第50話 デート①

 月曜日。俺はバスセンターに来ていた。長島が言うことを信じるなら待ち合わせ時間30分前には来ておかないといけない。そう思い来たのだが、すでに市村は来ていた。


「あ、あれ? 早いね」


「ううん、今来たところ」


「そ、そうか……」


 言われてようやく分かった。相手に気を使わせないために早く来てても「今来たところ」というのか。市村はほんとは何時に来たんだろう。前回のとき、俺、最低だったな。


「亜衣、今日、すごくかわいいな」


 俺は市村の私服を見て言った。水色のシャツにチェックのロングスカートを着ている。そして、俺がプレゼントしたキャップをかぶっていた。


「秀明、もしかしてデートの勉強してきた?」


「え? 何が?」


「会ってすぐ私服を褒めたでしょ。デートの基本だもん」


「そうなのか? 俺は亜衣の服が可愛いって思っただけだ」


「もう、そういうところだよ……」


 亜衣は顔が赤くなっていた。何か変なことを言っただろうか。


「とにかく、行こう!」


 亜衣は俺の手を引っ張った。俺たちはそのままバスセンターに入っていく。これって、手をつないでるよな。俺は緊張してきた。


「亜衣、その……手なんだけど」


「うん。思い切ってつないでみた」


「そ、そうか……照れるな」


「嫌だった?」


「嫌なわけ、ないだろ……」


「そ、そっか……」


 俺たちはそのまま三階に上がった。

 ここにはレストランが何軒かある。


「どこ行く?」


「そうだな……」


 俺は事前にどういう店があるかは調べていた。


「亜衣はアスリートだし、やっぱり肉食べたいか?」


「え? まあ、そうだね。昨日はカロリー消費したし」


「だよな。じゃあ、あそこに行くか」


 俺はハンバーグの店を指した。


「お! いいね! 行こう!」


 市村も喜んでくれたようだ。


 俺は店に入るなり、言った。


「昨日は優勝、そしてハットトリックおめでとう」


「え? あ、ありがとう。改まってどうしたの?」


「そりゃ、これがそのお祝いだからだよ。俺がおごる。何でも食べて」


「そんな……悪いよ」


「前から言ってるだろ。俺のバイト代には使い道が無いって。付き合って初めてのデートで活躍した彼女に飯をおごる、これ以上のいい使い道ある?」


「……そっか、申し訳ない気もするけど、今日は秀明に甘えるよ」


「うん、何でも食べて」


「……食後のデザートもいい?」


「もちろん!」


「やった!」


 市村はとても喜んでいた。早速注文する。料理が来るまで俺たちは思わずお互いを見てしまう。俺はじっと見ていた。市村は顔をそらして言った。


「な、何? 何でそんなに見るの?」


「いや……可愛いなって」


「!! もう、そういうところだよ」


「え、今のダメだった?」


「ダメじゃ無い。今のそういうところが……好きってこと」


 最後は小声になっていた。


「そ、そうか……」


 俺も思わず小声になってしまう。そうこうしているうちに料理が来た。


「うわあ、美味しそう!」


「うん、食べよう」


 市村は次々に食べていく。さすがはスポーツマン。食べるのもトレーニングの一貫だ。あっという間に市村は食べきっていた。


「はあ、美味しかった」


「亜衣、俺のも食べるか?」


 俺のハンバーグはまだ半分ぐらい残っている。


「え、いいの?」


「ああ。俺はそこまで入らないし」


「そうなんだ。じゃあ、遠慮無く」


 市村は俺のハンバーグを自分のフォークで食べた。さすがに俺が食べさせたりするのはまだハードルが高いな。



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