第25話 他校と練習試合
土曜日。今日は学校での練習試合がある。夕方が近くなり、俺と優子は家を出た。自転車で学校に着く。そして、運動場に向かった。
「あ、優子ちゃん!」
早速、市村が優子を見つける。
「先輩、お久しぶりです。試合観に来ましたよ」
「ありがとう! 今日はかっこいいところ見せるね」
「期待してます!」
選手達はグラウンドに出て練習が始まった。優子は食い入るように練習を見ている。そこに、男子が一人やってきた。相手高校のジャージを着ている。
「あれ? 高橋先輩」
優子がその男子に声を掛けた。先輩か。
「おう、熊谷か。観に来てたんだ」
「はい、高橋先輩も練習試合ですか?」
「まあな。男子の試合は終わったから女子の方を見ようと思って」
「そうなんですね」
「で、この人は熊谷の彼氏か?」
俺を見て高橋が言う。
「ち、違いますよ。兄です」
「……熊谷優子の兄の秀明です」
俺は挨拶した。
「失礼。てっきり彼氏かと思って。お兄さんですか。俺は高橋海斗と言います。熊谷とは中学の時に同じサッカー部でした」
「なるほど」
何がなるほどかはよく分からないが俺はそう答えた。
すると、優子が俺の服の袖を引っ張る。何だろう。小声で何か言おうとしているので耳を貸す。
(この人が市村先輩の元カレ)
そういうことか。中学時代に付き合っていたというやつだ。今は別の高校なんだな。
そして、試合が始まる。まず選手達が整列し挨拶した。そして、市村が俺に小さく手を振ってきた。俺は手を振り返す。すると、隣に居た高橋も手を振り返していた。
お前に振ったんじゃないんだけどな。俺はそう思いつつも何も言えなかった。
試合はこの間ほど一方的では無かったが、うちの高校が優勢に試合を進めた。しかし、シュートが入らず先制できない。もどかしい展開が続いたが前半終了間際に市村がヘディングでゴールを決めた。
「あ、すごい!」
優子が手を叩いて喜んでいる。俺も市村に拍手を送る。元カレの高橋もそうだ。
市村は倒れて痛そうにしていたが、起き上がり、俺たちに手を振った。だが、高橋に気がついたのか、すぐに冷静な顔に戻っていた。
後半、開始直後に今度は市村のパスから町田が決め、結局2-0で勝利した。
試合終了後に市村が俺たちのところに来た。
「優子ちゃん、どうだった?」
「やっぱり、市村先輩すごいです!」
「そう、よかった。まあ、一点は決めたしね」
「よう、久しぶりだな」
そこに高橋が口を出してきた。
「……なんでこっちに居るのよ。あんたの高校はあっちでしょ」
市村が冷たい口調で言う。こういう口調は俺も初めて聞いた。
「そりゃ、亜衣に挨拶しようと思って」
「名前で呼ばないでよ。高橋君」
「なんでだよ、海斗と呼んでくれよ」
「呼ぶわけないでしょ。もう近づかないでよね」
そこに相手高校の方から声がかかった。
「おーい、高橋行くぞ」
「亜衣、またな」
そう言って高橋は離れていった。
「……はぁ、ごめん。元カレなんだ」
市村が俺に言う。
「優子から聞いたよ」
「そっか。せっかく試合で結果出したのに、いい気分が台無しだよ」
「明日、ご褒美やるから」
「ほんと? 楽しみにしてる」
市村はすぐに機嫌が良くなった。
「え、明日も会うんですか?」
優子が市村に聞いた。
「うん……ロアッソのチケットが手に入ったからね」
「え、いいなあ! 私も行きたい!」
「ごめん、2枚しか無いから」
「そっかあ。え、2枚? 2人でサッカーデートですか?」
「大きな声で言わないでよ。みんなには秘密なんだから」
「あ、すみません。兄のこと、よろしくお願いします」
「うん! じゃあね。熊谷君はまた明日!」
そう言ってグラウンドに戻っていった。
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