第15話 亜衣と怜香(市村亜衣side)
町田怜香が急にうちに遊びに行きたいと言いだし、私、市村亜衣は拒むことは出来なかった。
堤防ではやっぱり熊谷君が私を待っていたが、なんとか怜香をごまかして家まで来た。
今、怜香は私の部屋で座り、近くのコンビニで買ったプリンを食べている。
「それで、なんで私の家に来たいなんて急に言い出したの?」
私は怜香に聞いた。
「だって、最近急に亜衣の調子が良くなったから。なにかいいことあったのかなって」
「別に何もないよ」
「ふーん……熊谷でしょ」
私は一瞬ぎくっとしてしまう。
「ち、違うから」
「怪しい。さっき、親しげだったもんね」
「たまにあそこで会ってるから。それだけだよ」
「またまた。ほんとは付き合ってるんでしょ」
「そんなわけないでしょ。付き合ってなんてないから」
「でも、たまには会ってるんだよね」
「う、うん……帰り道に偶然会ったときはね」
「偶然ね……それで、試合見に来てって誘ったの?」
「ちょっと試合の話をしたら、そういう流れになっただけ」
「ふーん……誘ったと」
「誘ったけど……別にいいでしょ」
私は認めざるを得なかった。熊谷君、ごめん。
「まあ、亜衣の調子が良くなる分にはいいんだけどね」
「だったら、いいじゃん」
私は少し拗ねて言った
「自分は彼氏居るからって、そんなにいじめないでよ」
「いじめてないよ。まあ、いいんじゃない。亜衣にも彼氏が出来るってことは」
「熊谷君は彼氏じゃないから」
ただの友達だ。彼氏の妄想はしたことはあるけど。彼氏だなんて誤解されたら熊谷君も困るだろうし、しっかり否定しておかなくては。
「でも、亜衣は男を見る目がないから心配だな」
「何よ。熊谷君はやめとけって言うの?」
熊谷君をけなされたようで、ちょっとムッとしてしまう。
「そうじゃないけど……元カレ、なんかやばい感じじゃなかった?」
怜香が言う。中学の頃に付き合っていた元カレは今は他校だけど練習試合でよく試合をしている学校だ。ときどき、私の試合を見に来ては馴れ馴れしく近づいてくる。
「うーん、確かに元カレはね……」
「いつも揉めて、そのあと亜衣は調子落とすでしょ」
「うん……何かイライラして」
「そんなのと付き合ってたんだから、亜衣の男を見る目が心配なのよ」
「前回失敗したから今度は大丈夫」
「ふーん、ん? 今度は? やっぱり熊谷と付き合う気なんだ」
「ち、違うから!」
私はつい大声を出してしまう。
「はいはい、わかった、わかった。熊谷はいい人だもんね」
「う、うん……」
「そっかあ。じゃ、そろそろ帰るかな。亜衣の好調の原因も分かったし」
「もう!」
「あれ、違った?」
「違……わないけど……」
最後は声が小さくなってしまった。
「うんうん、素直でよろしい。じゃあ、帰るね」
「うん」
私は怜香を玄関まで見送った。
はぁ……いろいろばれちゃったけど、怜香だから仕方ないか。
そうだ、熊谷君に電話しよ。今日のこと、謝らないとね。
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