあるからいいだろ、と思うんだけど俺もつい言い返してしまった。。


「……それにしても練習終わったら先輩達はどこか行くんですか? クリスマスマーケットとか」


「まあな。一応行く予定だ」


「いいですねえ」


「お前達は行かないのか?」


「はい、今日は千尋はうちに来る予定になってるので。うち、遠いですからどこにも寄らずに帰ります」


「なるほどな。家でクリスマスパーティーか」


「はい、小さい頃からお互いの家でやってるんで」


 この二人は幼馴染みカップルだったな。



---------

(②へ続きます)


※連載中「アリスとたっくん。ときどき黒猫 ~公園で偶然出会った女子に猫のなで方を教えたら~」

https://kakuyomu.jp/works/16818093087542087803


※連載中「 三つ編み眼鏡の文学少女好きな俺の前に理想の女子が現れた! と思ったけどなんか違う」

https://kakuyomu.jp/works/16818093090433111285

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