第2話 終業式(市村亜衣 side)

 終業式の日。私、市村亜衣いちむらあいは同じ女子サッカー部の町田怜香まちだれいかがその彼氏と話すのを少し離れたところから見つめていた。


 明日から夏休みだが私の心は暗かった。夏休みと言っても毎日サッカー漬けの日々。大好きなサッカーだけど、最近はつらい気持ちの方が大きくなっていた。原因は私自身にある。スランプ、と言ってもいいだろう。女子サッカー部のエースと言われているのに、とにかくシュートが入らない。インターハイも私が決めきれずに逃し、最近の練習試合でもなかなか入らなかった。


 元々、「ガラスのエース」と揶揄されている。好調の時にはすごいが、不調の時には全然ダメだ。ガラスのようにメンタルがもろい。自分でも分かっているけどどうしようもなかった。


「勝弘、お昼一緒に食べるって」


 町田怜香が戻ってきて私に言う。怜香は彼氏と一緒にお昼か。


「じゃあ、私はサッカー部の部室に行くから」


「うん」


 こういうときは怜香がうらやましくなる。彼氏がいて、いつも気遣ってくれる。それに対し、私は一人。スランプをなぐさめてくれる彼氏なんて居ない。中学の頃、同じサッカー部の彼氏が居たこともあったけど、自分勝手なオレオレ系の人で、そういう男子は苦手になってしまった。どこかに優しい人は居ないんだろうか。


「あ、監督からメール来てた」


 怜香が言う。


「職員室に来いって。はぁ、面倒くさい」


「一緒に行こうか?」


「お願い。なんか困ったときは助けて」


「うん」


「じゃあ行こう」


 そう言いながら怜香が向かう先は彼氏の長島のところだ。私も一緒について行く。怜香が長島君に言う。


「ちょっと職員室行ってくるから」


「おう」


「すぐ連絡する」


「待ってるな」


 その会話を聞きながら私は長島君の隣に熊谷秀明くまがいひであき君が居ることに気がついた。


 熊谷君は中学も同じだけどあまり話したことはない。でも、妹の優子ちゃんが2つ下でサッカー部だから勝手に親近感は持っていた。優しそうに優子ちゃんと話しているところを見たことがある。たぶん、彼女にも優しくしてくれそう。こういう人がもし私の彼氏だったら……なんて妄想しながらふと見てしまい、目が合ってしまう。私は慌てて目をそらした。


 何考えてるんだろう、私……。


 怜香と一緒に私は教室を出た。

 夏休みか。何か特別なことが起こればいいけど、部活で学校と家の往復ばかりじゃ期待できないな……

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