第48話 決勝②
攻撃をカットされ、相手のカウンターだ。
相手は3人で攻め、こちらは守備2人。急いで選手が引き返しているが、これは間に合わないか。相手のボールを持った選手が中央にボールを蹴る。だが、それがミスキックになり、キーパーが取った。
「助かった・・・・・・」
そのときだった。守備に戻ってきていた森千尋にキーパーがパスし、森千尋が大きく前にボールを蹴った。相手の守備も手薄になっている。ウチのチームで前線に残っているのは市村だけだった。バウンドしたボールに市村がディフェンスよりも先に追いつく。守備陣は追いつけない。市村の前に居るのはゴールキーパーだけだ。市村はキーパーの近くまでドリブルし、シュートを打つ!
と見せかけて切り返してキーパーをかわした。あとは無人のゴールに流し込むだけだった。
「うおおおお!」
「すごい!」
俺と関は立ち上がり思わず抱きついてしまう。市村もチームメイトの元に戻り、町田や森選手と抱き合っていた。
「市村先輩、ハットトリックですよ!」
「ハットトリック!? そうか」
サッカーでは1人で3点取ることをハットトリックということはさすがの俺も知っていた。今まで市村の試合を何試合か見たが、初めてのハットトリックだな。
そのまま試合は終わり、3対2で勝利し、優勝した。
「いやあ、すごい試合でしたね」
「だな、俺も興奮したよ」
「それにしても市村先輩、やっぱりすごいですよ。一人で全得点、ハットトリックですからね」
「みんなのおかげだよ。最後も森のパスだろ」
「ですね。千尋はあそこに市村先輩が残っているのを分かってて蹴ったんだと思います」
「すごいな、よく見えてる」
「影のMVPですね。でも表のMVPは間違いなく市村先輩です」
「だな。ほんとにすごいよ・・・・・・」
そんな市村からこの後、俺に話がある。どんな話だろうか。それを考えると俺は緊張してきた。
◇◇◇
試合が終わっても、続いて表彰式がある。キャプテンの町田が表彰状を受け取っていた。
そして、記念撮影も行われたので、試合終了からかなり時間が経った。
「あ、千尋から連絡来たので行ってきます!」
「おう!」
関はスタンドの外に出て行った。
しばらくすると俺のスマホにもメッセージが来た。
市村『まだ居るよね』
熊谷『スタンドに居るよ』
市村『わかった』
それだけだった。どこで待ち合わせるのだろう。と思ったら、市村がスタンドに入ってきた。俺を手招きで呼ぶので俺はすぐに近づいた。
「あんまり時間無いんだ、ごめん」
「どこで話す?」
「こっち来て」
俺たちはスタンドを降りて道路を挟んだ芝生広場に来た。ここは木で囲まれていて周りからは見えにくい場所だ。その裏に入り、市村は木を背にして立った。俺は市村と向かい合う。
「市村、すごかったな。優勝、それにハットトリックおめでとう」
俺は言った。
「熊谷君、ハットトリックとか知ってたんだ」
「さすがにそれぐらいはわかるよ。まあ、関に言われて気がついたんだけど」
「アハハ、そういうところ……やっぱり好きだな」
「え?」
俺は市村に初めて好きと言われ、驚いて見つめた。
「竹本さんが堤防に居たとき、分かったんだ。自分が熊谷君を好きになってるって。熊谷君は……その、私のこと……どう思ってる?」
市村が俺を見つめた。少し顔を赤らめ、さきほどまでサッカーをしていたときと全く違う顔をしている。俺は正直に答えた。
「俺も同じだよ。市村が好きだ」
「……うん、だったら、お付き合い、させてください」
市村が俺をみつめたまま言った。
「俺で良ければ喜んで」
「熊谷君がいいんだよ、私は」
「俺も市村がいい」
「うん……じゃあ、今日から恋人同士だね」
「だな」
「ほんとはすっごくハグしたいけど、見られたら困るし、汗臭いと思うからまた今度ということで」
「そんなことないけど、確かに見られたら困るな」
「ごめん、時間無くて。もう行かなきゃ」
「だな。急いで戻れよ」
「うん! また連絡する!」
市村は走って行った。
……それでも今の出来事が信じられない。俺と市村、恋人同士になったんだな。
◇◇◇市村亜衣 side
私は慌ててみんなの元に走った。バスを待たせてもらっている。急がないと。
私がバスに乗り込むと町田怜香が言った。
「亜衣、うまくいったの?」
「うん。大丈夫」
「そう」
私は怜香の隣に座る。
「……つまり、告白成功って事よね」
「え? あ、うん……」
「おめでとう!」
怜香が急に大声で言った。
「あ、ありがとう」
「え、なんかあったの?」
周りの部員が怜香に聞く。
「正式に付き合うことになったって」
「「わー、おめでとう!」」
部員みんなが盛り上がりだした。
「優勝に告白成功、最高だ!」
バスの中は最高に盛り上がりだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます