第24話 詮索
金曜日。今日もバイトだ。休憩時間にまた三人で話していると夏鈴さんが昨日の話の続きを始めた。
「鎌田君は熊谷君の気になる人って誰か知ってるの?」
「いや、聞いてないな」
「そうなんだ。鎌田君からしたら違うクラスになるからわかんないよね」
「え、クラスメイトなのか?」
鎌田が驚いて俺に聞いてくる。これはごまかしようが無いな。
「まあな」
「へー、でも確かに熊谷と同じクラスの女子って言われても俺はよく知らないな。それこそ夏鈴さんぐらいだし」
「私のことは知ってたんだ」
「そりゃ、有名人だもん。ウチの学年で知らない人は居ないでしょ」
「そうなんだ」
「うん。他に熊谷と同じクラスの女子って言うと、誰が居たっけな。あ、同じ中学だった市村が居たか」
俺は一瞬ぎくっとしたが、なんとか態度には出さなかった。
「市村さんは同じ中学なんだ」
夏鈴さんが聞く。
「うん、そうだよ。中学の頃からサッカーで有名だったし。でも、市村は確か彼氏が居たような……」
こいつ、よく知ってるな。俺も知ってたけど。今は別れているという情報は鎌田も持っていないようだ。
「そうなんだ。知らなかった」
夏鈴さんが言う。
「それ以外はもう分からんなあ。市村と同じサッカー部の町田は有名だから知ってるけど、こっちも彼氏持ちだよな」
「うちのクラスの長島君ね。バスケ部の」
夏鈴さんが言う。
「そうそう。となると、もうわからん」
「そっかあ」
「俺のことはいいから。上手くいけばそのうち分かるよ。上手くいかなかったときは言いたくないし」
「上手くいかなかったときも教えてくれよ、地雷踏みたくないし」
鎌田が言う。
「わかった、わかった」
上手くいかない、なんて事にはなりたくないな。
◇◇◇
バイトからの帰り道。今日も夏鈴さんと一緒だ。夏鈴さんはクラスの女子の名前をひたすら挙げて俺に聞いてきた。
「……あ、山口さんとか? 頭いいし、熊谷君好きそう」
「違うから。たとえ合ってても違うってしか言えないからね」
「そっか。ほんとに違いそう。でも誰なんだろう……」
「別にいいだろ」
「気になるし。でも、夏休みも会ってるんだよね。こんなにバイトしてるのにいつ会ってるの?」
「さあね」
俺はごまかした。まさか、これから会うとか言えない。
「まさか……」
夏鈴さんが言う。もしかして何か気がつかれたか?
「な、何?」
「気になってる人って私じゃないよね? 毎日会ってるし」
「なんでだよ、違うよ」
「そっかあ、残念……」
あれ? 残念って言ったような。
「あ、ここだった。じゃあ、また来週!」
「おう!」
今日は金曜だからバイトはまた来週の月曜だな。
◇◇◇
そして、今日はコーヒーを買わずに堤防に行く。すると、もうそこには市村が来ていた。
「お疲れ!」
「お疲れ様」
俺が横に来ると市村は甘いコーヒーを出してきた。
「ほい、約束のブツ」
「ありがとう」
俺はコーヒーを受け取った。早速開けて飲む。うん、久しぶりの味。
「美味しい?」
「ああ、やっぱり、この味だな」
「そっか。買ってきて良かった。これから毎日買ってくるね」
「ありがとう」
「でもなんで、いつもの自販機で買えなくなったの?」
「あー、実はバイトの後輩と途中まで一緒に帰ってて。それでね」
夏鈴さんはクラスメイトだけどバイトでは後輩だからな。
「そうなんだ、なるほどね」
市村は特に気にしなかったようだ。
「で、明日の練習試合は優子ちゃんも来るの?」
「ああ、大丈夫だって」
「そっか、じゃあ先輩のいいところ見せないといけないね」
「明日の相手は強いのか?」
「うーん、この間よりは強いけどね」
そこまでは強くないと言うことか。
「活躍したらまたご褒美用意するよ」
「ほんと? だったら、日曜日のロアッソの試合で何かおごってよ」
「そうだな、食べるところもいっぱいあるんだっけ」
「うん。キッチンカーとか、出店みたいなのとかいろいろあるよ」
「そうなんだ。楽しみだな」
「うん! 19時キックオフだから、晩ご飯代わりだね」
「そうなるな、わかった」
「でも、まずは明日の試合だけどね……」
「そうだな」
「熊谷君、また、ちょっといいかな?」
「え?」
市村は俺の肩に頭を乗せてきた。
「試合前にパワー注入しようと思って」
「そ、そうか……」
俺はやはり緊張してしまう。
市村はしばらくそうしていた。やがて市村が言った。
「よし、パワー注入できた」
「それならよかった」
「うん、じゃあ。明日もよろしくね!」
「おう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます